2001年12月、名古屋刑務所で男性受刑者(当時43歳)が消防用ホースによる放水を肛門に受け、直腸裂傷などで死亡したとされる事件がありました。

2003年、この事件に関連して、なんと放水によって肛門が裂けたことを立証するため、ブタを使った実験が名古屋地検特捜部によって逮捕前に行われていたことが報じられました。ブタは麻酔されていたとのことですが、人間と豚では構造が異なり、生きた動物を使わなくてもよいはずで、無駄で残酷な実験として話題になりました。

豚は直腸が裂開、肛門部には水圧による表皮剥離、腹部には放水による腹水がそれぞれ7リットル、3.5リットルたまっていたとのことです。(下記河村たかし事務所資料参照)

この実験内容について情報公開請求ができるのか問い合わせたことがあるのですが、公判中は開示されないとのことでした。疑問は、検察庁には動物実験委員会はないだろうという点です。事前に倫理審査は行われたのでしょうか。

2003年3月5日付けで民主党法務ネクスト大臣千葉景子の名前で出された「名古屋刑務所副看守長の起訴について(談話)」によると、「さらに、民主党は実際に消防用ホースを使って高圧放水の実験を行った。この実験を通して、高圧放水を受けた人間が傷害を負うのは明らかであり、処遇の目的を著しく超えていること、消防用ホースを一人で操作することが困難であることなどが判明した。」とあり、民主党が行ったものであることがわかります。(実際に立ち会ったのは、永田寿康議員と山花郁夫議員と言われています)

この事件については、2011年6月に有罪が確定していますが(判決)、その後再審請求が出され、受刑者がプラスチック片で自ら傷つけたことを示す証拠などが提出されたとのことです。

裁判中に、ブタの実験は、事実と異なる強力な放水をしていたという事実も発覚。実験を録画したビデオから「圧力あげろ」という声が聞こえた後に水圧が明らかに上がっていたという報道もありました。河村たかし衆議院議員(当時)が国会でも質疑を行っており(下記会議録参照)、民主党が謝罪を行ったとの報道もなされました。

一体、ブタの命は何のために失われたのでしょうか。

安易に動物を使うことにより、事実誤認に至った可能性まであります。動物を使えば、都合よい結論にミスリードさせることができる好例ではないでしょうか。


名古屋刑務所事案 資料 (河村たかし事務所作成 H15.6.17版)
(CNNニューズ2006/7/1 発行より http://www.pij-web.net/cnn/46.pdf )

1 平成13年12月14日ホース事案(受刑者死亡)

≪関係刑務官≫・・・3名

≪起訴事実の要旨≫

保護房内で、懲役受刑者に対し、懲らしめ目的でその必要もないのに、同人の肛門部を目掛け、消防用ホースを用いて多量に放水する暴行を加え、肛門部挫裂創・直腸裂開の傷害を負わせ、12月15日午前3時1分細菌性ショックで死亡させた。

≪問題点≫

(1) 刑務所の水は地下水であり、加圧して使っていたが、3階や4階がしばしば断水するほどの弱い水圧であり、傷害を負わせるには低すぎる。

(2) 民主党の実験は、冒頭陳述の水圧0.6kg/cm2の10倍の水圧6kg/cm2で行われたものであり、国民に誤解を与えた点を素直に認め、お詫びするとともに事実を訂正すべきである。

(3) 検察側の証拠は、麻酔した豚に放水したら直腸が裂開したというが、

(ア)麻酔した豚の肛門括約筋は弛緩しており、水が入りやすい。

(イ)豚の肛門部には水圧による表皮剥離があるが、遺体にはない。

(ウ)豚の腹部には放水による腹水がそれぞれ7リットル、3.5リットルあったが、遺体には通常より少し多い1.2リットルの腹水しかない。

(4) 冬で気温が8℃しかないときに水を掛けること自体暴行だとの意見もあるが、水温は20℃もあり体を洗う為ごく短時間かけたに過ぎなく、直後に体をタオルで拭いている。体を洗わせない受刑者を汚物まみれにしておくのは不衛生であり、そのことで体調不良になれば国家賠償の可能性すらある。


第156回国会 法務委員会 第13号(平成15年5月14日(水曜日))会議録より

○河村(た)委員 総理をねらう男、河村たかしでございます。ごぶさたしておりました。
(中略)
 それから、医師がそのうち来ると思いますけれども、水が入りますから、こういうふうになるんですよ、水腹に、当然、もしそうなら。だあっと入りますから、当然、そうでしょう。だけれども、豚で実験したのは、どうも、七リッターと三・五リッター、二つ、こういうふうになっていた。人間は、いわゆるこういうふうには全くなっていない。通常の水は入っていますけれども。これ、医師が言っています。水ではなかった。

 それから、当時の水は、総理、民主党がやりました放水実験、御存じですか。知りませんか。知らないなら結構ですが、あれは実は六キロでやりましたけれども、実際は、法務省が言っておるのでも〇・六でした。東京都の水が一で、〇・六よりさらに低いんです、実際。上に二、三メーターしか、ここからだと天井ぐらいにしか飛ぶ水でしかなかった。それをかけたというだけの事件。


第156回国会 法務委員会 第16号(平成15年5月21日(水曜日))会議録より

○河村(た)委員 それから、十二月の事案、ホースで水をかけた事案です。

 検察は、豚に麻酔をかけて、〇・六キロ、平方センチ当たりの水圧で、むき出しの肛門部に直接当たるよう放水実験を行ったと言われておりますけれども、この実験と十二月の放水事案は、実験の条件面で比較しますと、一番、麻酔がかけられた豚は外部からの刺激による肛門括約筋の収縮が働くか否か、それから二番、生理学上、豚は肛門がむき出しであるが、うつ伏せになってひざを立てていない人間の肛門部は臀部の奥に隠れているのではないか、それから三番目、受刑者の肛門部には実際には斜め上方から放水が当たっており、角度的にも豚は真っすぐですから豚の実験とは違うなど、私のような医学の専門家でなくとも、これを実際に保護房で行われたことと比較することには無理があると思うけれども、専門家のお立場からはどうかということ、お願いします。

○二村参考人 豚にどういう麻酔法をされたかちょっとわかりませんが、麻酔をかけたというふうに聞きましたが、多分全身麻酔だと思います。そうしないと、豚を固定してああいう実験をやることはできないと思います。全身麻酔をかけますと肛門の括約筋は弛緩しますので、意識のある方と同じ条件でやりましても全く違った反応が起こるというふうに思いますので、実際に実験をやるときには、条件設定を誤らないようにやることが大切かなと思いますので、あの実験に関しては私はちょっと疑問を持っております。

 それから、豚の直腸部がどういう角度になっているか、私は動物のことはちょっと不確実ですが、実際、人間の場合は、直腸のいわゆる角度といいますか、おしりからいいますと少し背中寄りの方に、骨盤の後ろの方にカーブしておりますので、腹ばいの状態で斜め上からですと、角度の問題で、こうなってこうなって、ちょっとなかなか力がうまく伝わらない可能性があるということ。

 それから、あの豚の実験の写真を拝見させていただきましたが、今御指摘のように、おしりがぴっと伸ばして、飛び出しておりますので、腹ばいになっている人間とははるかに異なった物理的な形になっているかなというふうに思います。

 実際、人間の肛門というのは、腹ばいの状態ではおしりの筋肉に隠されて外からはもちろん見えませんし、ある距離から、斜め方向からそこにアプローチするのは大変困難かなというふうに思いますが。

○河村(た)委員 放水後、受刑者を診察し肛門部の裂傷の縫合手術をされた医師は、二村教授の部下であると聞いておりますけれども、診察や手術をしたときの受刑者の状況や裂傷の程度について、話を聞かれたことはありますか。

 また、聞かれたとしたら、肛門部の裂傷の状況についてお答えください。時間が短いですから、先生、本当に短くひとつ。

○二村参考人 私は、新聞報道されて初めて、ああいうことがあったということを聞きましたので、その後に聞きました。そうしましたところ、メスで切ったようなシャープな傷ではございませんが、ぴしっと、ぎざぎざとしたような、そういう傷があったというふうに聞きました。

 もう一点、何でしたか。(河村(た)委員「それでいいです」と呼ぶ)いいですか。

○河村(た)委員 それがもしこのような、これは当時入っていた本物です。これは、今は違う。今あるのはぐにゃぐにゃのですけれども、変わっておりますけれども。このばりばりに割れた破片が、これがあったことを目撃した人がいまして、例えばこういうような形のがあって、こういうものがもし肛門の中に入った場合に、そのぎざぎざになった状況というんですか、それから、肛門が五時と十時のところに切れたというふうに聞いていますけれども、それから肛門より十一センチのところが五センチ、そういうようなことで、これが自傷に使われたとされた場合、それの形状というのはぴったりするものでしょうか。

○二村参考人 あくまで推測ですが、一つは、これをどうやって肛門に入れるかということですが、どうも聞いたところによると、ふん便を出すためにやるとかいろいろ話を聞きますが、直腸指診といいまして、私たちは指で診察をするんですが、必ずゼリーを使って、油のようなものをつけませんと抵抗があってなかなか指も入れられないんですが、こういうものをもし入れようとすると、ある程度の、相当な摩擦の抵抗があるかと思います。

 ですから、もしも無理やり入れれば、肛門の外にも中にも相当な傷がつくんじゃないかなというふうに思いますが……(河村(た)委員「そのぎざぎざとなったところですか」と呼ぶ)そういうふうにはなるかと思います。油をつけてやるとちょっとスムーズになるかもしれませんが。

 どうやって入れたかにも、条件設定がいろいろ難しいかと思いますが、そういう傷がつくことは、可能性はあるかと思いますが。

○河村(た)委員 ありがとうございます。

 それでは、検察は、その豚による実験で、豚に、一つのに七リッター、一つのに三・五リッターの水がたまっていたと。

 人間においても、今言いましたように、肛門の奥十一センチのところが五センチ直腸裂開というんですか、仮にそういう水が入ったとすれば、その痕跡として、肛門部の表皮剥脱というんですかとか、腹に相当な水がたまると思われるんですけれども、それらについて、執刀した医師に確認されたことはありますでしょうか。

 また、確認されたとしたら、その結果と、どういう診察の結果でそれが発見されたのかということをお答えください。

○二村参考人 あの事件は、新聞報道で見て、私は最初からちょっと疑問を持っていましたので、ちょっと聞いてみたんです。

 一つは、消防用のホースで、本当の消防自動車から出るようなあんな強烈なのでおしりから注水しますと、穴があくことは間違いないなと思いますが、五センチの穴があけば、強烈な勢いで、水圧で入れれば、おなかの中に何リッターの水がたまるであろうかということは想像を絶して、いわゆるカエル腹といいましょうか、おなかがぽんぽんになって破裂するぐらいの水がおなかの中へ入るんじゃないかな、そんなふうに想像しましたので、あのおしりの手術をやったときはどういうふうにやったかと聞きましたところ、全身麻酔であおむけでやりまして、砕石位といいまして、あおむけで足を上げてやるんですけれども、おしりがよく見えるような状態でやるんですが、全身麻酔でやりましたので、そのときにおなかの状況というのはすぐわかりますから、おなかがはれておるようなことがあればすぐ気がつくと思います。そんなことがあれば、何リッターも水がたまっておれば普通はすぐわかりますが、そんなことは全くなかったと言っていました。

 それから、証拠が何かないかと言って聞きましたところ、デジタルカメラでおしりの傷の写真を撮るために、証拠の写真を撮るためにデジカメを操作中に、何かビデオのセッティングになっておったらしくて、その手術の全体が写真には撮れておるから、それを見ればわかるんじゃないかなというようなことはちょっと聞きましたが、今それがどこにあるか知りませんけれども。そんなことはちょっと聞きました。

 いずれにしましても、おなかがはれておるとかそういうようなことは全く気がついていないというふうに言っておりました。
○河村(た)委員 今ちょっと一応、二村さん、誤解されるといけませんので。いわゆる高圧ホース、筒先はいわゆる出初め式に使うものだったんですが、出た水は、検察が言っているのでもいわゆる〇・六キロパー平方センチということで、大体、東京都の水道の水が一キロですから、東京都の水道の水の六〇%というところでございまして、ざっと出た程度という、ここから大誤解が始まっているということでございます。

 そういうことですから、そのような水で、ちょっと訂正して言ってもらえませんか。ホースだとすればと言いましたけれども、そういうことじゃなかったものですから、今ちょっと答弁を。

○二村参考人 低水圧では、やはり水圧が低かったり流量が少なければ、起こる危険性は少ないと思います。

 それから、その後、実は文献検索しましたところ、同様な事例が約十年前に報告がありました。

 酔った方が、温泉地で、温泉で水面上七十五センチまで噴き出す五センチの筒の水がばっと出るところへ酔っ払って座って、おしりが何かはまり込んでしまって事故が起きたという事例が報告があったのを見ましたところ、やはり直腸から上の腸へ行く移行部というのが一番当たりやすいんですが、ここからこんなのがぼんと出てくるところへちょうど座ったために、おしりにまともに当たって破裂した、緊急手術をやったときにはおなかの中に水がいっぱいたまっていた、そういうふうなことが書いてありましたので、やはり水を入れて破裂するようなことがあれば、当然そういうことが起こるんじゃないかなというふうに思いましたけれども。(河村(た)委員「状況が違いますね、今のふろのは」と呼ぶ)ええ。

 低圧だとやはり起こりにくいかと思いますし、そのかわり、圧が低くても流量がたくさんあれば起こる可能性があるかと思いますが、その辺は、実は外国の文献も探してみましたところ、戦前にもう既にそういう動物実験をやっているのがありまして、どの辺、大腸の部位によっていろいろ圧が違うというようなこととかいろいろな実験結果はありますので、調べようと思えば、いろいろな手を使ってやれるかと思います。

○河村(た)委員 今のケースは、ふろで本当におしりをぴったりつけた状況で、ウォシュレットよりすごいものですね。だから、ちょっと今の人間とは違うと、そこが違うということだけ言ってください、会議録に残りますから。

○二村参考人 条件設定が全く違いますので、さっきの豚の実験と、実際のあの名古屋刑務所で起こったのと、私が今申し上げたおふろでなったのと、全くそれぞれ違いますので、ああいうことが誤って報道されると誤解が生じるかと思います。