神奈川県 犬、猫等に係る学術研究用譲渡申請書他
神奈川県公文書公開審査会 答申35号
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/johokokai/koukaiseido/35.htm
答申第35号
平成7年3月27日
神奈川県知事 長 洲 一 二 殿
神奈川県公文書公開審査会
会 長 原 寿 雄
公文書の閲覧等の請求拒否処分に関する異議申立てについて(答申)
平成5年12月28日付けで諮問された犬、猫等に係る学術研究用譲渡申請
書及び学術研究用譲渡施設調査票一部非公開の件(諮問第39号)について、
次のとおり答申します。
1 審査会の結論
犬、猫等に係る学術研究用譲渡申請書及びその添付書類並びに学術研究用
譲渡施設調査票のうち非公開とされた部分は、次に掲げる部分を除いて公開
すべきである。
(1)試験研究責任者、飼養管理責任者及び飼養管理従事者に係る氏名・職名
・印影
(2)学術研究機関が他の民間の機関から犬、猫等の譲渡を受けている場合の
当該譲渡機関の名称
(3)特定の民間企業の実験用動物の収容施設に係る平面図
2 異議申立人の主張要旨
(1)異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、平成3年度に15の民間の学術研究機関が神奈川
県動物保護センター(以下「動物保護センター」という。)所長に提出し
た犬、猫等に係る譲渡申請書(以下「本件申請書」という。)及びその添
付書類並びに平成4年度に動物保護センター所長が11の民間の学術研究
機関に対して行った学術研究用譲渡施設の調査及び指導に関する学術研究
用譲渡施設調査票(以下「本件調査票」という。)のうち、①試験研究責
任者、飼養管理責任者及び飼養管理従事者(特定の研究所に係る譲渡申請
書に記載された試験研究責任者及び特定の大学に係る学術研究用譲渡施設
調査票に記載された飼養管理責任者を除く。)に係る氏名・職名・印影(以
下「本件試験研究責任者等情報」という。)、②動物の運搬、飼養管理及
び最終・死体処理に係る委託業者の名称・氏名・所在地・支店名・電話番
号・代表者氏名・廃棄物処理業許可番号(以下「本件委託業者情報」とい
う。)、③学術研究機関が他の民間の機関から犬、猫等の譲渡を受けてい
る場合の当該譲渡機関の名称(以下「本件譲渡機関情報」という。)、④
特定の大学及び民間企業の実験用動物の収容施設に係る二つの平面図(以
下「本件平面図」という。)を、神奈川県知事が平成5年10月18日付
けで非公開とした処分(以下「本件非公開処分」という。)の取消しを求
める、というものである。
(2)異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、神奈川県知事が「①本件試験研究責任
者等情報は、個人に関する情報であって、特定個人が識別され、又は識別
され得ること、②本件委託業者情報、本件譲渡機関情報及び本件平面図を
公開すると、法人等に明らかに不利益を与えると認められることから、神
奈川県の機関の公文書の公開に関する条例(以下「条例」という。)第5
条第1項第1号又は第2号に該当する」とした一部非公開の決定は、次に
掲げる理由から、条例の解釈及び運用を誤っている、というものである。
ア 条例第5条第1項第1号該当の点について
(ア)一般に、自治体から払い下げられた犬・猫は、年齢、個体差、病歴
も不明であり、科学的に有意義な結果を得難いとされている。したが
って、学術研究機関において、払下げの犬・猫は、予備実験や教育実
習用等に使用される場合がほとんどであり、研究の競争性に関与する
ものではない。
(イ)実施機関は、犬・猫の実験用払下げを「学術の向上」という公益上
の大義名分のもとに実施している。また、実施機関が営利追及を目的
とする一部の民間企業に対して県有財産である犬・猫を払い下げる理
由は、それが公益的性格を持つ研究であるためとの説明がなされたこ
とがある。
このように、犬・猫の実験用払下げに関する情報は、公益にかかわ
る情報であることは明らかであり、したがって、その責任者の氏名は
保護すべき個人情報とはいえない。また、動物の生命に損傷と死を与
える実験にかかわる研究責任者には、倫理上の責任が課せられており、
その氏名を隠すことは、県行政に対する県民の不信を招く。
イ 条例第5条第1項第2号該当の点について
(ア)本件委託業者情報について
運搬輸送には輸送業の許可が必要であり、また、動物の死体処理に
は一般廃棄物処理業の許可が必要である。しかし、動物業者の場合は、
このような許可を得ないで輸送や処分にかかわっているケースが多く、
各地で問題が指摘されている。廃棄物の処理及び清掃に関する法律に
基づく許認可業者の一覧表は公開されている。運搬業者についても陸
運局では見せてくれる。業者が許可を取っている適法な業者であれば
隠す必要はない。
愛知県内の動物運搬業者が犬・猫を保健所から動物管理センターに
運ぶ途中でペットショップに横流ししていた事件が報道された。ある
自治体では、研究側が質のよい犬・猫を入手したいがために、職員や
運搬業者にリベートを支払っていたという事例も指摘されている。輸
送業者の公開は、このような不祥事及び違法行為を防止するために最
低限必要な措置である。
様々な危険要因がある実験動物の死体処理に関しては、その処分実
態が公開されなければならない。劇物、病原性微生物、放射線等を用
いた危険な動物実験の実態は、それらを処理する業者にさえ知らされ
ておらず、処理に携わる者にとっても危険である。また、死体処理が
適切になされないおそれがあり、近辺の住民にとっても迷惑である。
平成5年末に大学の動物実験施設で伝染性のある致死的な腎症候性
出血熱ウイルスの抗体を持つネズミが発見されているが、これは実験
施設における動物の取扱いがいかにずさんであるかを証明している。
また、大学で放射線被爆の実験動物を処理に困って構内に埋めたとい
う事件も報道されている。
関西・東海地方の動物実験研究機関約150社から出された実験動
物の死体を無許可で収集運搬処理をしていた業者が、警察に摘発され
る事件があった。この事件により、実験動物の死体処理についての法
律が不備であることが明らかになった。
実験が終わった後の廃棄物の処理の仕方については、近辺の住民に
危険を及ぼすおそれがあるにもかかわらず、これに関する情報が公開
されないのは問題である。動物実験に使用された動物は、感染性廃棄
物に属するものである。最近では、遺伝子組替え、病原性ウイルスの
実験等、病院等から出る感染性廃棄物以上に危険なものが多々あるに
もかかわらず、それらの実態が全く不明であることは問題である。
以上のとおり、違法業者を明らかにするという観点、近辺の住民の
安全性の観点、廃棄物の処理に従事する労働者の安全性の観点等から、
運搬、処分等委託業者の名称等は公開すべきである。
また、実施機関は非公開の理由を「競争上の不利益を招く」として
いるが、動物の運搬や処理の仕事は、長年の間特定の業者に限られて
おり、公開が他社の参入を招いて競争が起こるような事態は考えられ
ない。むしろ、なぜ競争を排除しようとするのか理解に苦しむ。他の
一般業種では競争が原則であり、それによって業務の内容が向上し、
あるいはコストの削減が図られるのであって、この業種だけ特別に競
争をしてはならないというのであれば、その理由を明らかにすべきで
ある。
(イ)本件譲渡機関情報について
実験動物の取扱い業者は限られており、その所在地及び名称の公開
によって、むしろ、違法業者に競争上の不利益を与える必要があると
いうべきである。実験動物業者名や住所は公刊されている印刷物等に
よって公表されており、業界団体名簿もある。行政がこれらの情報を
隠すことは、特定の業者を保護していると受けとられ、何らかの癒着
関係が疑われる。公開することによって、野放し状態の動物実験業者
の違法行為を取り締まることこそが急務である。
(ウ)本件平面図について
著作権とは、著作物の複製、配布等の無断・不正使用を排除するこ
とによって、著作権者に排他的権利を与え、著作物の公表や著作権者
の氏名を表示することによって、権利の所在と著作権使用料の存在を
明らかにするものであり、情報の非公開とは本来意味が異なる。公開
請求した趣旨は、当該施設において実験動物がどのように取り扱われ
ているのかを知ることにある。また、動物の福祉の観点から、当該施
設が画期的な設計をしているというのであれば、他の施設の範となる
べきものであり、他の施設は正当な著作権料を支払ってでもそれを取
り入れるべきである。また、学校法人が所有する教育目的の施設の図
面さえ公開できないというのは理不尽である。
ウ その他
(ア)近年、世界的にも動物実験のあり方自体が見直されつつあり、EC
諸国では倫理的・科学的理由からペットの実験使用は原則として認め
られていない。日本でも実験払下げ廃止の世論が高まり、払下げの廃
止を打ち出している自治体があるが、神奈川県は依然としてこの前時
代的悪習を存続させている。このような払下げが続く限り、県民は県
有財産となった動物が、どのような用途で実験用に払い下げられるの
か、その実験内容、施設の状況、実験後の処分実態、責任の所在を知
る権利を有する。
また、実施機関がこのような情報を公開することによって、飼い主
に対して終生愛情飼育の必要性を強く訴えることができ、動物保護行
政にもつながる。
(イ)実施機関は、犬・猫の実験用払下げは「科学技術の発展に有効であ
る」としているが、実験内容の事前申請や結果報告を義務づけていな
い以上、それを証明するものがなく、公正さに欠ける。県民が恐れて
いるのは、実験室という密室の中で動物に対していかなる虐待行為が
なされても、それを監視・予防するシステムが全くないという点にあ
る。実施機関が犬・猫の実験払下げをあくまで続けるというのであれ
ば、最低限、払下げ事業にかかわる情報はすべて公開すべきである。
3 実施機関の職員(動物保護センター所長)の説明要旨
実施機関の職員の説明を総合すると、本件試験研究責任者等情報、本件委
託業者情報、本件譲渡機関情報及び本件平面図を非公開とした理由は、次の
とおりである。
(1)本件文書について
ア 本件申請書について
神奈川県動物保護管理条例第24条により、神奈川県知事は、動物保
護センターが引き取った犬・猫、捕獲・収容した犬、猫等の動物うち一
定期間内に飼主が判明しないもの等で、収容期限が満了したものを、教
育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供し
ようとする者に譲渡することができるとされている。
また、犬、猫等の動物の譲渡要領(以下「譲渡要領」という。)では、
動物保護センター所長は、学術研究機関から学術研究用に供するために
犬、猫等の譲受けの申出があった場合は、譲渡申請書を提出させ、使用
目的・方法、収容施設、飼養管理及び学術研究利用後の措置等について
審査し、適当と認めた場合は、動物保護センター所長が定める年間譲渡
計画に基づき、譲渡契約を締結するものとされている。
譲渡申請書の記載内容は、申請者の住所・名称、代表者等の氏名・職
名、使用目的、年間使用見込頭数、譲渡期間、収容施設の所在地・収容
規模・主要構造、運搬方法、運搬者、殺処分の方法、死体処理の方法、
試験研究責任者の氏名・所属・連絡先、飼養管理責任者及び従事者の氏
名・所属、使用状況及び他の機関から譲渡を受けている場合の機関名・
頭数であり、その添付書類として構造設備の図面、排水設備の図面等が
ある。
本件申請書は、平成4年度における譲渡について、15の民間の学術
研究機関が提出した譲渡申請書である。
イ 本件調査票について
動物保護センター所長は、譲渡要領に基づき、譲渡した犬、猫等の動
物の飼養又は保管に関し、不適切な取扱いがないよう、譲渡先である学
術研究機関に対し学術研究用譲渡施設の調査及び指導を行っているが、
学術研究用譲渡施設調査票は、この調査及び指導の結果を記録したもの
である。
学術研究用譲渡施設調査票の記載内容は、調査施設の名称・所在地、
申請者の代表者等の氏名・職名、実施者の氏名・所属・職名、構造・運
搬・衛生管理・飼養管理・殺処分の方法・最終処理に係る調査結果、学
術研究機関の要望及び指導事項である。
本件調査票は、平成4年度において11の民間の学術研究機関に対し
て行われた学術研究用譲渡施設の調査及び指導に関する学術研究用譲渡
施設調査票である。
(2)条例第5条第1項第1号該当性について
ア 本件試験研究責任者等情報は、個人の氏名、職名及び印影であり、特
定の個人が容易に識別される。当該部分を公開すると、当該個人が特定
の大学、研究所、企業等に雇用されていることを明らかにすることにな
り、かつ、当該個人がいかなる部署に所属し、いかなる地位を有してい
るかをも明らかにすることになる。
したがって、本件試験研究責任者等情報は、条例第5条第1項第1号
本文に該当する。
イ 本件試験研究責任者等情報は、①法令の規定により閲覧できるとされ
ている情報ではなく、②県が公表を目的として取得した情報ではなく、
また、従来から慣行上公表されており、かつ、今後公表してもそれが他
人に知られたくない情報でないことが確実である情報でもなく、③法令
の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に
際して作成し、又は取得した情報でもない。
したがって、本件試験研究責任者等情報は、条例第5条第1項第1号
ただし書のいずれにも該当しない。
(3)条例第5条第1項第2号該当性について
ア 本件委託業者情報について
(ア)本件委託業者情報に係る委託業者は、動物の運搬・死体処理・飼養
管理を業としており、取引きの状況が明らかになることにより同業他
社の参入等、明らかに競争上の不利益を与えると認められるので、条
例第5条第1項第2号に該当する。
(イ)本件委託業者情報が条例第5条第1項第2号ただし書ア、イ及びウ
に該当する具体的、客観的事実はない。
イ 本件譲渡機関情報について
(ア)他の譲渡機関の名称については法人の取引先に係る情報であり、公
開することにより同業他社の参入等、明らかに競争上の不利益を与え
ると認められるので、条例第5条第1項第2号に該当する。
(イ)本件譲渡機関情報が条例第5条第1項第2号ただし書ア、イ及びウ
に該当する具体的、客観的事実はない。
ウ 本件平面図について
(ア)学術研究機関の実験用動物の収容施設に係る平面図は、学術研究機
関が動物舎を新築又は変更した場合に、その配置、構造等を承知して
おくため、譲渡申請書に添付させている。
本件平面図は、設計者がその知識と技能を駆使して創作した貴重な
知的生産物であり、設計者にとっての貴重な財産である。したがって、
財産上、人格上の権利である著作権が設計者にある。
本件平面図は、学術研究機関が円滑に研究を進めるに当たって、手
術室、処置室、洗浄室等の動物を取り扱う上での合理的な建築上の配
置に工夫をこらしているものである。
したがって、学術研究機関と設計者の有する著作権及びノウハウを
保護する必要があり、本件平面図を公開すると、これらの者に明らか
に不利益を与えると認められるので、条例第5条第1項第2号本文に
該当する。
(イ)本件平面図が条例第5条第1項第2号ただし書ア、イ及びウに該当
する具体的、客観的事実はない。
エ その他
(ア)動物保護センターにおいては、犬、猫等を引き渡す際には、平成5
年度から、学術研究機関が運搬業者に運搬を委託している場合であっ
ても、学術研究機関の職員に立会いを求めていること、さらには、個
体の識別ができるように個々の動物の種類、年齢、性別、特徴等を記
録させた上で運搬させていることから、譲渡した犬、猫等を運搬委託
業者が学術研究機関までに運ぶ際に横流しをすることはあり得ないと
考えている。また、過去にそのような事実もない。
(イ)動物保護センターは、実験動物の死体を業者に委託して処分を行っ
ている学術研究機関に対して、実験後は、適切な消毒等の処置を施し
た後、汚液等が施設内外に飛散しないように耐水性のビニール袋に入
れ、直ちに凍結処理をして、それを保管した後に搬出すること、さら
には、実験動物の死体処理等に必要な許可手続きに関し、学術研究機
関に対する説明会や立入調査の際に指導している。このように、危険
要因を外部に出さないことについては十分指導している。また、動物
保護センターが犬、猫等を譲渡した学術研究機関から危険要因が外部
に出たという事実がないことを掌握している。
4 審査会の判断理由
(1)本件文書の性格等について
ア 本件申請書について
神奈川県動物保護管理条例第24条により、神奈川県知事は、動物保
護センターが引き取った犬・猫、捕獲・収容した犬、猫等の動物を、教
育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供し
ようとする者に譲渡することができるとされている。本件申請書及びそ
の添付書類は、譲渡要領に基づき、動物保護センター所長が犬、猫等を
譲渡する学術研究機関として適当かどうかを審査する目的で、民間の学
術研究機関から提出させたものであると認められる。
イ 本件調査票について
動物保護センター所長は、譲渡要領に基づき、譲渡した犬、猫等の動
物の飼養又は保管に関し、不適切な取扱いがないよう譲渡先である学術
研究機関に対し学術研究用譲渡施設の調査及び指導を行っている。本件
調査票は民間の学術研究機関に対し行った当該調査及び指導の結果を記
録したものであると認められる。
(2)条例第5条第1項第1号本文該当性について
ア 条例第5条第1項第1号は、個人を尊重する観点から、知る権利の保
障と個人に関する情報の保護という二つの異なった側面からの要請を調
整しながら、個人に関する情報を原則的に非公開とすることを規定して
いる。
そして、同号本文は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別
され、又は識別され得るもの(以下「個人情報」という。)を非公開と
することができるとしている。
したがって、同号本文は、個人情報はプライバシーに該当するものは
もとより、プライバシーであることが不明確なものであっても非公開と
することを明文をもって定めたものと解される。
イ 本件試験研究責任者等情報は、特定の個人の氏名、職名及び印影であ
り、これは特定の個人がどこの大学、研究所、企業等に雇用され、どの
ような職務に従事しているかが判明する情報である。したがって、本件
試験研究責任者等情報は、明らかに特定の個人に関する情報であって、
特定の個人が識別されるものであることから、条例第5条第1項第1号
本文に該当すると認められる。
(3)条例第5条第1項第1号ただし書該当性について
ア 条例第5条第1項第1号ただし書は、個人情報であっても、例外的に
公開できる情報について規定している。
イ 条例第5条第1項第1号ただし書ア該当性について
(ア)条例第5条第1項第1号ただし書アは、何人でも法令の規定により
閲覧することができるとされている情報については公開することを規
定している。
(イ)本件試験研究責任者等情報は、何人でも法令の規定により閲覧する
ことができる情報とは認められず、同号ただし書アには該当しないと
判断する。
ウ 条例第5条第1項第1号ただし書イ該当性について
(ア)条例第5条第1項第1号ただし書イは、公表することを目的として
作成し、又は取得した情報については公開することを規定している。
ここでいう「公表することを目的として作成し、又は取得した情報」
は、広報紙等を通じ広く県民に積極的に周知する情報だけではなく、
条例第2条が「公文書の閲覧及び公文書の写しの交付を求める権利が
十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用するものとする」と
規定している趣旨から考えると、事務事業の執行上又は行政の責務と
して県民の要望に応じて提供することが予定されているものを含むと
解される。
(イ)本件試験研究責任者等情報に関しては、次のような事実等が認めら
れる。
① 本件申請書及び本件調査票は、公表目的で取得又は作成したもの
ではないこと。
② 本件試験研究責任者等情報に係る特定の個人が、どこの大学、研
究所、企業等に雇用され、かつ、どのような職務に従事しているか
について、自主的に公表していないこと。
③ 民間の学術研究機関の試験研究責任者・飼養管理責任者・飼養管
理従事者に係る情報は、従来から慣行上公表しているものではない
こと。
④ 民間の学術研究機関の試験研究責任者・飼養管理責任者・飼養管
理従事者に係る情報は、一義的には民間の学術研究機関が自主的に
行う試験、研究等に係る情報であり、事務事業の執行上又は行政の
責務として県民の要望に応じて提供することが予定されている情報
とまではいえないこと。
したがって、本件試験研究責任者等情報は、同号ただし書イには該
当しないと判断する。
エ 条例第5条第1項第1号ただし書ウ該当性について
(ア)条例第5条第1項第1号ただし書ウは、法令の規定により行われた
許可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して作成し、又は
取得した情報であって、公開することが公益上必要なものについては
公開することを規定している。
(イ)本件申請書は、譲渡要領に基づき、動物保護センター所長が犬、猫
等を譲渡する学術研究機関として適当かどうかを審査する目的で、学
術研究機関から提出させたものであると認められる。
また、本件調査票は、譲渡要領に基づき、動物保護センター所長が
学術研究機関に対して行った調査及び指導の結果を記録したものであ
ると認められる。
本件申請書及び本件調査票は、前記のような性格を有しており、ま
た、譲渡要領を同号の「法令」に含めて解釈することは困難であると
考えられることから、同号ただし書ウ前段の「法令の規定により行わ
れた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して作成し、
又は取得した情報」には該当しないと認めざるを得ない。
したがって、本件試験研究責任者等情報は、同号ただし書ウには該
当しないと判断する。
(4)条例第5条第1項第2号本文該当性について
ア 条例第5条第1項第2号本文は、法人その他の団体(国及び地方公共
団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個
人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等
又は当該個人に明らかに不利益を与えると認められるものは非公開とす
ることができると規定している。
イ 本件委託業者情報及び本件譲渡機関情報について
(ア)実施機関は、条例第5条第1項第2号本文に該当する理由として、
本件委託業者情報及び本件譲渡機関情報を公開すると、委託業者等の
取引きの状況が明らかになり、競争上の不利益を与えると説明してい
るが、同号本文に該当する取引関係情報であるためには、公開するこ
とにより、法人等に明らかに不利益を与える営業上の有用な内部管理
情報であることが必要と考えられる。
(イ)一般的には、民間法人等同士の取引関係情報は、当該法人等が自主
的に公表している場合等を除き、営業上の有用な内部管理情報として
保護されるべきものと考える。しかし、民間法人等同士の取引関係情
報であっても、当該情報の内容、当該法人等の性格、当該法人等の事
業活動における当該情報の位置づけ、競争者が当該情報を取得した場
合の影響等を吟味した上で、公開することにより、法人等に明らかに
不利益を与える営業上の有用な内部管理情報であるか否かの判断をす
る必要がある。
(ウ)本件委託業者情報は、民間法人の委託先等という民間法人等同士の
取引関係情報であると認められる。
しかし、本件委託業者情報は、動物保護センターが県民等から引き
取り又は捕獲・収容し、その後、学術研究機関に譲渡される犬、猫等
に関し、学術研究機関が行う運搬、飼養管理、最終処理等の一連の行
為に直接的に関係する情報である。
また、動物の保護及び管理に関する法律(以下「法」という。)第
1条では、法の目的として、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱い
その他動物の保護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気
風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資することが規
定されている。
このような本件委託業者情報の性格及び法の目的にかんがみると、
本件委託業者情報は、県民等から要望があれば、基本的には公開され
るべき性質の情報であると認めることが相当であり、また、これを公
開することによって、本件委託業者情報に係る学術研究機関及び委託
業者に明らかに不利益を与えるとはいえない。
したがって、本件委託業者情報を、公開すると明らかに当該学術研
究機関等に不利益を与える営業上の有用な内部管理情報とみることは
妥当ではないと考える。
以上のことから、本件委託業者情報は、条例第5条第1項第2号本
文には該当しないと判断する。
(エ)本件譲渡機関情報は、民間法人の取引先という民間法人同士の取引
関係情報と認められる。
本件譲渡機関情報は、学術研究機関が実験用動物を譲り受けている
民間の譲渡機関の名称であり、動物保護センターから学術研究機関に
譲渡する犬、猫等の処理とは直接的には関係のない情報である。
このことと、本件譲渡機関情報が実際に公開された場合の当該学術
研究機関及び譲渡機関に与える影響等を総合して判断すると、本件譲
渡機関情報は、当該学術研究機関及び譲渡機関にとっての営業上の有
用な内部管理情報として保護されるべきものであると認めざるを得な
い。
したがって、本件譲渡機関情報は、条例第5条第1項第2号本文に
該当すると判断する。
ウ 本件平面図について
(ア)本件平面図は、特定の大学の実験用動物の収容施設に係る平面図(以
下「本件大学施設平面図」という。)及び特定の民間企業の実験用動
物の収容施設に係る平面図(以下「本件民間企業施設平面図」という。)
である。
(イ)本件平面図に記載された情報は、試験、研究等を円滑に進めるに当
たって、動物室、手術室、処置室、洗浄室等の動物を取り扱う上での
合理的な建築上の配置に工夫をこらしているものであり、当該実験用
動物の収容施設に係る大学、民間企業及び設計者が、専門的研究、経
験等によって蓄積した独自の実験方法、設計技術等に関する情報であ
ると認められる。このような情報は、当該学術研究機関等にとって重
要な財産であると考えられ、原則として、保護されるべきものと考え
る。
(ウ)ところで、公文書の閲覧等の請求に係る諾否の決定に関する異議申
立てについて、実施機関が当審査会に諮問する趣旨は、条例第5条で
規定する適用除外事項の該当性等を実施機関が改めて判断する際の意
見を求めているものと解される。したがって、当該諾否の決定後に新
たな事実状態等の変動があったときには、処分時の事実状態等によっ
て判断しなければならない特段の事情が存在しない限り、当審査会は
新たな事実状態等の変動をも考慮して審査・判断できるものと考える。
(エ)当審査会が調査したところ、本件請求に係る諾否の決定後に、本件
大学施設平面図に係る大学から実施機関に対し、本件大学施設平面図
の公開を承諾する旨の回答がなされていることが認められる。
この点にかんがみると、本件大学施設平面図については、これを公
開しても、当該大学等に明らかに不利益を与えることにはならないと
認めざるを得ず、また、当該大学等の不利益性について本件非公開処
分時の事実状態等によって判断しなければならない特段の事情も存在
しないことから、条例第5条第1項第2号本文には該当しないと判断
する。
(オ)本件民間企業施設平面図については、前記(エ)で述べたような事
実はなく、これを公開すると当該民間企業等に明らかに不利益を与え
ると認められる。
したがって、本件民間企業施設平面図は、条例第5条第1項第2号
本文に該当すると判断する。
(5)条例第5条第1項第2号ただし書該当性について
ア 条例第5条第1項第2号本文に該当する情報であっても、同号ただし
書ア、イ又はウに該当するものは公開することとされている。そこで、
前記(4) で同号本文に該当すると認定した本件譲渡機関情報及び本件民
間企業施設平面図が同号ただし書のいずれかに該当するか否かについて
検討する。
イ 条例第5条第1項第2号ただし書アは、人の生命、身体又は健康を法
人等又は個人の事業活動によって生ずる危害から保護するため、公開す
ることが必要と認められる情報について規定している。
ウ 条例第5条第1項第2号ただし書イは、法人等又は個人の違法又は不
当な事業活動によって生ずる消費生活の安定に対する著しい支障から消
費者を保護するため、公開することが必要と認められる情報について規
定している。
エ 条例第5条第1項第2号ただし書ウは、同号ただし書ア又はイに掲げ
る情報に準ずる情報であって、公開することが公益上必要と認められる
ものについて規定している。
ここでいう「ア又はイに掲げる情報に準ずる情報」とは、ア又はイに
は直接該当しないが、それらと同様の趣旨であって、情報の内容も類似
しているものをいい、生活環境、自然環境の破壊等に関する情報が含ま
れるものと解される。
オ 本件譲渡機関情報の内容は、学術研究機関が実験用動物を譲り受けて
いる民間の譲渡機関の名称である。そして、本件譲渡機関情報に係る譲
渡機関と学術研究機関との間で動物の譲渡契約が締結されたことにより、
人の生命、身体又は健康に対する危害等が、現に発生しているとは認め
られず、また、将来発生するであろうことが確実であるとまでは認めら
れない。
これらのことを総合して判断すると、本件譲渡機関情報には、人の生
命、身体又は健康に対する危害、消費生活の安定に対する著しい支障、
生活環境・自然環境の破壊等に関する情報は存在しないと認められる。
したがって、本件譲渡機関情報は、条例第5条第1項第2号ただし書ア、
イ及びウのいずれにも該当しないと判断する。
カ 本件民間企業施設平面図は、実験用動物の収容施設(動物室、手術室、
処置室、洗浄室等が一体となった施設)の平面図である。そして、当該
収容施設の構造等に起因し、人の生命、身体又は健康に対する危害等が、
現に発生しているとは認められず、また、将来発生するであろうことが
確実であるとまでは認められない。
これらのことを総合して判断すると、本件民間企業施設平面図には、
人の生命、身体又は健康に対する危害、消費生活の安定に対する著しい
支障、生活環境・自然環境の破壊等に関する情報は存在しないと認めら
れる。
したがって、本件民間企業施設平面図は、条例第5条第1項第2号た
だし書ア、イ及びウのいずれにも該当しないと判断する。
5 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。
別 紙
審 査 会 の 処 理 経 過
年 月 日 |
処 理 内 容 |
平成 5.12.28 |
○諮問 |
6. 1. 7 |
○実施機関に非公開理由説明書の提出要求 |
6. 1.31 |
○非公開理由説明書の受理 |
6. 2. 4 |
○異議申立人に非公開理由説明書の送付 |
6. 4.19 |
○異議申立人から非公開理由説明書に対する意見書の受理 |
6. 7.28 |
○異議申立人からの意見の聴取 |
7. 1.19 |
〇審議 |
7. 2. 9 |
〇審議 |
7. 2.16 |
〇審議 |
7. 3.16 |
〇審議 |
7. 3.23 |
〇審議 |
神奈川県公文書公開審査会委員名簿
(平成5年4月1日委嘱)
氏 名 |
現 職 |
備 考 |
川 島 志 保 |
弁護士(横浜弁護士会所属) |
|
小 林 重 敬 |
横浜国立大学教授 |
|
原 寿 雄 |
(株)共同通信社顧問 |
会 長 |
堀 部 政 男 |
一橋大学教授 |
会長職務代理者 |
若 杉 明 |
横浜国立大学教授 |
|
(平成7年3月27日現在) (五十音順)