動物実験に対する疑いの声を集めるコーナーです。

動物実験反対の著作から拾ってもありきたりなので、あえて、特に動物実験反対でもなんでもない人たちの著作から拾っていってみることにしました。他にもあったら教えてください。引用中の強調は引用者である私です。

[1] 裁判で証拠にならない動物実験
[2] データの読み方は玉虫色?
[3] 細胞レベルでもこんなに違う、動物とヒト
[4] 嘘でもいいからデータがほしい私たち? (必読)
[5] 研究者の考え方をもってしても
[6] 業界のデータでも動物実験と臨床試験の間に六割が関連性がない
[7] ピロリ菌発見秘話
[8] ラットは欠陥のある胎児が生まれにくい
[9] FDAも認める動物実験の欠点
[10] PCRMによる裁判

>> リンク集:動物実験について指摘されていること
 


[1] 裁判で証拠にならない動物実験

 映画にもなった『シビル・アクション』の原作から。ストーリィは、水道汚染による健康被害に対する公害訴訟モノで、実話です。著者は、原告住民側の弁護士であり、引用部は、裁判で勝つための証拠探しの中の一場面です。国はアメリカ。

 たしかに環境保護庁はトリクロロエチレンを、発癌性の『可能性のある』物質のリストに挙げている。しかし、その根拠は動物実験によるものだった。研究所で、モルモット、ネズミ、ハムスターなどに長期間、大量のトリクロロエチレンを投与した結果にすぎない。ある実験では、白ネズミが白血球を形成するリンパ節に癌を発生させているが、ジャンドル(引用者注:血液学の博士)が指摘するところでは、実験に使われる動物はストレスが非常にたまっており、『自然に』リンパ肉腫を発生させる率が高いことで知られているという。また、実験を担当した研究者自身が、結果を信じていないことがあるらしい。さらに、このハーバード大学の専門家たちはチーズマン(引用者注:被告側の弁護士)に、動物実験で得られた結果が人間にあてはまることは、ほとんどありえないとも語った。寿命の長さ、染色体の構造、代謝など、どれをとっても違いが大きすぎる。

『シビル・アクション ある水道汚染訴訟』
(新潮文庫版上巻 ジョナサン・ハー/著 雨沢泰/訳
240-241p.)

 

※実際に、アメリカ人の獣医師でもある活動家の方が来日したときの講演会で、「裁判長が動物実験のデータは受け付けない」とおっしゃっていました。

 

[2] データの読み方は玉虫色?

 食養の本から。塩は高血圧の原因ではないという主張はさておき(といっても、塩を高血圧と結び付けているのは日本だけだということなのですが)、動物実験に常につきまとうパラドックスについて、いい例があったので引用してみます。

いい加減な実験というのは、アメリカの高血圧学者メーネリー博士が行った実験です。その実験は次のような内容でした。

 

ダイコクネズミに一日二〇~三〇gの食塩を与えた。あまりの塩の量の多さでのどが渇いたダイコクネズミが水を欲しても、その水は一%の食塩を入れた食塩水であった。そういった塩だらけにしたダイコクネズミの血圧を半年にわたって計り続けたという実験でした。この一日二〇~三〇gの食塩は、ダイコクネズミの一日摂取量の何と二十倍もの量だったそうですが、その結果、高血圧になったダイコクネズミは何と四匹だけであり、残りの六匹は正常であったのです。これだけ過酷な条件下にもかかわらず六匹ものネズミが正常であったのを本当は高く評価すべきであったのに、この結果をメーネリー博士は「塩は高血圧の原因」と決めつけ発表したのでした。

 しかし、当然ですが、この実験は信じ難いところがいくつもあります。この実験について、一倉定は『正食と人体』という本の中で次のように述べています。

『何と妙な話ではないか。血圧の上がった四匹のことだけが問題視され、血圧の上がらなかった六匹はまったく無視されてしまったのである。こうした細工が、どこで行われたか知らないが、そのために「塩をとると血圧が上がる」ということになってしまったのである。インチキ極まる話ではないか。

 これとは別に、私には実験そのものに、いろいろな疑問が生まれてくるのである。通常の二十倍の塩というのを、人間に当てはめてみると、一日一〇gが通常だとしても、その二十倍だから、二〇〇gということになる。こんなに多量の塩分を、六ケ月どころか一日でもとれるものではない。もしも一日一〇〇gづつ二日も摂れば、三日目には欲にも得にも体が受け付けない。無理に摂れば吐いてしまう。これは、後述する私の塩の過剰摂取の人体実験からして間違いない。生物体とはこういうものである。

 神の与えたもうた自然治癒力は身体防衛力を持っており、こんなべラぼうなことを絶対に受け付けないからだ。だから、この実験にはどこかに何かのウソかカラクリがある。

 もしも、これが本当ならばネズミは人間とは違った生理を持っていることになる。すると、こうしたネズミを実験に使っても、人間には適用できないということになってしまう。このパラドックスを、どう解けというのだろうか。』

 一倉の言っていることは全くその通りです。

 二十倍の塩を人間がとろうものなら、高血圧どころか病気になってしまいます。これらのネズミたちはよくまあ半年も生き、病気にならなかったことが不思議なくらいですし、こんな条件で四匹しか血圧が上昇しないのは、逆に言えば、塩と血圧は無関係を実証していることにすらなります。

『新・食物養生法』(鶴見隆史/著 第三書館 194-195p.)

 

 いいかげんな実験をしている研究者がいるのでしょうか? データの読み方を知らない研究者がいるのでしょうか? それとも、動物実験自体が批判されるべきものなのでしょうか? 真実がどこにあっても大変問題です。

 

[3] 細胞レベルでもこんなに違う、動物とヒト

 動物実験も含む記事ではあるのですが……、ラットとヒトでは肝細胞だけみてもこれだけ違いがあるという研究です。(魚の焼けこげの発ガン性については、よく、「人間に当てはめると、焼けこげだけ何キロも食べた場合の話ではないか、ナンセンス」などという批判をききますが、あらたにこういった反証もでてきました。)

「魚の焼けこげ、発がん性に関係ない? 研究会で発表へ」

 突然変異物質を見つけるサルモネラ菌テスト(エームズ法)で、ラットの細胞のかわりにヒトの細胞を使うと、結果が大きく異なることがわかった。魚の焼けこげ物質の変異の起こしやすさは数十倍も過大評価されていた一方、ディーゼルガス中の成分などは、過小評価されていた可能性がある。発がん性の再評価にもつながりそうだ。6月1日に東京で開かれる微生物変異原性研究会で発表される。

 調べたのは化学・製薬企業など25社と、薬開発研究のため米国のヒト臓器をあっせんするHAB協議会(佐藤哲男会長=千葉大学名誉教授)が参加したグループ(世話人=羽倉昌志・エーザイ薬理安全性研究所研究員)。

 化学物質は体内に入ると肝臓で代謝される。細胞の遺伝子に突然変異を起こすことがあり、がんにつながることもある。エームズ法は、代謝活性を高めたラット(ネズミ)の肝臓をすりつぶして作った上澄み液と化学物質を混ぜ合わせ、サルモネラ菌に作用させる。

 羽倉さんとHAB協議会の佐藤会長、同付属霊長類研究所の鈴木聡研究員らは、ラットの代わりにヒトの肝臓を使った方が人間への影響は正確になると考えた。米国の脳死者の肝臓でテストしたところ、ラットとヒトでは差があり、ヒトでも個人差があることがわかった。羽倉さんが世話人となって昨秋、共同研究グループを組織した。

 羽倉さんらは、米国の脳死者15人の肝臓を混ぜて平均的なヒトのテスト液を作り、化学物質約60種について、ラットとの比較試験をした。

 その結果、突然変異の起こしやすさがヒトの方が強いもの、弱いもの、あまり変わらないものがあった。弱くなった代表が魚の焼けこげ物質で、5種類のうち最も差が少なかったものでも、47分の1以下だった。

 ピーナツなどにつくかび毒アフラトキシンは150分の1に。逆に、禁止された食品添加物の防腐剤AF2は2.5倍も強くなった。たばこに含まれ、胃の中でもできるニトロソアミンは物質ごとで違った。排ガスやたばこの煙に含まれる3、4ベンツピレンはゼロに近い疑陽性、ディーゼルガス中のニトロピレンは3.4倍も強かった。

朝日新聞2001年5月31日

 

[4] 嘘でもいいからデータがほしい私たち?

長いのでこちらのページに移しました。

 

[5] 研究者の考え方をもってしても

 2002年12月5日、日米欧の研究チームが、マウスのゲノム解析についての詳細を「ネイチャー」誌に発表した、というニュースがありました。その中で、共同通信の報道が、榊佳之・東京大医科学研究所教授(ヒトゲノム解析)の話として以下のようなコメントを載せています。

マウスはヒトの病気などを研究するモデル動物として広く使われており、ヒトのゲノムと比較できるゲノムのデータが整備されたことは大きな意義がある。今後、理論的に裏付けられた実験が可能となり、マウスを使う限界もはっきりするだろう。

つまり、

1.今まで動物実験は理論的ではなかった。(ゲノム解析の進んでいない多くの動物種に関しては、今後も)
2.今現在マウスを使うには適切ではない実験が行われている。

この2点を、科学者自らが認めているということに他ならないと思います。仮に、マウスからなんらかの外挿ができると考える立場であったとしても、動物実験には大きな問題があると認めざるを得ないのが現実だということを示していると思います。

 

[6] 業界のデータでも動物実験と臨床試験の間に六割も関連性がない

動物実験では分からない作用を知るため、新薬開発にヒト組織利用しようという動きがあるわけですが、その関連の記事の中で、こういうことが書かれています。

利用の理由として、大半の企業が「人問と動物では薬物への反応が違い、動物実験だけでは、新薬の効果や毒性が予測できないから」「利用しないと、医薬品関発が
国際的に遅れてしまう」などと答えている。

朝日新聞 平成11年1月17日(日)

そしてその解説記事、「透明性確保が不可欠  新薬開発にヒト組織利用 倫理的課題、なお」には、さらにこのようなことが書かれています。

日本製薬工業協会によると、主な十七社でこの五年間に臨床試験にまで進んだ百七
十種の新薬候補の四割が安全性や効果の問題から開発中止になり、うち六割が動物実験と臨床試験のデータに関連性がなかったという。

朝日新聞 平成11年1月17日(日)

動物実験反対派系の研究者が出すと、もっと高い割合で「人と動物の結果が違う」と計算されているようですが、それにしても、動物実験が必要だと考えている業界の人たちが計算しても、6割が違うというのは驚愕の事実です。

 

[7] ピロリ菌発見秘話

 話題のヘリコバクター・ピロリ菌が発見されたとき、ピロリ菌を培養したオーストラリアのロイヤル・バース病院の2人のお医者さんが、その菌を自分たちで飲み下したというお話はご存知ですか? 理由は動物に感染させようと思ったが、感染しなかったから。いよいよ自分たちで飲むかしかないと考えたのだそうです。もちろん周囲は大反対、奥さんにも叱られたのだそうですが・・・。

 飲み下した後は、ボスのウォーレンさんは感染せず、部下のマーシャルさんだけが感染しました。そのときは、すぐ除菌剤で除菌したそうですが、お二人はその後の講演で、日本の除菌法に対して、ピロリ菌を抗生物質で殺すのは間違っていると批判しているそうです。胃粘膜をピロリ菌から守るタイプの薬や食べ物などを使った方がいいだろうと考えているということ。耐性菌の発生を恐れてのことですが、ピロリ菌発見者が抗生物質による治療法に批判的、というのは興味深い話です。

 でもそれ以上に、人体実験にみずから挑んだ話が現代においてもあるということ、そしてその理由が種差だったというのはとてもおもしろい話ですね。

(現在ではスナネズミがピロリ菌に感染することがわかり研究に使われているそうですが、「これはこうだからこっちの動物で、こっちはだめだからつかわない」というやり方に動物実験のご都合主義が垣間見えるような気がします。)

 

[8] ラットは欠陥のある胎児が生まれにくい

 『なぜサルを殺すのか』(デボラ・ブラム著 白陽社)という、1992年にピュリッツアー賞をとった本があります。主にサルの動物実験をテーマに、中立的にデータを集めた著作ですが、そのなかに下記のような記述があります。(77ページ サリドマイドについての部分)

ラットには欠陥のある子孫を残さないようにする特殊な能力があり、欠陥のある胎児は子宮内で分解され、組織は吸収されて代謝される。出生率が下がったのは、欠陥のある胎児が再吸収されたことを暗示していたかもしれないのに、そのような考えは当時、憶測の域を出なかった。

 ラットはもちろん催奇形性試験等にも好んで使われます。「今は上記のようなことを見越した試験法がとられている」とかなんとか反論が来そうですが、でもこれだけ違う動物のデータが参考にされていることにはやはり驚きを禁じ得ません。

 

[9] FDAも認める動物実験の欠点

 FDA(アメリカ食品医薬品局)が2004年3月に出した報告書でも、動物実験は「前世紀の方法」とされています。

Innovation or Stagnation: Challenge and Opportunity on the Critical Path to New Medical Products HTML版 PDF版

P5:今世紀の薬の開発に対して、前世紀の評価技術を使わねばならない。
   (前世紀の方法とは動物実験を指す)
P8:フェーズ1まで進んだ薬の開発が、8%しか成功しないのは方法に問題がある。
P9:古い動物実験の方法では、薬の安全性、有効性を予測するのが難しい。
P17:人間細胞を使う方法をFDAは推奨する。代謝の予測確率があがる。

(以上日本語:N.Tさん)

 動物実験に批判的な人に言われても信じられないという方には、下記の引用をどうぞ。

FDA の報告書では、新薬創出停滞の原因として、医薬品の安全性と有用性の評価をより短い時間で、より確実に、より低いコストで行うための応用研究が十分になされていないと指摘されている。現在でも、10年以上前に確立された方法で動物を用いた毒性試験を行い評価することが多い。
このような試験は、労力、時間、多くの検体を必要とするが、臨床開発後期で生じる安全性の問題を未だ十分に予測できていない現状にある。

求められる開発段階での技術革新-効率化が必要な医薬品評価過程-
医薬産業政策研究所主任研究員 森下芳和
(政策研ニュースNo15より PDF

 

[10] 『ビオックス』訴訟で問われる、動物実験データの扱い

『ビオックス』訴訟で問われる、動物実験データの扱い
WIRED NEWS 2005年07月28日

抗炎症薬ビオックスが心臓病の発症リスクを高めるという臨床試験の結果があるにもかかわらず、発売元のメルク社が安全性の根拠として、アフリカミドリザルなどを使って行なった動物実験の結果を優先していたことについて、PCRMが訴訟を起こしたというニュースです。