※日本がシエラレオネの希少な野生チンパンジーを医学研究用に大勢輸入したために、国際的に非難を浴びた件について質疑されています。
 ワシントン条約に関連する質疑も興味深いので、動物実験以外の部分も転載しました。「この法案」とは、「絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律案」のことです。

 
第108回国会 参議院環境特別委員会 3号 昭和62年05月25日

○近藤忠孝君 私は野生動植物の問題について質問をいたします。このワシントン条約では規制対象は絶滅のおそれのある野生動植物です。ところが、この法案になりますと、それに限定がついて「過度の国際取引による絶滅のおそれのある」と。となりますと、これはワシントン条約も限定されますね。なぜ限定したのか、狭くなったのか、この点まずお答えいただきたいと思います。

○政府委員(古賀章介君) 今先生は限定ではないかという御質疑でございますけれども、そうではないというのが結論でございますが、その理由を述べさしていただきます。

 この法案は、先ほど来申し上げておりますように、これまで国内における取引規制がないため違法に輸入された疑いのある動植物が国内で自由に取引されることが問題となったことから、ワシントン条約のより効果的な実施に資するために定めようとするものでございます。このいわばワシントン条約の実施法であるという趣旨を明確にするために条約の前文にあります「過度の国際取引」という文言を趣旨の中に引用したのでございまして、過度の国際取引によらなければ絶滅のおそれがあっても対象にならないという趣旨ではないということでございます。

   〔委員長退席、理事関口恵造君着席〕

要するに「過度の国際取引による絶滅のおそれ」というのは、現に生じている場合のみならず過去において生じた場合、将来において生じる場合もすべて含まれるということでございます。

○近藤忠孝君 そうしますと、過度の国際取引がなくても絶滅のおそれのある野生動植物はいるわけですね。例えばパンダ、トキ、こういったものも当然これは規制対象になる、こうお聞きしてよろしいんでしょうか。

○政府委員(古賀章介君) パンダ、トキは既にワシントン条約の附属書Ⅰに掲げられておりますし、この法律の規制対象は政令で決めることになっておるわけでございますけれども、当然規制対象になるというふうに考えております。

○近藤忠孝君 なぜこのことを私が指摘するかと申しますと、後で裁判になった場合これは問題になる可能性があると思うんですね。法案では「過度の国際取引による絶滅のおそれ」が構成要件ですね。それに対して政令で具体的に決めるわけですから、仮に業者がこの法律違反で摘発受けまして、まさに刑事裁判ですわな、となりますと、具体的に自分が摘発されているのは絶滅のおそれがあるものかもしれぬけれども、法律で言う「過度の国際取引」によるものじゃないと。要するに法律よりも政令の方がはみ出しているんじゃないか、これは罪刑法定主義違反だ、こういう反論がどんどん出て私は裁判の面で混乱が起きやしないか。やっぱり罪刑法定主義というのは憲法上の大原則ですし、それから構成要件は厳格でなきゃいけませんね。そういう余地が出てくるんじゃないか。こういう指摘についてはどうですか。

○政府委員(古賀章介君) この条約自体は、過度の国際取引によりまして貴重な野生動植物が絶滅の危機に追いやられることのないように各国が相協力してそれをなくしていこうということでございます。しかしながら、具体的に附属書ⅠないしⅡの定義のところを見ますと、附属書Ⅰは現に絶滅のおそれのあるもの、それから附属書Ⅱはこれから将来にわたっておそれの生ずるものというような書き方をしているわけでございます。私どもは、この附属書1を中心に規定するということでございますので条約の趣旨というものを十分体しておるというふうに考えております。繰り返すようになりますけれども、条約の前文にはそういう絶滅のおそれのある野生動植物の保護ということを明文にうたっておるわけでございますから、それを受けて条約の趣旨を生かしましてこの国内法が規定され運用されるということでございますので先生御懸念の点はないものと私どもは考えております。

○近藤忠孝君 ちょっと私の質問に直接、いわばこれは法律論ですけれども、お答えになっていないようなんでまた重ねてお聞きしますが、附属書Ⅰは絶滅のおそれが強く商業取引が禁止されている種であるから国内でも商業取引が禁止される、これは当たり前のことですね。それで附属書Ⅱ、これは実際に最も多く取引がされておりまして、日本で輸入される野生動植物件数の九八%と大部分を占めております。したがって、このⅡに掲げられている種は放置すれば絶滅のおそれがある種になってしまう。ですから、国内においてもその取引は厳重に規制されなければならないわけですね。だから、その一部なんということじゃなくて私はもっと広げていくべきだと思います。また附属書のⅢは、締約国が捕獲や採取を禁止しておりまして取引を取り締まるために他の締約国の協力が必要とされるものでありますから、したがって、世界最大の野生動植物の輸入国である日本政府は原産国の保護努力に対して協力すべきものであって、日本国内においてもそれらの輸入や国内流通を規制して協力すべきだと。私は、これは既に指摘もあったと思いますが、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ全部を対象とすべきだと思うんですが、これについての御見解を改めてお聞きしたい。

 それから、将来これ絶滅のおそれということでだんだん広がっていくと思うんですね。そうなった場合に、先ほど申し上げたような罪刑法定主義で、国際取引の多いというその条件があるために政令でそれがはみ出しやしないか、こういう争いが起きてくる余地が今後日本政府が努力をする過程の中では当然出てくるのじゃないか。当面は、今局長が言ったとおりⅠが中心ですからこれは心配がないんですが、私は、心配がない状況ではこれはよくないと思うんです。もっと、心配ない状況じゃなくて、法律論争がある意味ではこの法律のもとでは起きてくるような状況、そんな法律論争が起きないようにするためにこんな余計なものは取ってしまった方が私はすんなりいくんじゃないか、これが私の指摘なんです。いかがですか。

○政府委員(古賀章介君) 先生のおっしゃることはわかるわけでございますが、この地球上から貴重な野生動植物が絶滅する一番大きな原因というのは過度の国際取引であるということでございます。そのようなものを抑えることによって各国協力して絶滅の危機から野生動植物を救おうではないかというのがこの条約の趣旨だろうと思います。ですから、過度の国際取引ということが何も制限的に働くのではなくて、要するに絶滅のおそれのあるものを規制をしていこう、それは、過去そうであったもの、現在そのようなおそれのあるもの、それから将来そういうおそれのあるものというものをすべておそれというものの可能性の中に含めて考えるということでございますから、その過度の国際取引というのはあくまでも原因として考えられるものでありますから、規制の態様としては、絶滅のおそれのあるものをその中に取り込んでいくということだろうと思います。

 それから第二点の範囲の問題であります。これは何回か御答弁いたしておりますけれども、ワシントン条約は附属書Ⅰに掲げる動植物につきましては商業取引を禁止をいたしておるわけであります。

   〔理事関口恵造君退席、委員長着席〕

それに対しまして附属書Ⅱ及びⅢは、一定の条件のもとではありますけれども商業取引を認めておるということでございますから、私どもの今御提案いたしております法案の規制対象に一たびなりますと国際流通が原則として禁止をされるということに相なりますから、したがってワシントン条約の附属書Ⅰに掲げるものを中心としてこの法律の規制対象にすることが妥当であろうというふうに考えるわけであります。しかしながら、附属書ⅡⅢでありましても、原産国のすべてが輸出を禁止しているようなものは附属書Ⅰに掲げるものと同視すべきものというように考えますのでこれは本法の規制対象にいたしたい、こういう趣旨でございます。

○近藤忠孝君 私は、今後大いに行政が進んでどんどん対象規制範囲がふえていくことを望みますが、さっき言ったようにもし裁判で問題になった場合には、この過度の国際取引というのは決して限定的なものでないというこの立法趣旨、そのことをしっかりやはり貫いていくべきだということを申し上げておきたいと思います。

 次に、この規制の対象との関係で厚生省に質問いたしますが、実験動物として保護が必要な野生動物が輸入されるケースであります。一九八三年四月から五月にかけてチンパンジー三十頭をシエラレオネから輸入する問題がありました。これはウイルス性B型肝炎のワクチンテスト、それから非A非B型肝炎ウイルスのワクチン開発のために必要だというので肝炎研究協議会が厚生省に申請、ワシントン条約の管理当局である通産省の許可を得てシエラレオネと交渉して輸入することになった問題であります。

 ところが、チンパンジーは霊長類の中でも特に保護の必要が叫ばれている種で、これはシエラレオネに二千頭前後しかいないものですね。そこから三十頭輸入するというので、IPPL、国際霊長類保護連盟がこれを知って反対運動に立ち上がったわけです。IPPLは、アメリカのマスコミを通じますキャンペーンで日本製品ボイコット運動も辞さずという空気にまでなりましたが、厚生省、この経過は御存じですか。

○説明員(羽毛田信吾君) お尋ねのようなお話があったやに聞いてはおります。

○近藤忠孝君 この程度ですね。

 筑波の医学実験用霊長類センターの本庄重男所長はこう言っています。動物でB型肝炎の症状、下痢、発熱、黄疸を出すのはチンパンジーだけだし、生検で組織の病変を確認できるのもチンパンジーだけだと。やはりこのチンパンジーを実験用に確保する必要があることを指摘しております。保護が必要な野生のチンパンジーを輸入することが問題であるというなら人工的に飼育繁殖させようということで、筑波の霊長類センターが、国立予防衛生研究所の姉妹施設ですが、チンパンジー飼育設備がないことから毎年予算要求をしてつくってくれ、こういうお願いをしているんですが、予算がついていないですね。これは大体二億円ぐらいでできるものだというんです。実験動物としてはやはり粒のそろった個体が必要ですし、飼育繁殖させれば親子関係も判明して都合がよい。それから人工繁殖が順調に進めば野生のチンパンジーを輸入しなくても済む。一石二鳥ですね。ただ幾ら要求してもなかなか予算がつかない。この本庄所長はこれでは責任持てない、こう言っておるんですが、この筑波の霊長類センターにはその後チンパンジーの飼育施設ができたのか。いかがですか。

○説明員(羽毛田信吾君) 事実関係について申し上げますと、国立予防衛生研究所、先生お話しのとおり筑波に医学実験用の霊長類センターというものがございます。ここにおきましては、現在カニクイザルあるいはアカゲザル、ミドリザルといったようなものの繁殖育成を行っておりますけれども、チンパンジー等の類人猿の飼育繁殖は今のところは行っていないというのが事実でございます。

○近藤忠孝君 今回こういう法案も出まして国を挙げて野生動物を保護しようというときであるし、これは、医学上の必要があるのと同時に今言ったような対処方法もある、しかもそんな大した金もかからないとなりますと、この機会に国全体としてこの問題に取り組むという姿勢を示す意味でもこれは大いに検討をされてしかるべきだと思いますが、どうでしょうか。

○説明員(羽毛田信吾君) 実は、筑波の国立予防研究所からはそのような予算要求が出ておるけれどもというお話でございましたけれども、事実関係について申し上げれば、国立予防研究所内部において現在のところはいろいろ検討を行っておるという段階でございまして、予防研究所としてそういう方向を踏み出したというところまでは現在のところ至っておりません。それから設備費等につきましても、今のところは、やるとすればもっと大きい額がかかりそうでございます。そういう前提でございますけれども、いずれにいたしましても、現在のところその国立予防衛生研究所自体といたしましては、現在実施をしておりますワクチン等の研究につきましてはチンパンジーを使用しておらないという、当面具体的な需要が要件自体としてはないというようなこともございまして今直ちにそこに踏み切るというところには至っておらないわけでございます。

 今後実験動物を国全体としてどうやっていくかということにつきましては、医学研究の推進支援体制としましてチンパンジー等の実験動物の確保あるいは適正な供給というようなことはそれ自体としては重要な課題になってくる要素はあると思いますが、この関係をどうするかにつきましては、果たして予研というような形の中に霊長類センターというものをつくるのがいいのかどうか、あるいは今後の我が国におけるそういった実験動物の体制がどのようになっていくべきかというようなことを少し検討いたしませんとなりませんので、今のところは、関係部局で集まりましてそこらのところを協議をしておるという段階でございます。もう少しそこらのところを詰めませんと直ちに予研でやるというところまでは踏み切りがなかなかつかないところであろうかというふうに思っております。

○近藤忠孝君 これに関連してもう一点ですが、野生動物でなくて人工飼育で繁殖させたものでありましても実験動物としてどんな扱いをしてもいいというものではないと思います。

 最近ECで問題になっています。昨年十一月二十四日にブリュッセルで環境小理事会が開かれて、動物を使用する実験に対して厳しい規制を加える勧告を採択しました。まず動物実験の事前届け出、絶滅のおそれのある動物の実験使用禁止、苦痛を与えないような手段をとる、こういう勧告ですね。この担当者は、この勧告に基づいて各国政府が早急に国内法の整備をすることを希望すると言っておりますが、こういうEC決議について、直接我が国にはそれの効力はないと思いますが、こういうことが今世界の傾向になっているということを受けとめて厚生省はどう対処されますか。

○説明員(高橋透君) お尋ねのECの勧告でございますが、お話しございましたように一九八六年の十一月二十四日ECにおいて決議がされまして、その中の絶滅の危機にある動物を用いた実験の禁止という項目でございますが、この種の動物実験は医薬品に限らずほかの場でも学術研究等で行われているわけでございまして、各省庁に共通する問題でもございます。そういうことで、今後早急に関係省庁と連携しつつ検討してまいりたいと考えております。なお、現在医薬品の開発に使用される実験動物につきましては、四十八年の十月に制定されました動物の保護及び管理に関する法律に基づく実験動物の飼養及び保管等に関する基準を遵守するよう医薬品開発メーカーに求めているところでございます。

○近藤忠孝君 条文に即して次の質問をいたしますが、第三条第一項は野生動植物の譲渡等の原則禁止を定めていますが、これが適用されないケースとして三号の規定がありますね。これはかなり無限定に大きく広がってしまわないか。輸出入に直接伴って譲渡等が行われた場合には禁止条項の適用除外になる。後はもう登録制度に乗せるだけで自由に譲渡、展示と。これはしり抜けになりやしないかという心配がありますが、この点どうですか。

○政府委員(古賀章介君)
 この趣旨は輸出入を除くということでございまして、輸出入を除く理由というのは、先ほど来いろいろ申し述べておりますように外国為替及び外国貿易管理法及び関税法により行われておるところでございますから、それとの二重規制を避けるために輸出入を本法の対象から除いた、こういうことでございます。

 そこで、この表現でありますけれども「希少野生動植物の輸出又は輸入に直接伴って譲り渡し、若しくは譲り受け、」云々、こういうことが規定されておりますが、「直接伴って」という極めて限定的に書いてあるわけでありまして、例えば商社が外国から野生動植物を輸入をする、それを動物園に譲り渡すというような場合には、これは輸入の許可はその商社がとるわけでありますけれども、その商社からその動物園に法律的には所有権が移転するというようなことになりますので、そういう「直接伴って」云々というこの規定がなければともに許可対象になるわけでございます。しかしながら、実際に外国から野生動植物が入ってまいりますのは直接動物園に行くわけでありまして、その間に輸入許可をとる商社というのはただ形式的な経由ということでございますから、そういうものにつきましては、輸出入に直接伴って譲り渡しをするということでありますから実態的にはそういうものを外してもこれは別に支障はないという考え方でございます。

 今先生が御懸念を示されました、何かこれが非常にふえるのではないか、拡大されるのではないかというようなことは全くないわけでございまして、輸出入を除くという趣旨にほかならないということでございます。

○近藤忠孝君 外為法や関税法などできっちりできるというんですが、これは先ほど来議論があったところですね。私はこの点について意見だけ申しておきます。

 外為法や関税法はワシントン条約の求めるところとは立法趣旨が違うと思うんです。あくまでも日本の貿易政策の問題あるいは関税の問題、そういった立場からのチェックなんですね。ですから、やはりワシントン条約をしっかり受けたこの法律によって輸入のところできちっと規制をしておかないと私は十分な対処ができないと思うんです。この後、時間の関係で、たくさん問題あるけれども没収の問題とそれから返還の問題に絞ってやりますが、この重要な二つの問題について、この法律によって輸入のところでチェックしてない、国内での売買のチェックだけですからね、そういうことで没収や返還問題で極めて不明確な問題になっているということだけ申し上げておきたいと思うんです。あくまでもワシントン条約の趣旨を踏まえるならば、この法律できっちりと輸入の段階で規制すべきだということを申し上げて、次に入ります。

 一つは返還の問題です。例えばキンクロライオンタマリンのブラジル返還のケースを一つとりましても、没収そして返還規定は極めて大事な問題ですね。ワシントン条約第八条では「締約国のとる措置」として、処罰の問題と「違反に係る標本の没収又はその輸出国への返送に関する規定を設けること。」となっている。ところが、設けてないんですね。これはなぜなのか。

○政府委員(古賀章介君) 「違反に係る標本の没収又はその輸出国への返送に関する規定を設けること。」、これは「又は」でございますから、どちらかを選び得るわけでございます。我が国は、ワシントン条約に加入いたします際にこの「違反に係る標本の没収」ということでいわゆる水際規制の道を選んだわけでございます。それで、関税法の中には没収の規定があるわけでございますから、この条約の求めておる要件というものはこの国内法がなくても関税法の没収の規定で満たしておるということでございます。

○近藤忠孝君 返還の問題はどうですか。

○政府委員(古賀章介君) 返還につきましても、これは返還それ自体を義務づけられてはおりませんし、また、返還の規定を国内法で規定することも条約上は義務づけられておりません。これも何回か御答弁いたしましたように、ワシントン条約で禁止されている野生動植物の没収などをいたしました場合に、すべての場合に原産国に返還することが今申し上げましたように義務づけられていないということ、それから、一たび人工飼育化に入ったものにつきましては慎重な取り扱いが必要であるということ、返還の規定がなくても必要に応じて返還ができるということなどの理由から個々具体的なケースに応じて判断するのが適当であるという考え方に立っております。しかしながら、本法の第十三条では、希少野生動植物が本法に違反して譲渡が行われ、没収等により国庫に帰属した場合には、関係行政機関の長はその保護のために適切な措置を講じなければならないという規定がございます。この措置により適切な収容、飼養施設への収容でありますとか、必要に応じて輸出国または原産国への返還も行い得るものでございますから、この十二条の規定によって返還できるということでございます。

○近藤忠孝君 確かに条約には返還のほかに輸入国の保護センターに送ってもよいと、こういう規定があることは事実です。しかし根本的な問題として、やはり野生動植物は生まれたところに返す、向こうでどう扱うかはまた次の問題ですけれども。やはり日本は設備がいいとおっしゃるかもしれぬけれども、幾らいい設備でありましてもしょせんやっぱり日本なんですね、生まれたところじゃないわけですよ。生まれたところへ戻せばその種の保存が一番確実な方法で守られる。私は、これは条文上の問題よりも野生動物にどういう態度で臨むかという基本的な姿勢の問題だろうと思うんですね。だから現地への返還が原則であるべきです。

 それについては費用の問題がありますわね。特に開発途上国が多いですからね、輸出国に費用負担させたらばとてもそれは大変なことになるというんです。それも国際会議で議論になって、日本代表は何か業者に負担させるのは気の毒だと言ったようですが、それでまた批判が起きているんだけれども、やはり業者にもきっちり責任を負わせる、こういう規定をしっかり設けることによって生まれたところへ返すという一番の原則を貫く態度が必要ではないかと思いますが、この点いかがですか。

○政府委員(古賀章介君) 原産国から他の国に輸出をされまして輸出先におきまして没収される、管理当局によって没収された場合に、その原産国に戻すことが野生動植物にとってよい状態なのかどうかということは、必ずしもよいとは言えないのではないかというような意見がございます。と申しますのは、原産国に戻すということがすべてよろしいのかということになるわけでありますが、それをすべて野生に戻す、例えばジャングルにすぐ戻すというようなことが果たしてよろしいのかということになりますと、一たび人工飼育のもとで飼われてしまったような野生動植物でありますとジャングルに戻す場合には適応ができないということになりますから、そのためのいろいろな野生に戻る場合のトレーニングと言いますか、リハビリと申しますか、そういうような措置が必要であるというふうに専門家は言っております。

 そのような施設が受け入れ国すなわち輸出国で完備しておるかどうかということになりますと、発展途上国が多いわけでございますから必ずしもそうはいかないというような状況にありますので、これはやはりケース・バイ・ケースによって、また、相手国の要請があるかどうかというような問題も含めまして個々のケースに応じて慎重に検討をし、判断すべきものであるというふうに考えております。
    ―――――――――――――
○委員長(曽根田郁夫君) この際、委員の異動について御報告いたします。
 ただいま原文兵衛君並びに森下泰君が委員を辞任され、その補欠として守住有信君並びに福田幸弘君がそれぞれ選任されました。
    ―――――――――――――

○近藤忠孝君 今の局長の答弁は、私は日本の思い上がった考えだと思うんですね。しょせん、日本に置いたんではその動物があと寿命をせいぜい保つだけですよ。せいぜい生きるだけですね。やっぱり種としての保存、種としての今後の育成を考えれば、現地がどういう状況か、それはいろいろ条件はあると思うんですが、しかし、まず生まれたところへ戻すというのが私は一番自然に合致した態度だと、こう思います。時間の関係でその程度にしておきますが、没収の点につきましては、今多くの扱いは押収していますからね。後は任意に所有権を放棄させてそして次の扱いをしておる扱いがほとんどだと思うんですね。そして、この没収についてはいわば裁判の手続を経るということになります、結局ね。そうすると、本当にこれで事態にマッチした対応ができるだろうかと。

 そこで私は一つ提案をしたいんですが、没収処分について行政措置として没収できるという規定をしっかり設けること、これが私は本当に悪質な者をしっかり規制をし、また後の処置もしっかりやっていくために必要だと思うんですね。要するに没収というのは刑罰ですから、普通の裁判手続を踏んだ上で判決で確定しませんと没収できませんよね。これでは本当におくれてしまうのです。だから、行政措置としての没収の道を探るべきじゃないのか、その道を検討しそういう措置をとるべきじゃないか。いかがですか。

○政府委員(古賀章介君) 本法では、刑法十九条の規定によりまして主刑に合わせて犯罪にかかわるものを没収するという旨の判決が得られた場合に没収するということになるわけでございます。それはもう先生の御指摘のとおりでございます。しかしながら、行政処分としての没収ということについて私ども検討したんでありますけれども、これは、裁判によらず行政主体が私人の財産を無償で剥奪するということになるわけでございまして、憲法の定める財産権の保障とのかかわり合いもございまして難しい問題ではないか。我が国の法体系では、未成年者飲酒禁止法でありますとか未成年者喫煙禁止法などの戦前のわずかな立法例しかないわけでございまして、行政主体による没収というのは今の時代としてはいかがなものかというふうに考えております。

○近藤忠孝君 政府の方から憲法の講義を受けるということは余りないことでありますけれども、まあ大変結構だと思うんですね。結構なんですが、今の制度上も没収という制度がありますね。これは、少年法二十四条の二、それから刑訴の保証金を裁判やらずに取れる、民訴の保証金もそうですね。それから独禁法六十三条にも供託物の没収があるんですね。ただ大事なことは、今も局長言ったとおり憲法上の問題として行政庁の判断で取っちゃやっぱりいかぬと思うんです。

 私の提案は、この没収をする場合に裁判所の判断に係らせるが、その本体の裁判が確定し刑として没収の判決があるまで待つんじゃなくて、これは決定段階でね、要するに口頭弁論なんか経ないで決定できる措置として裁判所へ申請をし裁判官の判断で没収していいかどうか、これでしたら可能な道が、現にほかにも制度あるんですから、そういう憲法上の配慮もすれば私の提案大変にいい提案だと思います。それも性格的には行政措置としての没収だけれども、その判断を裁判所に係らせるということになりますし緊急な対応も十分できるんじゃないかと思うんですが、どうですか。大変いい考えじゃないでしょうか。

○政府委員(古賀章介君)
 勉強させていただきます。

○近藤忠孝君 そういう法案が出てくればもろ手を挙げて賛成しますので、ぜひ検討してもらいたいと思います。

 あと残った時間に陳列の問題について質問します。

 売買取引が原則禁止の種、これが要するに陳列の対象になりますが、これだけじゃ不十分じゃないかという問題です。要するに、大体密輸、密売をしようとする者はそんなもの店に飾りませんよね。倉庫かどこかに置いておいてそこへひそかにお客さんを連れていって、そこで閲覧させ取引をする。こんなものは今回の法律では規制対象にならないのではないか。そういう意味では、売買取引だけじゃなくて陳列も禁止事項をもっと広げるべきではないか。それから、販売目的のものだけに限定するのは狭いんじゃないか。例えば貸し出しのための展示もありますね。それから、販売、営利を目的とする貸し出しなどの目的のために所持すること、それも禁止しないといけないのではないかという点であります。
 それからもう一つは立入検査権、これは販売目的で陳列している者に限定しているのはやっぱりぐあい悪いわけで、今の点からも販売、賃貸しその他営利目的、また営業のために所持している者などに対しても立入検査が行われるべきじゃないか。

 以上、まとめてお答えいただいて、質問を終わります。

○政府委員(古賀章介君) 本法は絶滅のおそれのある野生動植物の保護を図りますために国内取引を規制しようとするものでございまして、第四条は、違法な販売に通常随判して一般的に行われる行為、すなわち販売目的の陳列というものを禁止すをことによりまして違法販売の禁止の効果を上げようとするものでございます。今先生の御指摘のようなケースというものがあろうかと思いますけれども、やはり問題は、違法販売の禁止を効果あらしめるようにするためにそれに随伴して行われる販売目的の陳列を禁止をするということでございます。

 それから立入検査につきましては、やはり立入検査の相手方というものを幅広くとるというような考え方もあると思いますけれども、これはやはりいろいろ権利の制限にかかわる問題でございますから慎重を期するというようなこともございまして、許可を受けた者それから販売目的で陳列をしている者というものに限定はしておるわけでございます。それについての御意見があろうと思いますけれども、この立入検査というものが実際に運用されるのはこういったところに行われるわけでございますから、法の運用を通じまして十分効果が上がるようにしてまいりたいというふうに考えております。

○近藤忠孝君 終わります。

(以下略)

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