東北大学医学系研究科附属動物実験施設における動物実験計画審査願等の一部開示決定に関する件 (平成13年諮問第239号)
http://www8.cao.go.jp/jyouhou/tousin/003-h14/057.pdf

諮問庁:東北大学総長
諮問日:平成13年12月21日
答申日:平成14年6月11日
事件名:東北大学医学系研究科附属動物実験施設における動物実験計画審査願等の一部開示決定に関する件
(平成13年諮問第239号)

答申書

第1 審査会の結論
東北大学医学系研究科動物実験施設の動物実験審査願及び購入動物の種類
毎の納品書(以下,「本件対象文書」という。)につき,行政機関の保有する情
報の公開に関する法律(以下「法」という。)5条1号,2号及び6号の規定
に該当することを理由に一部開示とした本件決定において不開示とした部分
のうち,別表に掲げる「開示すべき部分」を開示すべきである。

第2 異議申立人の主張の要旨
1 本件異議申立ての趣旨は,法3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に
対し,平成13年7月23日付け総広情6号により東北大学総長が行った一部
開示決定について,これを取り消し,本件対象文書の開示を求めるというもの
である。
2 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての主たる理由は,異議申立書,意見書(5
通)の記載及び意見陳述によると,おおむね以下のとおりである。
(1)情報公開法が施行されたことにより,公費を用いて行われる動物を用いた研
究の一端を,国民がようやく知り得ることとなった。しかし,このような国民
の知る権利に逆行するかのように,東北大学は依然としてこれを秘密とするべ
く,実験計画書等の大部分を不開示処分としたが,以下にその処分の不当性を
述べる。
ア 国立大学の説明責任について
日本では欧米諸国と異なり動物実験に関していかなる法規制もない状態で
あり,動物実験施設における動物の状況(虐待・実験方法・実験内容・動物の
運搬・飼育保管・殺処分・死体処分の方法)やそれに関わる費用(実験規模・
実験コスト・実験の成否等)については,公的機関による実態把握がほとんど
なされていない。動物に対する取扱いも,研究者個人の良識に依拠しており,
残酷で無益な研究が行われていても,それを外部からチェックする仕組みも評
価を受ける仕組みもない。
国立大学における動物を用いた研究は,国民の税金によって支援されている
ものであり,その研究が国民の心身の健康や福祉に寄与していることを知るた
めには,その情報が公開されなければならない。
現在,社会の多くの分野において手続の透明性が求められており,医科学研
究といえども市民社会から遊離しているものではない。特に,国立大学におけ
る莫大な研究予算は国民の税金でまかなわれていることを忘れるべきではな
く,国民への公開の義務と説明責任が求められている。
イ 動物実験計画審査願の中の講座等名,国及び地方公共団体の機関名,動物納
入先の購入者名,研究責任者氏名の不開示について
講座名等を開示すると「外部からの圧力により,研究の適正な遂行に支障を
及ぼすおそれがある」と述べているが,なぜそれを公開すると圧力を受けるの
か,理解に苦しむ。どのような圧力があり,研究に支障があるのか,それを証
明すべきである。公費を用いて公的機関同士で行われる契約が公開できない理
由はない。
日本では,この15年間欧米諸国のような激しい直接行動を伴う動物実験反
対運動が起こっている形跡はない。一部の非常識な動物実験反対者からの手紙
やメールが寄せられることをもって,情報を不開示とすることは根拠がない。
社会のどのような分野にも極論を持つ人は存在し,中には常軌を逸した行動を
とる人も存在する。しかし,そのようなごく一部の極端な例をもって,国民の
知る権利を否定することは許されない。日本が法治国家である以上,悪質な嫌
がらせや違法行為に対しては警察に対処を求めるのが筋である。
一部の非常識な嫌がらせとは比較にならないほど,実験研究者が集団で法規
制に反対したり,実験動物の払下げを要求して,行政機関や地方自治体にかけ
る圧力の方が悪質ではないか。
既に他の国立大学では,学部,講座,部門名までを公開しており,教授等責
任者名も明らかにしている。研究責任者名の公開は,各研究機関に対して,か
けがえのない動物の生命に対する責任を有しているということを自覚させる
ために最低限必要な措置である。特に国立機関の場合は公務員又は準公務員と
して氏名の公開は当然であり,職員録等によって既に公表もされているのであ
って,これまで隠すことは妥当性を欠く。
さらに,動物実験委員会の委員長名が非開示とされているが,不当である。
欧米諸国では,動物実験を審査する機関については必ず外部の人間を含めるこ
とになっている。国によっては地域住民の代表や動物保護団体を入れることを
義務付けている。動物実験計画を審査する委員は公平を期すためそのメンバー
は公表されるべきであるが,東北大学では委員長名さえ非公開である。これで
は審査自体の客観性が疑われる。
ウ 実験動物の入手先及び納入業者名を特定できる情報の不開示について
実験動物の購入は,多くの場合,消耗品扱いとされている。公的機関が事務
用品などの消耗品を購入する場合,その購入先を非開示とすることは一般にあ
り得ないであろう。
法人情報について,法5条2号イは「公にすることにより当該法人又は当該
個人の権利,競争上の地位その他正当な利益害するおそれがあるもの」と定め
ており,東北大学は,不開示理由として,同号イに該当すること及び業者から
情報公開しないよう要請があったとしている。
しかし,実験動物の購入先を公表することは,何ら納入した法人の正当な利
益を害するものではない。実際に談合を防止し適切な価格で納入が行われるこ
とが確保されるためにも,業者名の公表は必要である。国立大学が購入した実
験動物は実験研究者個人の財産ではなく,国民共有の財産である。
実験動物の購入について,他大学での違法行為が明らかになっており,社会
的に実験動物の流通ルートに関して疑念を持たれている中で,購入先名を不開
示とすることは,このような批判をいたずらに助長するだけであり,積極的に
業者名を明らかにすることが,公金を使用している国立大学として当然の対応
である。
また,東北大学は購入先名を公表すると,購入先に対し嫌がらせの手紙や危
険が及ぶと主張しているが,納入先名公開による上記のような公益を損なって
でも必要なほど,購入先に対して危険が及ぶことを東北大学は証明しなければ
ならない。
なお,東北大学は,購入先に問い合わせたところ,購入先から開示しないよ
う要請があったことも理由に挙げているが,情報公開法上には,このような法
人の申し出による情報非開示を正当化する定めはなく,これを理由にすること
は情報公開法に反するものである。
実験動物業者名は,学会誌の広告や学会での製品陳列コーナー等で十分に一
般に知られている。また,実験動物取扱業者の名前や住所は公刊されている印
刷物等によっても公表されており,業界団体名簿もある。しかも,東北大学は,
同大学動物実験施設年報において,動物実験施設に入った外部の人間の氏名及
び所属を公表している。公表済みのものを公開しても正当な利益を損なうもの
ではない。
開示された34計画書のうち,20件は仙台市から払い下げを受けたイヌを
使用した実験である。東北大学は仙台市から買い主が遺棄したペットを譲り受
け実験に使用しているが,買い主が行政に処分を委託した動物は市の財産に帰
属するものであり,市民の請求に応じて行政は処分先と処分方法に関して既に
これを開示しており,大学側が隠すいわれはない。
なお,平成12年12月25日付けで国立大学医学部長会議が出している「動
物実験に関する情報公開について」も,動物の入手先の情報は開示の対象とな
ると考えられるとの見解を示している。
エ 研究課題・動物実験目的,動物実験の方法欄中の研究の優先権に関わる部分
の不開示について
「未発表の研究論文や知的所有権に関する情報を含み,開示した場合に特定
の者に不当な利益や不利益を及ぼすおそれがあり,また,自由な発想,創意工
夫や研究意欲が不当に妨げられ,減退するなど,能率的な遂行を不当に阻害す
るおそれがある」とのことだが,これは以下の理由で不当である。
① 公開できないような実験内容であるとすれば,よほど知られては困るような
実験ではないかとの推測を広げるものである。公共機関が公共の利益のためと
称して行っている研究の目的を非開示とすることは,理解しがたい。
② 研究計画が公開されないことは無数の重複実験を生み出すことになり,国民
の財源の浪費である。動物実験の代替法の専門家によれば,重複実験をチェッ
クするだけで年間100万匹の実験動物の犠牲は不要になると言う。実験計画
のみならず実験後の評価や,予期した結果が得られなかった実験のデータなど
も公にデータベース化することによって,重複実験を避ける努力をするべきで
ある。
③ 国立大学における動物を用いた研究は,国民の税金によって支援されている
ものであり,その研究が国民の心身の健康や福祉に寄与していることを知るた
めには,その情報が公開されなければならない。しかし,東北大学が実験の目
的や方法を不開示としたことは,その研究の妥当性そのものに大きな疑念を抱
かせるものである。国民の健康と福祉に係わる医学研究であり,かつ,動物の
生命を犠牲にする動物実験という行為を,閉鎖的な内部関係者だけで判断し情
報を不開示とすることは公益に反する。
(2)動物実験は,他の分野の研究と異なり,命ある存在である動物に対する苦痛
や侵害に対する配慮を要する点から,より強く社会の倫理的関心を招くであろ
うし,それゆえに実験研究者は他の分野の研究者以上に,それに対する社会的
責任が課せられている。
また,それゆえに欧米諸国では動物実験に対する法的規制を設け,法改正な
どを重ねつつ社会的な合意形成に向けての努力をしている。
しかし,今回の東北大学の不開示処分及び理由説明は,国民に対して論理的
に説明しようとする誠意が感じられず,到底容認することができない。
したがって,本件開示請求文書については全面開示すべきである。

第3 諮問庁の説明の要旨
1 東北大学の動物実験計画審査願について
我が国では,「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)24条(動
物を科学上の利用に今日する場合の方法及び事後措置)」及び「実験動物の飼
養及び保管等に関する基準(昭和55年総理府告示第6号)」並びに全国の動
物実験を行っている各大学で制定されている「動物実験指針」に従い,更に研
究機関における自主的な管理システムを設置し,適正な動物実験の実施に多大
な努力を払っている。
本学においては,「東北大学における動物実験に関する指針」が制定され,
動物実験を行っている部局には動物実験委員会が設置されている。
本学における動物実験計画書の審査システムは,平成元年に確立され,動物
実験委員会による審査が開始された。当時の計画書は,特に動物実験の方法の
記載が簡単であったため,平成7年度に様式を変更し,動物実験の目的及び方
法を詳細に記載することとし,その実験方法から想定される動物へ与える苦痛
の程度を研究者自ら評価することとした。前者は,目的及び方法を詳細に記載
させることにより委員会の判断をより正確にするためである。また,後者は研
究者自らが動物へ与える苦痛を考え評価する機会を持ち,これについて委員会
との議論を通じて苦痛の評価を一致させ,更により苦痛の軽い実験処置を行う
努力を委員会と研究者が行うためのものである。
したがって,現在,委員会は実験計画申請者に対し,計画の必要性を評価す
るために,詳細な研究のプライオリティに関する部分や,苦痛の程度を評価す
るために詳細な実験方法を記載することを求めている。これまで申請者は,計
画の詳細が他へ公開されないことを前提として,できるだけ詳細に記載してい
る。
ちなみに,動物実験計画審査願を詳細な様式に変更することにより,動物実
験委員会から意見付加した許可件数は変更後徐々に増加し,平成12年度は1
12件中40件に意見付加が行われた。
2 不開示部分とその理由について
(1)「動物実験計画審査願」について
ア 講座等名,講座責任者氏名,講座責任者の印影,動物実験責任者,動物実験
従事者の氏名,所属名,内線番号並びに動物実験責任者署名について
動物実験に対しては,欧米を中心に反対運動があり,一部の過激な考えの
人々は動物実験を行う研究者やその支援者に対して,身体への危害や生命の危
険を与えるような運動を行っていることは,マスコミ等に報道されているとこ
ろである。我が国にもこれらの考えに同調する一部の人々がおり,研究者に対
して嫌がらせを行っている。
今回,請求のあった犬,猫,サルを用いた「動物実験計画審査願」は,特に
これらの人々の標的となるものであり,これらのコピーが,一部過激な考え方
の人々や団体に渡り,それぞれの研究の研究者名が特定されると,研究者が
数々の不当な圧力を受ける可能性を考慮しなければならない。
実際,動物実験を行っている研究者が氏名を公表したことにより,幾多の嫌
がらせを受けたきた例がある。さらに,新聞等に動物実験による研究成果が掲
載されると,その研究者に対して葉書や電話での嫌がらせを集団的に行ってい
る団体がある。研究者は,自分の研究を公にする場合には,自らの身を守るこ
とも念頭に置かなければならない状況である。このような状況下において,更
に外部からの不当な圧力を受けると,今後の動物実験の適正な遂行に支障を及
ぼすおそれがあるため,不開示とした(法5条6号)。
なお,動物実験従事者のうち,学生の氏名,講座等名及び電話番号について
は,個人を識別できる情報であるため不開示とした(法5条1号)。
イ 動物実験従事者の本学以外の国及び地方公共団体の機関に所属する者の氏
名,機関名,所属名,電話番号について
本学以外の国及び地方公共団体の機関に所属する者の氏名,機関名,所属名,
電話番号が記載されている「動物実験計画書」のコピーが動物愛護の一部の過
激な考えの人々や団体に渡ることにより,本学と共同研究を行っている当該機
関の動物実験従事者が数々の不当な圧力を受ける可能性がある。このことによ
って,実験に参加した他機関の共同研究者の協力が得られなくなり,実験の継
続が難しくなることから,当該機関と本学の共同研究が不可能になるおそれが
あり,本学の研究の適正な遂行に支障を及ぼすこととなるので不開示とした
(法5条6号)。
ウ 動物実験委員会の本実験計画に対する意見欄の動物実験判定者の印影並び
に動物実験委員会委員長の氏名及び印影について
動物実験委員会は,研究者から提出を受けた計画書を審査し,不適切,無意
味な実験がないように,また,研究者が実験において動物への苦痛の程度を真
剣に考え,その排除法を的確に行うよう動物実験を監視し,適切に実験するよ
う指導している。
「動物実験委員会の本実験計画に対する意見欄」の判定者の印影及び動物実
験委員会委員長の氏名並びに印影を開示すると,委員会委員及び委員会委員長
が一部過激な人々や団体から不要な圧力を受ける可能性があり,今後の実験計
画の適正な判定及び委員長並びに委員の選出に支障を及ぼすおそれがあるた
め不開示とした(法5条6号)。
エ 実験動物の入手先名・納入業者名及び納入業者名を特定できる情報の不開示
について
①実験動物の入手先名(国及び地方公共団体の機関名)について
動物入手先のうち国又は地方公共団体の機関名については,当該入手先名を
開示した場合,「動物実験計画書」のコピーが動物実験反対の運動の一部過激
な考えの人々や団体に渡ると,これら入手先が数々の不当な圧力を受けること
により,今後の当該機関等から動物の供給を停止される可能性がある。これに
よって,本学の事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから不開示
とした(法5条6号)。
なお,仙台市から譲渡を受けたイヌ・ネコを使用しての動物実験計画書は,
その旨を表示して部分開示をした。
②実験動物の入手先名(国及び地方公共団体を除く法人等)について
動物入手先のうち国又は地方公共団体を除く法人等については,当該入手先
を開示した場合,これらの情報が動物実験反対運動の一部過激な考えの人々や
団体に渡ることにより,当該法人が数々の不当な圧力を受ける可能性があり,
今後の当該法人の適正な事業の遂行に支障を及ぼすおそれがあるため不開示
とした(法5条2号イ)。
オ 研究課題・動物実験の目的,動物実験の方法欄の研究の優先権に関わる部分
等の不開示について
国立大学協会第7常置委員会から出された「国立大学における情報公開につ
いての検討結果報告」(平成12年10月1日)では,「情報公開法は,国の行
政機関に適用されるものであり,したがって国の行政機関の一翼を担う国立大
学においても,法律の趣旨を真摯に受けとめ,自己の保有する情報の公開に積
極的に対応することが要請されている。他方,これまでの最先端の教育・研究
を担ってきた国立大学は,国際的競争の中でさらに教育・研究の水準を向上さ
せることが要請されており,そのために必要な知見や技術の集積は的確に保護
されなければならない。また,研究や人事に関する情報が不用意に公表され,
外部から不要な圧力を受けることがあってはならないことも当然である。」と
述べている。
この度の開示請求に対しては,研究の優先権に関わる部分が一部開示されな
くても,動物実験時における苦痛の排除・軽減方法など動物の取り扱いについ
ては,十分に開示した。また,動物実験の目的や方法における研究の優先権に
関わる部分については,研究終了後に公表される論文や学会発表によって公開
されている。また,研究計画段階における実験方法は,今回開示した「動物実
験計画書」により本研究科動物実験委員会において適正に審査されているとこ
ろである。
異議申立書で指摘している「研究課題」,「動物実験の方法」の欄には,研究
の優先権に関わる未発表の研究論文や研究計画等の知的創作物に関する情報
を含み,開示した場合に特定の者に不当な利益や不利益を及ぼすおそれがある。
また,自由な発想,創意工夫又は研究意欲が不当に妨げられ,公正かつ能率な
遂行を不当に阻害されるおそれがあるため一部不開示とした(5条6号ハ)。
(2)購入動物の種類ごとの納品書について
ア 動物納入先の学部名,講座名,研究室名,受領者の氏名及び印影の不開示に
ついて
動物実験に対しては,欧米を中心に反対運動があり,一部の過激な考えの
人々は動物実験を行う研究者やその支援者に対して,身体への危害や生命の危
険を与えるような運動を行っていることは,マスコミ等に報道されているとこ
ろである。我が国にもこれらの考えに同調する一部の人々がおり,研究者に対
して嫌がらせを行っている。
今回,請求のあった犬,猫,サルを用いた「動物実験計画審査願」は,特に
これらの人々の標的となるものであり,これらのコピーが,一部過激な考え方
の人々や団体に渡り,それぞれの研究の研究者名が特定されると,研究者が
数々の不当な圧力を受ける可能性を考慮しなければならない。
実際,動物実験を行っている研究者が氏名を公表したことにより,幾多の嫌
がらせを受けたきた例がある。更に,新聞等に動物実験による研究成果が掲載
されると,その研究者に対して葉書や電話での嫌がらせを集団的に行っている
団体がある。研究者は自分の研究を公にする場合には,自らの身を守ることも
念頭に置かなければならない状況である。このような状況下において,更に外
部からの不当な圧力を受けると,今後の動物実験の適正な遂行に支障を及ぼす
おそれがあるため不開示とした(法5条6号)。
イ 納入業者の住所,電話番号,納入業者の法人名,代表者氏名及び印影,品名
記号(動物納入業者が特定される部分)及びの不開示について
動物の納入業者は激烈な競争にさらされている。大学の生命科学研究や製薬
メーカーの創薬における開発研究は,グローバル化の下,世界的な競争にさら
されている。これらの研究に用いられる実験動物も,国外,特にアメリカの実
験動物メーカーが日本に進出しており,この分野での経済競争は熾烈なものが
ある。
開示請求対象文書には,動物納入業者の情報が含まれている。これら動物の
納入業者は,法における第三者であることから,当該納入業者に意見を聴取し
た結果,開示反対の意見書の提出があった。
また,上記の情報が動物実験反対運動の一部過激な考えの人々や団体に渡る
ことにより,特定業者が不要な圧力を受けることになる。例えば,2001年
初頭には,英国において,動物実験を行う企業が過激な動物実験反対運動団体
の強い圧力を受けて倒産の危機に直面し,英国政府と米国の銀行の支援を受け
て事なきを得たが,その後も同企業に対する執拗な攻撃が続いている。これに
呼応した形で,日本でも同企業に研究委託していたとされる製薬会社に対して
平成13年10月に動物実験反対運動団体が20数名で抗議行動を行った例
がある。
このように,これらの情報を公にすることにより,動物納入業者はいわれな
き被害を被ることになる。したがって,当該法人の権利,競争上の地位その他
正当な利益を害するおそれがあるため納入業者を特定できる情報を不開示と
した(法5条2号イ)。

第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
①平成13年12月21日 諮問の受理
②同日 諮問庁から理由説明書を収受
③平成14年1月21日 異議申立人から意見書を収受
④同年1月31日 審議
⑤同日 異議申立人から意見書を収受
⑥同年2月15日 異議申立人代理人及び補佐人からの口頭意見陳
述の聴取
⑦同月22日 審議
⑧同年3月4日 諮問庁から意見書を収受
⑨同月7日 諮問庁の職員(東北大学医学系研究科附属動物
実験施設長ほか)からの口頭説明の聴取,本件行政文書の見分及び審議
⑩同月18日 異議申立人から意見書を収受
⑪同月29日 異議申立人から意見書を収受
⑫同年4月12日 審議
⑬同月12日 諮問庁から意見書を収受
⑭同年5月24日 審議
⑮同月29日 異議申立人から意見書を収受
⑯同月31日 審議
⑰同年6月5日 諮問庁から資料を収受
⑱同月7日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件対象文書は,動物実験計画審査願34件及び購入動物の種類毎の納品書
10件である。
(1)動物実験計画審査願について
東北大学においては,動物実験に関して「東北大学の動物実験に関する指
針」(昭和63年3月24日学長裁定)に基づいて,医学部及び同附属病院にお
ける運用内規が定められており,同内規第3の規定により組織される東北大学
医学部及び附属病院並びに医学系研究科(以下「医学部等」という。)動物実
験委員会(以下「動物実験委員会」という。)が,前記指針,動物の愛護及び
管理に関する法律(昭和48年法律第105号)及び実験動物の飼養及び保管
等に関する基準(昭和55年総理府告示第6号)等に照らして,動物実験の適
否を審査することとしている。研究者が動物実験を実施しようとする場合は,
動物実験計画審査願を同委員会に提出し,その審査を受けることとなっている。
動物実験計画審査願の記載内容は,(ア)部局等名,(イ)講座等名及び講座責任者
職,氏名及び印影,(ウ)動物実験責任者及び動物実験従事者の氏名,所属,職名
及び内線電話番号(直通電話番号を含む。),(エ)研究課題,(オ)動物実験の目的,
(カ)安全管理上注意を要する実験,(キ)動物実験実施の予定期間,(ク)動物実験の
実施場所,(ケ)動物の飼育場所,(コ)動物実験を必要とする理由,(サ)使用動物に
ついて(使用動物種及び系統名,使用動物数,入手先),(シ)動物実験の方法,
(ス)想定される痛みのカテゴリーの自己判断,(セ)動物の苦痛軽減・排除の方法及
び保定・拘束の時間について,(ソ)実験終了後の処置,(タ)動物実験委員会の本実
験計画に対する意見(印影を含む。),(チ)委員会判定(判定,有効期限,動物実
験委員会委員長の氏名及び印影)及び(ツ)動物実験計画更新の有無欄(実験責任
者署名)の18項目である。このうち不開示及び一部不開示としている項目は,
(1)講座等名,講座責任者職,氏名及び印影,(2)動物実験責任者及び動
物実験従事者の氏名,所属及び内線電話番号(直通電話番号を含む。),(3)
研究課題,(4)動物実験の目的,(5)動物実験の実施場所(6)使用動物の
入手先,(7)動物実験の方法,(8)動物実験委員会の本実験計画に対する意
見欄の意見及び印影,(9)委員会判定欄の動物実験委員会委員長の氏名及び
印影及び(10)動物実験計画更新の有無欄(実験責任者署名),である。
(2)動物の種類ごとの納品書について
動物納入業者が動物の納品に際して,大学に提出するものであるが,動物名,
納入数及び単価が開示されているが,動物納入業者名(法人名,代表者氏名及
び印影),これを特定し得る品名記号,住所,電話番号,納入事業者の担当者
の氏名,納入先を示す医学部等の講座等名,受領者の氏名及び受領印の印影が
不開示とされている。
2 不開示情報該当性について
本件対象文書を当審査会において見分,精査した結果に基づき,不開示情報
該当性について,以下検討する。
(1)動物実験計画審査願について
ア 講座等名,講座責任者職,氏名及び印影について
動物実験は,大学における研究の一つの方法であり,大学における研究者の
職務遂行そのものである。また,講座等の名称は,研究者の所属や職務の内容
を示すものであることから,法5条1号ただし書ハに該当することは明らかで
ある。
また,一般に市販されている公務員の職員録に,国立大学の教官については,
講師以上の者の氏名が掲載されており,講座責任者は教授であることから,そ
の氏名は慣行として公にされている情報と認められる。
諮問庁は,動物実験を行う研究者の氏名を公にすると,一部過激な考えの者
による嫌がらせや,脅迫など,不当な圧力を受けるとして法5条同条6号に該
当すると主張しているが,通常,研究者はその研究内容の成果を論文等によっ
て発表するものであり,その際に,研究者の講座等名や氏名を自ら公表してい
るところである。
諮問庁の主張するとおり,動物実験を行う施設等に対し,匿名による非常識
な嫌がらせや違法な事例が,現実に発生していることが認められるが,これら
の事例から,現時点においては,直ちに東北大学における研究に支障を及ぼす
具体的なおそれがあるとは認められない。
したがって,講座等名及び講座責任者職・氏名及び印影については,法5条
1号ただし書イ及びハに該当し,同条6号に該当しないものと認められること
から,開示すべきである。
イ 動物実験責任者及び動物実験従事者について
当該欄には,動物実験責任者及び動物実験従事者について,氏名,所属・職
名及び内線電話番号(直通電話番号を含む。)が記載されており,これらのう
ち開示された職名の欄には,教授,助教授,講師,助手,医員,技官,大学院
生が記載されている。動物実験は,大学院生以外の研究者等にとっては職務遂
行そのものであり,その所属は,職務遂行の内容を示すものであることから,
法5条1号ハに該当する情報と認められる。
また,大学院生以外の研究者等のうち,前記アと同様に,一般に市販されて
いる公務員の職員録に掲載されている国立大学の講師以上の者の氏名及び電
話番号については,慣行として公にされている情報として,法5条1号ただし
書イに該当するものと認められることから,動物実験責任者及び動物実験従事
者のうち,講師以上の者の氏名及び内線電話番号は開示すべきである。
研究従事者として記載された者には,地方自治体の職員1名が含まれている
が,当該者については,当該地方自治体の所属機関において,その氏名が慣行
として公にされているものと認められることから,氏名と電話番号を開示すべ
きである。
ただし,大学院生については,その所属,氏名,電話番号について,いずれ
も個人に関する情報であって法5条1号に該当し,同号ただし書イ及びハのい
ずれにも該当しないため,不開示が妥当である。
法5条6号該当性については,前記アのとおり判断する。
ウ 研究課題及び動物実験の目的について
東北大学における動物実験委員会の目的は,実験の必要性,重要性の適否を
判断するとともに,動物に与える無用な苦痛の除去や苦痛レベルの軽減等,動
物福祉の観点から,動物実験委員会がこれらを詳細に把握した上で,動物実験
の適否を判断することにある。そのために,実験責任者に対し動物実験の手順,
方法,動物の使用数や苦痛軽減のための方法などを,詳細に記述することを求
めているものである。現に,実験や研究に関する記述は,専門研究者が正確に
判断するために必要とされる極めて詳細なものであることが認められる。
これら研究及び実験に関する詳細な記述には,研究の概要を集約したキーワ
ードとなる文言が必ず含まれており,例えば,薬品,材料,物質及び対応する
症例などの名称を示す文言一つによって,当該研究者の専門分野及び研究業績
など,その他の情報と照合することにより,研究の目的や観点,独創性及び研
究者としての工夫など,どのような研究を行って,何を開発しようとしている
のか,その研究のアイデアのヒントが判明し得るものである。
このように,研究課題に含まれるキーワードや実験目的の詳細な記述には,
研究の独創性や独自性,着眼点などアイデアが生命である研究者の優先権やプ
ライオリティに相当する部分を含んでいることが認められる。これらの情報が
記述された部分は,研究の進捗状況に関わりなく一律に公にすることにより,
特に特許や実用新案にかかわる研究活動にとって,研究活動を停滞させたり,
研究を中止に至らしめたり,研究上の致命傷になり得るものであり,研究活動
に支障を及ぼす具体的なおそれがあることから,法5条6号ハの不開示情報に
該当するものと認められる。
したがって,研究課題及び実験目的について,その研究のキーワードとなる
文言,創意工夫など,研究の秘密に関し中枢をなす部分について不開示とした
ことは妥当であるが,当審査会が,諮問庁に更に精査をさせた上,特定したと
おり,これらを除いた部分については開示すべきである。
エ 動物実験の実施場所について
動物実験の実施場所について,中央動物実験施設及び臨床分室で実施される
ものについては開示されているが,「その他」に印が付されたもの2件につい
て,実施場所である研究室名が不開示とされている。
動物実験は,研究者の職務であり,その実施場所は,職務遂行に係る情報で
あると認められるため,前記アと同様の理由により,開示すべきである。
オ 使用動物の入手先について
使用動物の入手先については,国公立の機関などの実験動物供給先の名称,
実験動物を扱う民間事業者の法人名が記載されている。
実験動物の入手先のうち,実験動物を扱う民間事業者の半数以上の者から,
その法人名の開示について,強い反対意見が示されているところ,これらの反
対意見が企業の正当な利益を害されるおそれを現実の可能性としてとらえて
いることを考慮すると,その危惧を否定することはできない。
また,現に英国において実験動物を取り扱う特定の企業が,過激な動物愛護
団体等の圧力を受けて倒産の危機に瀕したこと等にかんがみると,当該法人の
権利競争上の地位その他正当な利益を害されるおそれがあることを否定でき
ないことからも,これらの民間事業者の法人名は,法5条2号イに該当するも
のと認められる。
一方,国公立の機関名については,その名称や事業内容は,既に公にされて
いるものであり,実験用動物の供給を停止するに至るとは認められず,法5条
6号に該当しないものと認められる。
なお,実験動物を扱う民間事業者のうち,開示に支障がないとしている事業
者については,当該事業者の事業内容及び事業規模等から,正当な利益を害さ
れるおそれがないと判断しているものと考えられ,その法人名は,法5条2号
イに該当せず,また,これを公にしても当該事業者が実験用動物の供給を停止
するに至るとは認められないため,同条6号にも該当しないものと認められる。
したがって,国公立の機関名及び開示に支障がないとしている実験動物を扱
う民間事業者の法人名については,開示すべきであるが,それ以外の実験動物
を扱う民間事業者の法人名については不開示が妥当であると判断する。
カ 動物実験の方法について
前記ウと同様の理由により,動物実験の方法についても,動物実験委員会は
詳細な記述を求めている。動物実験の方法欄には,研究者が行う実験について,
その手順や材料,器具,機材の使用等に関するノウハウなどが詳細に記述され
ており,法5条6号ハに該当する記述を含むものであることが認められる。
したがって,動物実験の方法について,その研究のキーワードとなる文言,
創意工夫など,研究の秘密に関し中枢をなす部分について不開示としたことは
妥当であるが,当審査会が,諮問庁に更に精査をさせた上,特定したとおり,
これらを除いた部分については開示すべきである。
キ 動物実験委員会の本実験計画に対する意見欄及び印影について
動物実験委員会が付した意見は,34件中33件について開示されている。
不開示とした1件につき,諮問庁は実験方法が推認されるためとしているが,
当審査会の見分結果によっても,直ちに秘匿すべき実験方法が推認されるもの
とは認められず,意見は,動物実験委員会がその審査業務を適正に遂行してい
ることを示す情報であり,法5条6号ハに該当するものとは認められない。
また,当該欄の認印は,動物実験委員会が職務として判定したことを示すも
のであり,職務遂行の内容に係るものである。また,印影が示す特定の者の氏
名は,市販されている公務員の職員録に掲載されており,慣行として公にされ
ているものと認められることから,法5条1号ただし書イ及びハに該当するも
のと認められる。
なお,法5条6号該当性については,前記アと同様に判断する。
したがって,動物実験委員会の意見及び印影は開示すべきである。
ク 委員会判定欄の動物実験委員会委員長の氏名及び印影について
動物実験委員会が職務として実験計画の承認の是非を判定した結果は,職務
遂行の内容を示すものである。委員長は,動物実験委員会の最高責任者であり,
大学における地位及び職務の重要性にかんがみれば,その氏名は,慣行として
公にすることが予定されているものと認められることから,法5条1号ただし
書イに該当する。
法5条6号該当性については,前記アと同様に判断する。
したがって,委員長の氏名及び印影は開示すべきである。
ケ 動物実験計画更新の有無欄(実験責任者署名)について
動物実験計画更新の有無欄の実験責任者署名については,前記イと同様に判
断する。
(2)動物の種類ごとの納品書について
動物納入業者名,住所,電話番号については,前記(1)オと同様に判断する。
また,動物納入業者が使用する動物の品名記号は,動物納入業者を特定し得
るものであり,業者名が開示されるものについては,品名記号についても開示
すべきであるが,その余のものについては不開示が妥当である。
なお,納品書10件のうち1件については,動物納入業者の担当者欄に氏名
の記載が認められるが,その者の氏名は,法5条1号に該当する個人を識別で
きる情報であることから,不開示が妥当である。
さらに,納入先の講座等名,受領者の氏名及び受領印の印影については,前
記(1)アと同様の理由により,開示すべきである。
3 本件一部開示決定の妥当性
以上のことから,本件対象文書につき,一部開示とした本件決定において不
開示とした部分のうち,別表に掲げる「開示すべき部分」を開示すべきである
と認めた。
第6 答申に関与した委員
吉村德則,住田裕子,戸松秀典

別 表
項 目 開示すべき部分
動物実験計画審査願 講座等名,講座責任者職・氏名
動物実験計画書
動物実験責任者
動物実験計画の更新の有無
所属・職名
氏名及び電話番号(講師以上)
実験責任者署名(講師以上)
動物実験従事者 所属・職名
氏名・電話番号(講師以上)
(全項目について大学院生を除く。)
研究課題
動物実験の目的
動物実験の方法
研究課題のうち,その研究のキーワ
ードとなる文言,創意工夫など研究 の
秘密に関し中枢をなす部分を除い た
部分
動物実験の場所 その他欄に記載された研究室名
動物の入手先 国公立の機関名
開示に支障なしとしている民間事業
者名
本実験計画に対する意見 意見及び印影
委員会判定欄 動物実験委員会委員長の氏名及び印

動物の種類毎の納品書 開示を支障なしとしている動物納入
業者名,住所,電話番号

参照:

東北大学新聞:本学情報公開の現状
http://www.ton-press.jp/article/323/3234anim.html

 
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