~大学が公開している実験動物使用数はウソ?~

 
京都大学医学研究科の准教授が、国の補助金の枠を大幅に超えて、実験用のミニブタ75頭を購入。大学がこの男性に対し、立て替えた代金約1650万円の支払いを求める裁判を起こしたという報道が、2011年11月にありました。
(准教授は2010年2月にすでに退職)

この報道に書かれていたブタの使用数と、京都大学がウェッブサイトで公開しているブタの使用数が大きくかけ離れていたため、大学に対して情報公開請求を行い、質問書を送りました。

結論として、回答をいただくことはできませんでしたが、実験計画書の記載が厳密ではなく、また「使用数」の算出方法が表向き数を少なく見せる方法となっていること(実数をあらわしていない)などが、こういった事態を招く遠因となったのではないかと感じます。

以下、報道の内容と、質問書の内容です。

新聞報道

京大が医学系准教授を提訴 使いすぎ研究費返還要求
読売新聞 2011年11月2日

 (略)訴状などでは、元准教授は肝臓移植で国内トップ級の実績を持つ研究室のナンバー2として、移植後の拒絶反応を抑える治療法の研究を担当。2007、08年度に交付された国の補助金計約1億6300万円のうち、男性が使える額は約1億3300万円だった。

 しかし、実際に使ったのは約1億7600万円に上り、差額の約4300万円は、大学が立て替え払いした。うち約2650万円は男性が返済を約束しているが、実験用のミニブタ購入代金など残りの約1650万円は拒否している。(以下略)

京大 実験用ミニブタ75頭の代金払えと元准教授を提訴
2011年11月1日 スポニチ

 (略)訴状によると、元准教授は2007年度と08年度に厚生労働省から計約1億3千万円の補助金を交付されたが、約4300万円を超過して、研究に使用。大学が立て替えた。

 元准教授は、一部については返済するとの誓約書を大学に提出したが、07年10月から08年7月にかけて購入したミニブタ75頭やエサなどの代金約1650万円分については、支払いを拒絶しているという。

 大学側は「元准教授には購入の契約を締結する権限はなく、代金を負担すべきだ」と主張。(以下略)

 

京都大学への質問事項

2012年3月31日付けで送信した質問事項は以下のとおりです。使用数の問題だけではなく、個別の実験計画書の疑問点についても質問しました。6月の動物実験委員会で回答について検討していただけるとのことでしたが、結果として、「回答はしない、意見として承る」との連絡がありました。

別紙・質問事項

ミニブタ購入代をめぐって京都大学が医学研究科元准教授を提訴したという新聞記事を読み、本来購入されるはずではなかった多くのブタが動物実験に供されたことについて疑問を感じ、医学研究科のブタを用いた動物実験に関する書類の開示請求を行いました。裁判および本年1月20日付で公開された実験計画書(京大総広情 第90号)に関連して教えていただきたいことがあり、以下のとおり質問いたします。

(1)上記記事で報道された裁判は現在も係争中でしょうか。何らかの結論が出ていましたら、結果を教えてください。また、係争中の場合は、結論が出たのちに京都大学として結果を公表されるつもりがあるかどうか教えてください。
国の補助金の原資はわれわれ国民の税金であり、乱費は許されない点からも裁判結果には関心があります。

(2)本来購入することができないはずの多数の動物を実験利用によって犠牲にすることも、動物福祉に反する行為なのではないかと感じました。報道で拝見する限り、京大の被害額は甚大ですが、このような多額の超過であれば、動物実験計画書の事前審査の段階で見抜くことができたのではないかという疑問も残ります。事前審査でわからなかった理由はどこにあるとお考えでしょうか。

(3)産経新聞の報道では元准教授は「権限もないのに」ブタを購入したと書かれています。ブタを購入できる権限は、本来、だれが持っているものでしょうか。どうして権限がない者による購入を未然に防げなかったのでしょうか。

注:この点については、「権限がない」という表現は事実と違う旨の説明を口頭で受けました。

(4)「動物実験に関する自己点検・評価報告書」で公開されている使用数について

a) スポニチの報道では、元准教授が購入したミニブタの頭数について、07年10月から08年7月にかけて75頭とありますが、京都大学がホームページで公開している「動物実験に関する自己点検・評価報告書」では、実験動物の飼養数について、ブタはそれぞれ以下の頭数が記載されていて、数字が大きく食い違っています。

これは、飼育日数による日割り計算がなされているために見かけの頭数が少なくなっているものだと思いますが、使用されたブタの実数は何頭で、飼育日数が何日間であるためにこの数字になったのか、計算式を教えてください。
また、ミニブタはブタに含まれていると考えて間違いないでしょうか。

京都大学動物実験に関する自己点検・評価報告書(平成19年度)
   医学研究科   ブタ    9

京都大学動物実験に関する自己点検・評価報告書(平成20年度)
   医学研究科   ブタ    7

b) 実数ではない計算方法で使用数を報告させていたために、元准教授による大幅な超過が見抜けないまま、次年度も実験計画書を承認したということはないでしょうか。

c) 「動物実験に関する自己点検・評価報告書」では、本来、使用された実数を公開するべきではないかと考えますが、そのように改める予定はないでしょうか。

(5)実験計画書全体について

a) 使用匹数であいまいな表現を許しているものがあります。全体で何匹使う実験なのか、事前に書かせるべきであり、この点が研究費以上の利用を許す一因ともなったのではないかと感じますが、いかがお考えでしょうか。また、このことは、リダクションについての審査が行われていないことも意味するのではないでしょうか。

b) 書式には「使用動物数の根拠を具体的に記入し」とありますが、記入されていなくても審査が通っています。また、動物実験委員会による「修正意見等」が一切書かれていません。さらに、計画書には、動物への処置期間や観察期間、薬剤の投与方法・投与期間・投与量、安楽死のタイミング、具体的な手技や条件などについて明確に記載されていませんが、それでも審査を通っています。3Rの観点からの審査は行われているのでしょうか。

c) KCL単剤による致死処分が行われていますが、京都大学では適切とされているのでしょうか。薬剤を併用する場合についても、適切かどうかの個別の審査は行われているのでしょうか(例えばチオペンタール)。また、致死処分に用いられる薬剤については、濃度、使用量、投与方法を記入させて事前審査するべきではないでしょうか。

d) 計画書からは人道的エンドポイントに対する配慮が読み取れませんが、事前に検討させることはしないのでしょうか。

e) 手術後の動物の管理(観察、保温、補液、特別食の給餌、栄養剤の投与等)について検討させるべき実験も多いと思われますが、事前にそのことについては検討させないのでしょうか。

f) 移植実験について、免疫抑制剤使用の有無の記載がなくても審査を通っているのはなぜですか。

g) 実験に伴って予想される副作用や合併症と、その対応策については検討させないのでしょうか。

h) 実験従事者の教育訓練受講を確認できませんが、教育訓練を受けていなければ動物実験できないなどの仕組みはありますか。

(6)個別の実験計画書について

● 2007年 受付番号07183について

a) 「週に1匹の使用」との記載では、最終的に何匹使用するのかが不明です。最終的に何匹使われたのでしょうか。

b) 研究方法欄の「小腸と肺の移植モデルを優先させ,肝臓と膵島の移植モデルを使用する。」の意味がわかりません。このような表現でも審査を通るものでしょうか。

c) レシピエントブタを生存させる期間は記入させないのでしょうか。致死処分するのではなく、死亡することが前提となっているのでしょうか。致死処分したものと、死亡してしまったものと、実際どちらが多かったのでしょうか。

d) 膵臓摘出についてですが、どの程度の摘出かわかりません。もし、全摘であれば、ミニブタはインシュリンの治療が必要ではないでしょうか。ミニブタの苦痛の程度を判断するために,レシピエントブタについてのより詳細なプロトコルの提出を求めるべきではないでしょうか。

e) 開腹を伴う移植実験はカテゴリーDではないのでしょうか。カテゴリーCとの判断が通っているのは、なぜですか。

f) ドルミカム、キシラジン、セボフルレンについて、体重あたりの投与量を記入させて事前審査するべきではないでしょうか。

● 2008年 受付番号08129、2009年 受付番号09236について

a) 開胸を伴う移植実験はカテゴリーDではないのでしょうか。カテゴリーCとの判断が通っているのは、なぜですか。
b) 移植後の肺機能評価方法がどのようなものか書かれていなくても審査を通るのはなぜですか。

● 2008年 受付番号08502について

a) 2007年の受付番号07183とまったく同じ内容の計画書ですが、なぜ「継続」が消されて「新規」の欄にチェックがされているのですか。

● 2008年 受付番号08579、2009年 受付番号09098について

a) 開胸を伴う移植実験はカテゴリーDではないのでしょうか。カテゴリーCとの判断が通っているのは、なぜですか。
b) 移植後の肺機能評価方法がどのようなものか書かれていなくても審査を通るのはなぜですか。

● 2008年 受付番号08585、2009年 受付番号09099について

a) 「月に○匹の使用」との記載では、最終的に何匹使用するのかが不明です。最終的に何匹使われたのでしょうか。
b) バンディングとは何ですか。一般人が見てもわかる説明が実験計画書には必要だと思います。
c) 研究概要のところで「(最小の胃バンディングなどを用いて門脈血流を調整する)」とありますが、この実験は肝臓を対象としているのではないのでしょうか。

注:誤記のまま審査が通っていることを疑って、この質問をしました。

d) 84%の肝臓切除はテゴリーDではないのでしょうか。なぜカテゴリーCと判断されたのですか。
e) この実験ではブタの生存率は、どの程度だったのでしょうか。
f) 2009年の計画書では、実験方法欄の記載が簡略化されていますが、委員会から具体的なプロトコルの記載の指示は出さないのでしょうか。前年と手法が変わっている理由なども記入させて妥当かどうか審査するべきではないでしょうか。
g) 「ケージの中で覚醒状態で、バンディングを経皮的に開く」とありますが、どのようにするものなでしょうか。何らかの苦痛の軽減措置はとられるのでしょうか。

● 2009年 受付番号09592について

a) 器具を用いた保定処置とは具体的にどのようなものか記入させて事前審査することはしないのでしょうか。
b) 採血について、採血方法、採血部位、採血頻度、採血量など詳細は検討させないのなのでしょうか。
c) 投与についても方法、頻度、投与量などを検討させないのでしょうか。
d) 全身麻酔についても、方法や頻度を検討させないのでしょうか。
e) ミニブタの福祉に寄与する目的も付与するべきではないでしょうか。
f) このマイクロミニブタが飼育されているケージサイズはどれくらいですか。今まで扱ったことのない動物であれば、飼育方法が適切となるかどうか等、十分な検討が必要かと思いますが、委員会で十分話し合われたのでしょうか。

● 2009年 受付番号09609について
a) レシピエントブタを生存させる期間は記入させないのでしょうか。
b) 局所麻酔薬、鎮痛薬については、薬剤名・投与量について記載させなくてよいのでしょうか。

以上

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