日本実験動物技術者協会平成16年度関東支部第30回懇話会
テーマ「実験動物の福祉を考える」より
~アメリカの実験動物施設運営~

 

(AVA-net会報 2005/5-6 112号掲載)

 
2005年2月19日
神奈川県民ホール小ホール

 
日本実験動物技術者協会は、日々現場で実験動物の世話をする実験技術者の団体です。今年の動物愛護法改正においては、業界団体の中で唯一、実験施設の届出制に賛成の立場を表明しました。その関東支部が開催したシンポジウムにおいても、「実験動物の福祉」がテーマになっていましたので、ご報告したいと思います。

特に、日本の動物実験について、現在多くの実験研究者たちがアメリカ式の自主規制路線の採用を主張、動愛法での届出制に対して、反対の意を表明していますので、実際にはアメリカにも施設の登録制や、当局による査察があることが知られるべきではないかと考え、それらの話題を中心にまとめました。

日本の実験施設も、もし「アメリカ式」を主張するのであれば、この程度の制度は受けいれてもらわなければならないと考えます。

【特別講演】 「米国における実験動物施設運営のあり方」
福崎好一郎(株式会社新日本科学専務取締役)

※新日本科学(SNBL)は、安全性試験等の受託企業。日本法人で初めてAAALAC(国際実験動物管理認定協会)の認定を取得。氏は2000年から4年間、そのアメリカ現地法人SNBL USAを運営、その間にFDA(米国食品医薬品局)によるGLP査察を2回、AAALACの査察を2回、USDA(米国農務省)の査察を毎年、経験したという。

※SNBL USAが受けた主な査察及び認定:
・2000、2002、2004年にFDAの査察
・AAALACの認定
・USDAへの登録(研究施設登録、動物売買免許)
・PHS Animal Welfare(米国公衆衛生局動物福祉)保証の取得
・CDC(米国疾病管理予防センター)動物輸入施設登録・動物輸入許可ライセンス取得

注1・これらのしくみにあたるものは、現在日本にはまったく存在しない。AAALAC認定は国際的なものだが、日本国内にある施設ではいまだ認定がない。 ※現在は取得施設はあります

注2・新日本科学は前臨床試験受託では日本のトップ。大量の動物実験をこなす企業であることも忘れてはいけない。今年の3月、東証マザーズ市場に新規上場をはたすほど、業績を伸ばす。また、中国広東省にサル2万頭収容可能な、世界最大規模の安全性試験受託施設を落成させた企業でもある。


以下公演内容:

●動物の福祉とは

実験動物の福祉、安寧は、すなわち動物の健康からくるのではないだろうか。新日本科学がアメリカに試験施設を持つにあたり、いろいろな人に意見を聞いたが、「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals,1996, National Research Council」に基づいて運営しなさいと言われた。実験動物の福祉については、これを読めばわかると考える。

●査察について

SNBL USAは、霊長類と小動物の前臨床の試験を行う。FDAの通常の査察は2年に1回、USDAは2年に1回。AAALACの査察だけが事前に書面を出し、書面調査があってから行う。

FDAの査察は、いつ来るかわからない。2004年3月、私が帰国し責任者が変わると、4月にすぐ査察が来た。幹部への聞き取りでは、研究所のポリシーと設計・運営について明確に答えられないといけない。組織図や、SOP(標準操作手順書)関連の書類、フロア図、コンピューターソフトのリスト、検査の外注先、職員の研修記録などが必要。ランダムに職員を抽出して、調査もする。

ラボ・ツアーでは、働く人間をつかまえてはインタビューする。建物の中に入ると、どこまでも勝手に見て回る。査察前に、「査察内容に文句を言わない」という誓約書に署名をさせられ、どこを見てもよいことになっている。試験責任者は、試験内容を説明できること。SOPの履歴や、社内教育を重視する。水・エサ・床敷の分析データなども必要。

アメリカのGLP査察も日本のものとあまり変わらないとはいえ、IACUC(動物倫理委員会)と、臨床の獣医の活動などがないとなかなか通りにくい。

●動物倫理委員会(IACUC)

臨床の獣医は、ダイレクトに研究所の所長に報告できる。IACUCも同様だが、さらに動物福祉当局にもダイレクトに報告できる。IACUCは社内の動物実験の監視役で、会社に対しては中立的な立場だ。

臨床獣医師は、米国実験動物協会の認定獣医師が好ましいとされている。責任としては、予防医学や、疾病の監視・診断・治療、麻酔鎮痛処理、術後管理、動物福祉に関する評価、安楽死処置など。安楽死の方法は、米国獣医学会安楽死処置検討委員会報告書にしたがわないと後々問題になる。

試験責任者は科学的側面から試験計画を作成し、獣医師は獣医学的側面から試験を支援する。QAU(信頼性保証部門)はGLPにしたがっているか、IACUCは福祉関連法規に従っているかを監視。この4つのバランスが必要。

IACUCについては、基準などは州によって違う。ワシントン州では、USDAではチェアマンプラス2名。獣医師と社外の人間が入る。PHSについては、5名以上。獣医師、科学者、科学者でない人、社外の人を入れる。AAALACについては3名以上。獣医師、科学者、社外の人。米国法人では、看護師と大学の事務を退職した人などを入れた11名でやっていた。施設の規模によって適切な人数が必要。

IACUCの使命は、動物の使用・管理が法令や指針に沿って行われるよう監視することであり、実験動物を飼育する施設はすべて持たなければいけない。また少なくとも半年に1回は施設を査察し、実験計画の評価・承認を行うだけでなく、職員研修の調査なども行う。法規にあっていない場合は、試験を中止にできる権限を持ち、運営管理者に報告及び助言を行う。委員会の開催は少なくとも半年に1回。これらの資料は査察のときのために保管しなければならない。

●実験計画について

SNBL USAでは、試験責任者は試験計画書(プロトコール)とPRF(Project Review Form)の2種類の実験計画書を作る。GLPで必要とされるプロトコールだけでは、動物福祉の点などで抜けがあるので、PRFも必要。IACUCは、PRFを評価・承認する。

PRFは、不必要な試験の繰り返しになっていないかのデータの添付や、実験従事者の資格や訓練が十分か、一般市民にもわかりやすい言葉で書かれているか、従事者の安全は守られるか、また苦痛やストレスを伴う場合の科学的根拠やエンドポイント(いつ実験を終わらせるか・安楽死にするか)、安楽死処置法などを記載する。また、環境エンリッチメントを与えたくない場合、科学的根拠を書かなければならない。

●その他~結論

AAALACの認定は、とっていないと実験施設として問題があるのではと考えられている。査察は3年ごとで、事前に書面提出をする。この査察で失敗した事例というのは、やはりIACUCの活動・記録が悪かった、または社員の教育が不十分、苦痛・ストレスへの対応が定まってない、などである。

日本の習慣でいいものもアメリカへ持っていった。それは慰霊祭だ。アメリカ人もすばらしいということで参加している。過激なアニマルライツ運動についても、FBIなどとよく連携ができていて、事前に情報が来る。

日本ではアメリカ式とヨーロッパ式とどちらがいいかという話があるが、アメリカは自由にさせているが監視が厳しい。イギリスは届出をして試験責任者が許可をもらう形。これは日本では難しいものがあるので、やはりアメリカ式かと思う。アジア各国でも取得が進んでいるAAALACの認定を利用するのも手だ。個人的には、アメリカの動物福祉法程度なら日本に導入してもかまわないと考える。


※その他この日の発表には以下のようなものがありました。

【特別講演】
青木人志「動物の比較法文化 -動物観・法律観の日欧比較-」

【シンポジウム】
朱宮正剛「実験動物の安寧と飼育環境富化」
丸山みゆき「ビーグル生産場における動物福祉の取り組み」
西村亮平「動物の痛みの評価とその制御」
二宮博義「動物実験代替法の現状と将来」

ほか、一般演題

これらの中で最も興味深かったのは、ビーグル犬を何千頭も飼育する(株)ナルクの話です。実験を行う施設ではなく、実験動物生産施設ですが、社内福祉委員会を設置。作業手順の審議などを行い始めたそうです。動物福祉についてわかっているつもりでも、そうではなかったと気がついたこともあったとか。

ただ、出荷後の孤独な環境に事前に慣れさせてあげることが動物福祉となってしまっている点などは、外から見ると不思議に感じました。(孤独な実験施設の方を変えることはできないのか?) このシンポを通し、海外では実験動物の環境エンリッチメントが進んできている印象を持ちましたが、他の動物を含め、まだまだ「え、動物実験施設ってそんな飼い方するの?」と感じるところが多々あります。

ちなみに、犬は5~6カ月齢での出荷が多いそうですが、登録は親犬のみ。生後90日を過ぎた犬には畜犬登録の義務があり、狂犬病予防法と動物実験の実情はまったく合っていません。

また、動愛法改正で実験動物生産業者も届出(もしくは登録)制にするべきだと考えますが、すでに自治体によっては届出を出しているという説明が会場からありました。たしかに東京都、神奈川県など一部の自治体は、愛護条例の条文中で実験動物生産業者の除外をしておらず、届出が必要なようです。ただし生産施設と営業所が分かれて別の自治体にある場合は、営業所のある自治体には動物がいないので届けなくてよい、動物のいる自治体では販売していないので届け出なくてよいなど、ザル法状態があるそうです(Ava-net事務局調べ)。やはり全国に適応される愛護法での規定が必要なのは言うまでもないと考えます。

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