主催:ナショナルバイオリソースプロジェクト・マカクザルバイオリソース委員会
後援:京都大学霊長類研究所

 

(AVA-net会報 2004/1-2 104号掲載)
※現在、AVA-netは存在しません。吸収合併した団体についても活動を支持しておりません。

 
2003年11月23日、愛知県犬山市で行われたニホンザルの実験利用に関するシンポジウムに行ってきました。

発表内容

マカクザル・バイオリソース・プロジェクトの構想とこれまでの経緯
(岡崎国立共同研究機構・生理学研究所 伊佐 正)

違法利用の問題などによって2000年ごろから野生ニホンザルの入手が困難になり、問題解決のためには繁殖施設の設立が必要という立場から、各方面への働きかけが行われてきた。文部科学省が平成14年度から開始したナショナル・バイオリソース・プロジェクトの中で、マカクザルバイオリソース委員会がニホンザルの繁殖供給を行っていくこととなり、中核機関を岡崎の生理学研究所とし、実際の繁殖を京大の霊長研と国内の民間業者の2カ所へ委託することとなった。全国希望調査の結果、年間300頭の供給を目標とし、供給委員会で審査を行いながら全国のユーザーに供給していく計画である。現在、母群確保が一番の問題となっており、動物園からの導入には各地で反対運動が起きているが、法的にも問題のないこの方法に対して何とか国民理解を得たい。

臨床医学と動物実験
(日本大学 片山容一)

脳神経外科医として、脳内埋め込み電極によって脳機能を調整する手術を成功させてきた立場で、動物実験の必要性を説きたい。定位機能神経外科の分野では、動物実験のために開発されてきた定位脳手術の技法を人間に応用し、不随意運動を止めるなど、その成果には目覚しいものがある。脳の中のどの場所がどの機能を担うということを知るためにも動物実験が不可欠だった。今後も新しい治療法開発のために動物実験が必要である。

脳研究の最近の発展と実験研究が果たしてきた役割
(東北大学 丹治 順)

高齢化と教育問題という2つの重大な社会問題から考えてみても、動物実験は必要である。高齢化がもたらす難病の急増、痴呆といった問題は、ゲノム創薬や移植・人工臓器の技術に期待がかかっており、また教育問題も「脳を育む」という研究を必要としている。脳のさまざまな運動野がそれぞれどういった機能を担うのかが最近わかってきたが、そういった脳研究では霊長類を使う研究が中核となっている。

京都大学霊長類研究所のRRS構想について
(京都大学霊長類研究所 松林清明)

研究用サルの質の向上や、飼育環境の改善、保有種・保有数の充実などの理由から、霊長研が独自に立てていたRRS(リサーチ・リソース・ステーション)計画が、バイオリソース・プロジェクトの中でのニホンザルの繁殖を担うこととなった。繁殖母群を現在の倍の1,600頭にする必要があり、1年間に200頭ずつ、6年間導入する計画である。施設に関しては、繁殖用のサルを行動学的研究等にも利用するため、サルらしい行動のできる環境をつくる必要があると考える。現在1ヘクタールの放飼場を自然環境を生かした形で新たに試験的に建設中。

民間施設における繁殖供給構想
(広島国際大学 和 秀雄)

野生動物保護や、実験の質の向上のためにも、動物実験には野生のものを使わず、人間の手で「人工動物」を繁殖、利用していくべきである。繁殖施設の形態の中で、民間として資金的に可能なものには、オス1頭に対してメス4、5頭を1つのケージで飼う「グループケージ方式」がある。どのオスの子供かすぐわかるなどの点でもメリットはある。民間ではお金をかけない方法を模索する必要があり、国からの補助も必要ではないかと考える。

野生ニホンザルの現状と繁殖供給センター
(京都大学霊長類研究所 渡邊邦夫)

今までニホンザルの実験利用に関しては、野猿公苑のサルの利用や、供給センターを作るという話が出ては消えていった。実際には何とかなったからであり、不明瞭な形での野生ザルの利用がずっと続いてきたのが実態である。野生ニホンザルの数自体はおそらく増加傾向だが、猿害の増加はむしろ人間の生活環境の変化によって引き起こされているものであって、年間1万頭の駆除とはいえ、繁殖供給センターをつくらない限り問題解決はできないと考える。東南アジアの安いサルを購入することで現地での生息数が減ることも問題だ。

感想

広く国民の理解を得るためのシンポジウム開催としながらも、実際には実験研究者に法的諸問題を理解させる目的が強かったのではないかという印象です。質疑応答では鳥獣保護法の運用面での解釈をめぐって議論がありましたが、その場面では、研究者の強い「使いたい」という願望を感じました。実験反対側の人間が感情的だと批判されることもしばしばありますが、実際には研究者にもかなり感情的な面があるようです。また、野生ニホンザルの捕獲利用に関しても、今後合法的に利用できるような働きかけがなされていくのではないか?という不安を感じました。

自治体関係者には案内状が送られている様子がある一方、会場から研究者側のの立場として「動物愛護団体を排除するのはいかがなものか」という発言があり、実際には動物保護の立場は歓迎されていなかった気配がありました。動物福祉面の話題も出ましたが、すでに日本に厳しい基準があるとのスタンスでは、認識が甘いのではないかと思います。

脳治療の成果の報告にはすばらしいものはありましたが、人間の脳のどの部分がどの機能を担うかということについては、ペンフィールドなど、患者の脳を直接研究した結果が基礎となっているはずであり、定位脳手術に関しても動物実験がなければ発明し得ないものとも感じられませんでした。将来の夢の技術として描かれているものには、直接脳をいじるものだけに危機感も強く感じさせられました。

—掲載時原稿ここまで—

現ニホンザル・バイオリソースプロジェクトが計画の緒についた頃のシンポジウムです。このころは、子ザルたちが「生産」され実験に「供給」されていくことになるとは、どうしても信じられなかった、というより、信じたくなかったのを覚えています。そのようなことが人間にはできてしまうし、国の税金も使われてしまうのです。

感想の下書きには、「治療を受けた人間の映像だけが一方的に流されることにも疑問を感じた。公平を期すならば、動物実験の映像、さらにそれらのサルが最後にはどうなったのかということをも映像で見せるべきではないだろうか」というメモが残っていました。 (2009.3.24追記)

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