第39回日本実験動物技術者協会総会(2005年6月24、25日)レポート
滋賀医大の動物実験資格認定制度
~研究者の意識が変わった!~

 

6月24・25日、金沢市にて第39回日本実験動物技術者協会総会が開催されました。その中で、Ava-netの活動も大きく影響したと思われる、滋賀医科大学の動物実験資格認定制度の導入について特別講演がありましたので、内容をご紹介します。「自分の大学の恥さらしをさせていただこうと思っております」という言葉ではじまったこの講演、しかしながら日本の動物実験施設にとってあるべき方向を、ひとつ示しているのではないかと感じます。

「滋賀医大の動物実験資格認定制度について」
鳥居隆三(滋賀医大・動物生命科学研究センター)

■以前の実験審査

滋賀医大では、やはり以前はきちんとした実験の計画書や審査制度はありませんでした。
まず、鳥居氏が医学部付属動物実験施設へ着任後すぐ始めたことは、施設利用の手引きの作成で、昭和57年~63年までは「お粗末な」利用申請書を使っていたとのことです。専任教官である鳥居氏が内容を確認し、提出してもらったものを、施設長が確認、それだけで実験が開始されていました。

1988年に大学の動物実験指針が制定され、動物実験委員会が発足。利用申請書を、「動物実験計画書兼動物実験施設利用申請書」という書類にしたそうですが、安楽死法を追加しただけの単純なもので、審査制度も変わらず、委員会ができたものの、実質は鳥居氏が修正・追加申請をし、施設長の了解のもとに承認していたそうです。問題のあるときは委員会での審査ですが、やはりそういう例はほとんどありませんでした。

その後、「兼」はまずいということで、1991年に計画書と利用申請書を分け、実験題目や実験内容の自己申告を入れたそうですが、ここでも審査制度は変わらず、鳥居氏一人の責任となっていたそうです。2000年に施設長が変わり、委員会にとりあえず提出する形にはなりました。

■変化~外部からの批判

こういったしくみが変わり始めた理由の一つには、2001年のサルES細胞の樹立があり、サルES細胞管理委員会がつくられました。学外から1名を加える試みが初めてなされたそうです。

しかし、もうひとつの大きな理由は、やはり動物に関心のある人たちから大学へ申し出があったことだったようです。古くは1989年、施設見学の申し出があり、これはAva-netの前身であった市民団体の全国的な活動でした。県からのイヌの払い下げに関しては、輸送業者の法的な問題などが指摘され、平成8年から払い下げを止めると県側から通告がなされました。1997年、ネコを学内で捕獲していた問題では、ネコの学内捕獲が禁止になり、ネコの実験は現在も停止中とのこと。

さらに2002年、滋賀医大はニホンザルの違法飼育の問題で、新聞などに取り上げられています。有害鳥獣駆除のサルの譲り受けに関して、「反対グループの意見が一方的に通った」とのことで、「ニホンザルがどうしてもほしいわけではなかったので、滋賀県に対し抗議する意味も含め、導入を廃止した」そうです。それならばどうしてそれまで譲り受けていたのか、疑問に感じます。

■情報公開請求が大きく影響

しかし、何といってもやはり大きかったのは、やはりAva-netの行った情報公開請求活動だったようです。平成14年・16年に計3回行った請求内容などが発表され、「これがやはり我々を大きく変化させたものだと思う」とのコメントがありました。すべての実験計画書が承認されている、専門用語に誤字があるといった、「非常に屈辱的な、情けない批判を浴びた」とも述べられていました。

では現実はというと、やはり委員の異議がなければ、自動的に承認されるしくみだったそうです。ほとんどが承認なので、記載が簡略化、「研究者の動物実験に対する基本的態度が劣悪化していた」そうです。

そこで研究者の資質向上と、書式・審査方法の見直しが絶対に必要だときびしく上に上げたそうで、2003年4月からシステムが変わりました。

■現在の実験審査制度

現在、滋賀医大で動物実験を行うには、まず資格取得が前提で、計画書は委員10名が審査をします。問題がある場合は戻され、動物生命科学研究審査請求書を提出、動物生命科学研究倫理委員会に審議がまわるとのこと。ここには、学内の職員3名と、学外の3名が新たに加わり、全員一致になるまで再審査が繰り返され、公聴会が開かれます。学外の3名は、法律の専門家と市民が2名、うち一人は動物に関心のある人だそうです。

これはやはり今まで例がないと思われますが、質疑応答でもこの委員の選考について質問が出、公益団体からは「特定の大学には協力できない」と断られたため、一般の活動家へ学長名で委嘱を行ったと回答がありました。「一般の方はこういう考え方をするのだということがわかって、非常に勉強になっている」とのことで、ぜひほかの研究機関でも恐れずに、動物に関心のある人を委員に入れていってほしいと考えます。

とはいえ、最終的には審査はみな通っているわけですが、サルの実験はほとんどがこの倫理委員会にかけられているそうです。マウス・ラットからイヌに関しては、ほとんどが条件付き承認で、再提出・再審査を平均2回から4回、多い人では6、7回繰り返すとのこと。審査数は昨年、120に対して261回。だんだんきびしくなり、今年はまだ1回での承認はないとのことで、想像でしかありませんが、ここまで厳しくしている大学はなかなかないのではないかと思います。

■計画書の問題点と課題

計画書に対し、いままでに指摘した例としては、資格を持たない人が記載されている、専門用語の多用で内容がサッパリわからない、実験期間を適切な期間にするべき、組み替えDNA実験なのに書類の添付がない、不適切な動物を使っている、数は「約」ではなく根拠を示せなどがあり、痛みのカテゴリをまったく読んでいない人の話にはあきれましたが、過去の計画書を実際に見た印象からは「やはりそうか」と思わざるをえません。再提出でウサギの使用数を半分にしてきたケースもあったそうです。

審査では、とくに3Rや痛みのカテゴリを重視。結果が出るのに10日から2週間かかります。さぼれないよう委員の意見提出率も出しているとかで、たしかに委員のとられる時間もかなりのものがありそうでした。「もう辞めたい」と言う委員もいるとかで、質疑応答でもその労力を大学側はどう評価するのかといった質問がありました。委員会への評価になるそうですが、たしかに個人への評価に結びつけば、委員の動機づけにはなりそうです。大変だからといって手を抜いてほしくはありません。

現在、審査がきびしすぎるという不満や「学外で実験するぞ」というおどしもやはりあるそうです。また特定の研究者に対してイジメ的な厳しい審査があり、氏名を伏せて審査をすることにしたそうです。

■認定資格取得と実習

滋賀医大では、動物実験を行うための資格認定制度を導入したわけですが、その認定試験は、3時間の講習会とテキストのなかから出題し、5択の50問から70%以上正答で合格となります。去年は合格率が低く、動物福祉の講演会受講で救済措置としたそうです。

対象は、教授から実験補助者まで学内で動物をさわる人全員であり、学外からも、共同研究者などが受講します。合格すると「動物実験認定書・基礎」を与えられ、マウスからイヌまでの実験が許可されます。

サルの実験の場合は、さらに講習会、実習、認定試験を行い、実習は、実験を行うためのAコースが30日間、Aの人と一緒に実験を行う人のBコースが10日間、サルの部屋に入るためのCコースが3日間となります。実習は技術職員が合格を決め、飼育管理一般から保定、麻酔、採血などの実習をするとのこと。ほかに「感染」分野も認定試験を始める予定だそうです。

■認定制度でこう変わる!

「試験は非常に有効だった」とのことで、講習会もまったく寝る人がいなくなったそうです。そこに驚くのも妙ですが、だいたいどこの大学でも施設利用説明会では寝ている人ばかりと聞いているので、やはり画期的なことなのでしょう。

また実習はきわめて重要で、「これは当たりだったと自負している」とのことでした。ケージ洗浄など技術者のふだんの作業を実習させ、報告書を書かせることで、動物実験に対する考え方が明らかに変わり、実験計画書の書き方、説明方法、生命倫理への考え方も変化したそうです。そして「使用動物は減少しています」とはっきりコメントがありました。

やはりこれはうれしく、300枚以上の実験計画書を入力して分析した苦労が報われたと感じましたが、ただ、滋賀医大では繁殖とカニクイザルの導入でサルの飼育数をどんどん増やしており、最終1,000頭をめざしているとのこと。「資格制度導入で共同研究が減るのではないかと思ったが、サル用MRIも入り、今のところ増えている」ということで、1実験ごとの使用数を減らしただけではやはりだめだと感じました。

この資格はあくまで滋賀医大にのみ有効であるにもかかわらず学外からも受講があり、大学の特色としても価値があると考えられているようです。試験文作成に非常に時間がかかり、英語版もつくらなければならないなど、課題もあるようですが、「動物実験を正しく認識し、自主規制をするために制度は必須」との結論でした。自主規制がよいかどうかは別にして、動物実験の改善と意識改革のために、新しい試みにはどんどん挑戦していってほしいと考えます。