2008.2.2アップ
2008.7.11 リンク追加
2008.7.26 リンク追加
2008.8.6 参考文献追加
2013.1.27 EUの2014年禁止について情報追加
2015.6.20 日本の公定法改正について情報追加

2015年3月、下痢性貝毒のみ、日本も動物実験が機器分析法に代替されました。
経緯などは、PEACEのブログを参照ください。


~貝毒の検査にマウス ドイツではすでに禁止~

最近*「貝毒が出た」というニュースがしばしば聞かれます。貝毒にもいろいろな種類がありますが、日本で問題になるのは下痢性貝毒と麻痺性貝毒の2種類です。

貝毒は、貝自体が毒を作り出しているものではありません。人間にとって有害な物質を持ったプランクトンが海水中にいるため、その毒が蓄積され、二枚貝が毒をもつようになるものです。昔は日本近海では出なかったそうなのですが、現在、汚染は世界中で拡大しています。

そして諸外国と同様、日本でも、貝の出荷前にマウスを用いた安全性試験が行われています。厚生労働省はマウスを用いた検査法を公定法として定めており、貝毒の毒性を表す単位自体が、マウスの致死量を表した「マウスユニット(MU)」という名称になっているほどです。検査は、腹腔内に特定の処理をした貝の抽出液を注射する方法がとられています。

では貝毒が出た場合、その試験ではマウスはどのような死に方をするのでしょうか? 以下は、基準値以下の値の場合ですが、実際に試験に携わっている方に聞いた状況です。

麻痺性貝毒で死亡したマウスの状態ですが、かなり惨いです……。

はじめは他の注射されたマウスと同様じっとしていますが、

次第に口をパクパクさせはじめ、目を見開いてもがきジャンプ

しだします。

その状態がしばらく続き、床に倒れてから三回ほど大きく体を

ひくつかせて
死んでいきます。

その間、1分程ですがかなりの苦しみようでした。

口を開けてケースに手をつけて立ち上がり、苦しんでいる顔が

忘れられません……。

今回、注射してから苦しみだすまで6~7分程だったので、

毒性が強ければ、その時間が短縮になり、

同じように苦しむかまたはそれ以上に苦しんで死んでいくのでは

ないでしょうか……。

もちろん、貝毒が出ない場合のほうが多いので、試験に使われたマウスが必ずしもこのような死に方をするわけではありません。でも、貝毒が出なければ、今度は追試のために購入されたマウスたちが使われないまま単に処分をされていきます。(公定法では、マウスの体重・週齢が決められているので、次の試験にはまわせません。)

「それでは、もう貝は食べない!」という選択肢ももちろんあるのですが、この試験については、すでに機械検出をする方法や、その他の代替法といえる判定方法があり、実地でもすでに併用されています。また、マウスを用いた方法では、マウスが死ぬかどうかしかわからないため、科学的な検査法としては不十分という声もあります。

厚生労働省や農林水産省も新しい試験法に対してすでに研究費を出しており、公定法として確立できるものが現れれば、厚生労働省が重い腰を上げるのも夢ではありません。

すでにドイツなどEU2カ国ではマウスを用いた貝毒の試験法は禁止となっており、また、貝毒は摂取した人間が必ず死ぬような毒ではない(とくに下痢性貝毒には死亡例はない)ことからも、一刻も早く代替法が採用されるべき分野だと言えるのではないでしょうか。

食品の安全に関する行政の取組みについての意見送付先:

厚生労働省食品安全部企画情報課
ホームページ:厚生労働省食品安全情報
メールアドレス:syokucommunication@mhlw.go.jp

FAX:03-3503-7965

*AVA-net会報
2006年7-8号に「身近な動物実験 食べ物編」として寄稿した原稿を改めたものです。
※現在AVA-netは存在しません。吸収合併した団体についても活動を支持していません。

■追加情報

参考文献

「貝毒の謎 ―食の安全と安心―」

(野口玉雄、村上りつ子著 成山堂書店)

貝毒について詳しい本です。

この本には、検査に必要な標準品の精製毒が化学兵器に指定されていて、現在利用できないことがネックだと書かれていました。

また、マウスの系統によっても毒に対する感度が違うそうです。もちろん、動物種によっても感度に違いがあります。

検査で毒化した貝を見つけて流通させないのは「対症療法」だと言えますが、この本は、最終的なゴールは毒化予防につきると書いています。なるほど。

その他追加参考文献

生物の科学 遺伝 別冊No19

「科学は食のリスクをどこまで減らせるか」

第4章 食品汚染有害物質

1. 貝毒の毒性と化学

(大島 泰克   東北大学 大学院生命科学研究科 教授 )

貝毒の試験法は、動物愛護の面からも見直しを迫られている、日本国内でもLC-MS法による検査体制はすでに整っている、公定法の改正の議論をするべきときが来ている、といったことがすでに2006年に書かれていました!

「貝毒の検査法 マウス使わず判定へ」

河北新報 連載・プリズム 記事 2007年7月23日

(佐藤繁 北里大水産学部准教授)

マウスに頼らない試験法の開発を行っているという記事。「哺乳(ほにゅう)動物の生死で食品の安全性を判定するという、実に野蛮な方法でもあります。手間もかかります。」

ドイツの情報(英語)

ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)

Analysis
of Marine Biotoxins
(ポジションペーパー)

Mouse bioassay not suitable as a reference method for the regular analysis of algae toxins in mussels 2005.5.25

翻訳をこちらにアップしました。ドイツの専門家の意見では、マウスを用いた試験は動物福祉の点からだけではなく科学的に適切ではないとのこと。)

EU

EUは、貝毒の動物実験を行ってもいい猶予期間は2014年末に設定されました。

厚生労働省

公定法

下痢性貝毒検査法 PDF

麻痺性貝毒検査法 PDF

厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安心・安全確保推進研究

「貝毒の安全性確保に関する研究」

研究成果データベース

農林水産省

地域研究課 平成15年度新規事業

「現場即応型貝毒検出技術と安全な貝毒モニタリング体制の開発」

概要

図表

水産総合研究センターのページ

水産総合研究センター

平成18年度水産学進歩賞(日本水産学会)

「貝毒の精密分析法の開発及び二枚貝の毒化機構に関する研究」

広島大学

「マウス神経芽細胞を用いた麻痺性貝毒、フグ毒の簡易検定法の実用化」

食品安全委員会

食品安全に関するリスクプロファイルシート

下痢性貝毒 PDF
麻痺性貝毒 PDF

海外の情報(英語)

代替法として教えてもらったページ

http://www.integrin.co.uk/content/view/13/26/

ECVAM

EUの動物実験代替法の評価機関です。

Three Rs Approaches in Marine Biotoxin Testing

2005年にEUでは「ECVAM/DG SANCO Workshop」が組織され、動物を用いない試験法の評価とその採用の可能性などを検討。

※EUは、貝毒の動物実験を行ってもいい猶予期間は2014年末に設定されました。

AOACI

食品などの検査法の標準化、分析手法のバリデーションなどを行う団体で、ここで認められた方法は、ほぼアメリカの公定法と考えてよく、国際取引の際にも利用されるそうです。

AOAC Honors Lawrence for PSP Toxins Collaborative Study

(2006年受賞は麻痺性貝毒の検査法研究)

Feasibility of Reduction
in Use of the Mouse Bioassay:

Presence/Absence Screening for Saxitoxin in Frozen
Acidified

Mussel and Oyster Extracts from the Coast of California
with In

Vitro Methods (マウスを用いた試験の削減)

欧州食品安全機関(EFSA)

EFSAopinion on okadaic acid marine biotoxins 2008.1.31

下痢性貝毒の一因であるオカダ酸関連毒素に関しての見解。現在の動物を用いた検査法には欠点があると強調し、代替法開発を勧めている。

欧州食品安全機関(EFSA)のCONTAMパネル

Marinebiotoxins in shellfish – okadaic acid and analogues- Scientific Opinion ofthe Panel on Contaminants in the Food chain 2007.11.27

(現在EUで公式に採用されているマウスとラットを用いた評価法は、オカダ酸グループの毒素を評価するには不適切。
低濃度のものや、ある種の毒素を検出できない。 代替法の採用には、国際的に認められた方法によってバリデーション(評価)された方法であることが必要。phosphoprotein-phosphatase
assayやLC-MS法が代替法としての可能性を持つ。)

魚類および水産物に関するCODEX委員会
(CCFFP)

イギリスの情報(英語)

The
3 “R”S approach to marine biotoxin testing
in the UK

(2007年、第6回世界動物実験代替法会議での発表演題。動物保護の法律と、食品衛生の法律がコンフリクトを起こしている。)

ニュージーランドの情報(英語)

Laboratory receives awardfor seafood toxin test that provides an alternativeto animal testing

(2008年、National Animal Ethics Advisory Committee (NAEAC)
の3R賞は、マウスを用いた貝毒検査の代替となるような試験法の開発に対して与えられた。これは、ヒト骨格筋由来の電位依存性ナトリウムチャネル(VGSC)を用いた試験法で、およそ1時間で結果が出る。)

検査キット

日本トロピカルセンター DSP Rapid Kit

「貝に毒? 簡単判別」 沖縄タイムス 2007年5月12日(土)

下痢性貝毒を簡易、迅速に判別する検出キットを発売。国際学会で同製品の試作品を展示したところ、世界各国の研究者から早期の販売を求める声があったそう。

■用語集

DSP 下痢性貝毒

PSP 麻痺性貝毒

MBA法 マウス・バイオアッセイ。マウスを用いた試験法のことです。

LC-MS法 液体高速クロマトグラフ(LC)と質量分析計(MS)をあわせた検出法。高速液体クロマトグラフ質量分析計。

 
戻る