バイオ・コリアと女性の身体―ヒトクローンES細胞研究「卵子提供」の内幕

バイオ・コリアと女性の身体―ヒトクローンES細胞研究「卵子提供」の内幕

  • 作者: 渕上 恭子
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2009/02/21
  • メディア: 単行本

黄禹錫事件について、詳しい本を読んでみたいと思っていたのですが・・・やっと1冊読めました。メディアの責任論といったことも大事だとは思うけれども、もっと根深い、倫理的な問題や文化的背景について知りたかったので、このような本が出たことは感謝です。本を開くと漢字がいっぱいでひるむけど^^;、文章自体は読みやすいと思うので、ぜひ広く読まれてほしい本です。
それにしても、黄禹錫の研究で使われたヒトの卵子は、2000個以上に及んでいたんですね。論文に載った数より、はるかに多い驚異的な数。そして、数多くの卵子提供者の中で、黄教授の研究に貢献したいと純粋な気持ちで提供した人はたった一人だったなんて。これは衝撃的な数です。その上、そのたった一人の人も、副作用に苦しんだり、気持ちを踏みにじられたり、かなり苦しげな様子で・・・。
さらに衝撃的なのは、卵子の入ったシャーレを割ってしまって黄禹錫に叱責された女性研究員が、自らの卵子を提供するよう強要(と言っていいと思う)され、その上、その自分の卵子の核を自分の手で抜かなければいけなくなったときの心理描写です。自分の卵子でこんなに動揺するのなら、どうして他人の卵子のときも動揺しないのか?というのは多少疑問には思いつつ、ただ、そこには何か、科学についての根源的な問いかけがあるように思います。
黄禹錫は、獣医であったがために、ヒトでの成功に対して予測が甘かったとも書かれていました。ほんとに、これだけの数失敗するなんて、ヒトと動物は、かなり違いますよね??
また、科学が国威高揚やナショナリズムと結びつくと恐ろしいことになる見本と言える事件だとも改めて思いました。黄禹錫が追い込まれていたのはおそらく本当だろうし・・・。科学が立場の弱いものを利用しがちという根本的な問題について、この人が避けるつもりがあったとは思えないけど、せめて純粋に科学のためであれば、捏造までは行かなかったかもしれないのに・・・?とか?
「立国」といった言葉をやたら使いたがる日本も、ほんと、ほどほどにしておいた方がいいかも??
黄教授に卵子を提供しようなんて運動を女性自らがしていたのは、外から見るとだまされているとか思えず、なにやら危なげでしたが、性別にからむ役割意識や価値観というのは、自分の文化のものについてはあまりに空気のようになってしまっていて客観的に見ることが難しいんでしょうね・・・。あのまま捏造が明らかになっていなかったら? ちょっち恐い。