日本の動物実験事件簿

 

※本稿は、NPO法人地球生物会議ALIVE会報「ALIVE」100号(2011秋号)に寄稿したものです。掲載時から、若干補足をしています。

※現在はALIVEに全く関わっておりませんし、活動も支持しておりません。

 
 動物実験を行う研究者たちは、「私たちはきちんとやっている。だから登録制や届出制はいらない。行政の立入りは研究の邪魔だ」と主張しています。しかし動物実験施設では、不注意や教育不足などからも動物に苦痛が与えられているのが現実です。

 表に出てくるのは氷山の一角ですが、いかに実験動物の扱いがいいかげんかがわかる最近の問題事例を集めてみました。こういった事例に対しては、カルタヘナ法などでは対応がされますが、動物福祉上の観点からは一切行政的な対応はなされません。それは法律が存在しないからです。

■生きたまま、お腹から臓器が出た状態のラットが見つかる
2009年 滋賀医科大学

 滋賀医科大学の動物実験委員会が出した「実験動物の不適切な安楽死の発生について(通知)」という文書には、恐ろしいことが書かれていました。お腹から臓器が出た状態でポリバケツ内を動き回っているラットが見つかったというのです。

 文書によれば、「ラットを用いた動物実験の終了後、安楽死のため大量の麻酔を吸入させ、腹腔観察・写真撮影等を行い、数十分経過後に、ポリバケツに廃棄されたもの」だそうですが、ラットが発見されたのはその2時間後です。まだ生きていました。

 これは、死亡の確認がなされなかったことから起きた事件であり、大学は、開腹して心停止を目視確認することを周知徹底するとともに、実験者には一カ月の実験停止、所属長には厳重注意の処分を出しました。

■マウスの頚椎脱臼に失敗、ゴミ箱で生きたまま発見
2009年 自治医科大学 実験医学センター

 生きた遺伝子組換えマウスが、拡散防止措置区域ではない場所(廊下)におかれたダンボール製の廃棄物容器の中で見つかりました。

 見つかったマウスには頚椎脱臼を試みたと思われる皮下出血痕があり、黒いビニール袋を食い破って、ダンボール内に出ていたそうです。安楽殺のときに死亡の確認が不十分だったために、生きていました。

 学内調査の結果、実験者が間違った個体識別用の耳標をこのマウスにつけてしまったために安楽殺されていたこともわかりました。系統が不明のものは、実験には使えないからです。背景には過密飼育の問題があったと、大学の報告書は認めています。

 マウスは学内で繁殖されたもので、離乳前後の仔マウスでした。廃棄場所は、遺伝子組換えマウスの死体の廃棄場所として定められた場所ではありませんでした。

 実験者は厳重注意の処分を受けただけですが、大学がカルタヘナ法より先に挙げているのは動物愛護法上の問題でした。

■遺伝子組換えマウスが行方不明、ゴミとして焼かれた?
2010年 協和発酵キリン(株)東京リサーチパーク動物実験施設

 遺伝子組換えマウスの飼育数が、購入した数より1匹少ないことが判明。しかも8月中に同じことが2度もありました。同社プレスリリースによると、計2匹のマウスは、床敷きを捨てる際、一緒に廃棄物として施設外へ出されたと考えられるとのこと。

 床敷きを入れた容器については、「密閉され、感染性医療廃棄物処理施設まで搬送され、開封されることなく焼却されたことが確認されています」とあり、「当該マウスについては死亡し、処分された可能性が高いと考えています」とも書かれています。

 つまり、密閉容器の中で窒息死したか、もしくは生きたまま焼却もありえるということでしょうか? 遺伝子組み換えマウスだからこそ、こうやって企業も公表しますが、動物福祉上の問題は全く重要視されていません。

■仔マウスを間違って廃棄、翌日回収
2010年 東北大学医学部1号館動物実験室

 実験実施者が遺伝子組換えの新生仔マウス5匹を安楽殺した際、もう1匹の仔マウスがいることに気付かず作業を終了、飼育ケージ内の床敷きと一緒にその仔マウスを誤って廃棄しました。

 床敷きは一般ごみとして袋に入れられ、廊下に置かれましたが、翌日別の関係者が袋の中の仔マウスに気付き、ことが発覚したそうです。マウスは回収後に安楽殺され、分析によって遺伝子組換えマウスであったことが判明しました。

 文科省の調査結果には、出生数の記録が行われていなかったこと、匹数管理について複数者での重複確認が行われていなかったこと、学内の統一ルールがなかったことなどが書かれています。この事例も、カルタヘナ法上の問題でしか扱われていません。

頚椎脱臼とは……

 マウスや仔ラットなどに対してよく使われている殺処分方法です。首の後ろ側の頭蓋骨の付け根部分に指や棒を当てて押さえつけ、尻尾や後ろ足を強く引っ張ることで、頭蓋骨から頚椎を引き抜きます。

 慣れた人が行う場合には速やかで人道的な手段だと言われますが、米国獣医学会の『安楽死に関するガイドライン』には、「そのことを立証する科学的な研究はまったくない」と書かれています。また、脱臼後、脳の電気的活動は13秒間持続しているそうです。脱臼後は体が痙攣し、見た目には残酷な印象を与えます。

 そして、実際にもっと悲惨なのは、脱臼に失敗して死に至らず、動物がのたうちまわったなどの体験談が世にあふれていることです。それでもよい処分方法と言えるのでしょうか。

 
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