日本実験動物協会教育セミナー・フォーラム’06参加報告
~「動物実験の適正化と自主管理体制の構築」はうまくいくのか?~

 

(AVA-net会報 2006/11-12 121号)

 

今年(2006年)6月に改正動物愛護法が施行され、同時に各省庁の指針や学術会議のガイドラインが告示・発表されました。それからすでに何カ月かが経ち、「はて、これで何か変わったのだろうか? 何も見えてこない……」と思っていた矢先、日本実験動物協会がセミナーを開くというので、聞いてきました。タイトルは、教育セミナー・フォーラム’06「動物実験の適正化と自主管理体制の構築」となっており、まさに改正法からガイドラインまでの一連の動きを関係者にフォローアップする内容も含まれていました。実験動物技術者(一級・二級の資格保有者)が対象となっており、東京と京都の2会場で行われましたが、ここで紹介しているのは9月28日、東京会場のセミナーの内容と感想です。

法規制の可能性は?

まず、環境省動物愛護管理室から石井敦子氏が、動物愛護法と実験動物福祉の3Rの関係について話し、基準の解説などを行いました。環境省は実験動物福祉は所管するけれども、動物実験の適正化には関与しないという従来の立場での説明です。

ただし、この法律の内容を決めたのは国会議員であり、規制は必要ないとの判断があったから現状自主管理となっているが、それではうまくいかないと今後国が判断した場合には、5年後の再改正時以降、規制によって行政が関与する可能性もあると、少々実験関係者に対して厳しい促しがあったのは救いでした。

現行の基準は遵守義務はありませんが、守らなければ規制がかかるというわけです。

アンケートで調査可能か?

では、実験動物基準が守られ、自主規制がうまくいっているかどうかというのは、どのように判断するのでしょうか。結局のところアンケートに頼らざるを得ないだろうと想像はしていましたが、やはりそのような説明がありました。しかも毎年ではなく、2年に1回になる可能性もあるのだそうです。

では第三者評価機関が?

質疑応答では、5年後の法改正時に第三者評価機関ができていなかった場合、即、法規制につながるのかと懸念する質問がなされましたが、環境省の回答としては、第三者評価機関ができなかったからといって、それが即、自主管理できていないという判断にはつながらないとのことでした。やはり、現実には環境省が厳しい判断を下すことはなさそうな気配です。

施設への立ち入り権などもないまま、「動物福祉は環境省」と切り離されてしまったこと自体が、日本の動物たちにとって非常に不幸なことではなかったかと思います。

ガイドラインはあっても……

続いて、実験動物中央研究所の鍵山直子氏が、日本学術会議動物実験ガイドラインの解説を中心に、動物実験の自主管理についての考え方を示しました。

学術会議のガイドラインは、それを参考にすれば各機関の規程類をうまくつくることができるという見本のようなものであり、省庁の指針類より詳細ではあります。ただ、結局のところ各機関で自分たちの事情に合わせた規程をつくることが推奨されており、「やはり動物実験は、やりたい人がやりたいようにできるのでは」と思わざるを得ませんでした。

たとえば、実験動物の環境エンリッチメントが入っていないという質問には、実験の再現性などの問題とからんで委員のあいだでも議論があり、結局ガイドラインには入れず、各機関の判断にゆだねることになったと回答されていました。(学術会議が推奨しなければ、採用する機関がどれだけあらわれるというのでしょうか?)

規程は守られるのか?

次に、では機関内規程として具体的にはどのようなものが検討されているのか、長崎大学の佐藤浩氏が解説を行いました。今年5月末に国立大学法人医学部長会議が、機関内規定のひな形の作成を国立大学法人動物実験施設協議会(国動協)に要望したとのことで、現在国動協内のワーキングチームでひな形案の検討を重ねてきているとのことです。

質疑応答では、民間企業であれば就業規則とからめることで規程類を守らせることができるはずだが、国立大学では立派なものをつくっても守らせることができないのではないかという質問があり、まったくその通りだと感じました。そして、なんと回答でも「内心無理だろうというのがある」と正直なコメントがありました。

動物福祉のきまりを遵守できるかどうかも、人事考課や給与査定(研究者であればポストや研究費)と絡んでくるような、現実的なしくみが必要だと感じます。

また、事前に計画書を審査することについて、研究の着眼点が知られてしまうことを懸念するような人がまだいましたが、ヒトの研究を対象とする倫理委員会でも同じなのだから、と至極正論で切り返されていました。

自己点検と外部検証の試み

では、きちんとできているかどうかを検証する仕組みについてはどのようなものが考えられるのか、筑波大学の八神健一氏が大学の自己点検と認証機関による外部検証についての話をしました。

外部検証について参考になるのは、学校教育法で定められている大学評価の手法です。これは試行的評価の時期を終え、一昨年すでに第三者認証評価機関による評価が義務化されています。動物実験についても、大学の評価委員会による自己点検だけではなく、その仕組みに準じるような外部検証制度が必要ということでした。

ただし、第三者評価機関はまだのぞむべくもない状況のようで、早急に構築すべきなのは、既存組織による外部検証制度だとして、日本実験動物協会がはじめている「実験動物福祉模擬調査」について説明がありました。

組織外の目が入れば変わる!

最後に、その模擬調査を実際に受けた立場から動物繁殖研究所(財団法人だが、実際には実験動物生産販売を行う民間企業と何ら変わりはない)の佐々木敬幸氏が話をしました。模擬調査は、実験動物生産業者を対象としており、日動協からの調査員の訪問もありますが、文書閲覧中心という点が日本らしいと感じます。

ただ、彼ら自身では問題ないと考えていたにもかかわらず、調査の結果重大な指摘をされたとのことで、「この時から当研究所での実験動物福祉に対する真の取り組みが始まった」という言葉に、それでもやはり組織外の目がはいることは重要なのだと思わざるを得ないものを感じました。

指摘された点は、委員会の委員長が理事長の兼務では責任ある体制とはいえない、安楽死に関する基準が明確でないなどだったそうです。

自主管理はうまくいくのか

この日のセミナーは、自主管理路線を死守しなければならないと考える関係者側の普及活動の一環であったと思います。けれども、法律に3Rの理念が入り、基準やガイドラインが整備される中、では自主管理がうまくいっているのかといえば、まだまだそんなことはないという印象が逆にありました。この日の閉会時の言葉に、「遺伝子組替え生物規制法が守られていない現状がそのことをよく表している」という言葉があり、まったくその通りだ、よく自分たちでわかっているではないか、と思いました。

この10月現在、文部科学省が指針の説明会で全国行脚中ですが、罰則のある遺伝子組換え生物規制法ですら、説明会に参加していた研究機関が違反を行っています。守らなくてもよい指針や基準でいったい動物たちが守れるのか、はなはだ疑問に感じる1日でした。

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