テレビ朝日の「報道発ドキュメンタリ宣言」という番組、先週の土曜日(2月5日)の放送は、太地町に来ているシー・シェファード(SSCS)に密着取材した内容とのことで、録画して昨日見ました。

で、何だか頭に来ました。

もちろん、最初に宣言しておくと、私はSSCSの活動手法はまったく支持していません。(特に南氷洋の活動は支持しませんよ、当たり前です。)

でも、それでもこの番組は、何だかおかしかったですよ?? 

他の番組でも、最初から完全に太地町寄りの報道はいくつもあったし、(というか日本の報道は全てそうだと思うけど)、レポーターがここまであからさまに漁師に感情移入しているものはなかったのではないでしょうか。しかも、取材対象のSSCSに対してレポーター(であり、実はディレクター)が感情的になっている時点で、中立な報道のレベルを逸脱しているような気がしました。現に、この番組のメインの取材対象であるはずのSSCSに取材拒否されてしまっています。

そして特に頭に来たのが、以下の発言。SSCSに感情的にご意見したかったのか、レポートしている谷島薫子ディレクターは、こう言ったんです。

誰もが肉を食べないといけない。ブタを食べたり牛を食べたり鹿を食べたりしないといけないんですよ。」

テロップでは、「私たちは肉を食べなければいけない」と少し主観的なニュアンスに変わっていますが、音声では、「誰もが」と決めつけで発言しています。

テレビでは、肉は食べたほうがいいとか、体にいいとか、そういった番組は幾らでもあると思いますし、グルメ番組は肉食ばかり取り上げていますが、でもさすがに、「食べなければいけない」などという価値判断を持ち込んできたのをテレビで聞いたのは、初めてのような気がします。もう20年くらい、テレビはあまり見ていないので偉そうなことは言えませんが……大変驚きました。

「肉を食べなければいけない」などということは、少し考えれば少なくとも科学的には間違っているわけだから、もっと別の表現ができたはずではないでしょうか。

しかも、「~とは考えないのか」等、質問する形ならまだしも、完全に考え方を押し付けています。主旨が違う番組ならそういうこともあるかもしれないですが、一応「報道発」を標榜している番組で、ディレクター自らが取材対象に価値観を押し付けるなんて非常に驚きます。

(殺人者に対してだって、「どうして殺したのか」と聞くならともかく、「誰もが人を殺すべきではないんだ」なんてディレクターがわざわざ説教してたら変ですよね? 報道ですよ? 少なくとも視聴者が見たいところはそこじゃないでしょう。一体何を見せたいんだ、テレビ朝日は?と思うと、ちょっと自分たちに酔っているような印象も受けてしまいます。)

ドキュメンタリーの手法がいろいろあることはまさに「The Cove」のときに議論されたばかりですが(笑)、取材者が取材対象の考え方を変えようとするなんて、日本では割と不愉快なタイプのドキュメンタリーに分類されるのではないでしょうか。

(「The Cove」も同じだとも言えます。でも、「The Cove」ですら、監督(ディレクター)の主眼は事実を暴くことで、太地町への働きかけについては、オバリーさんを撮る立場に一歩引いているように思います。というより、そのためにオバリーさんという素材が必要だったのでしょう。)

しかも「報道発ドキュメンタリ宣言」のそのシーンは、SSCSが殺されるイルカの苦痛について言っているので、続けて、「しかし漁師によると、現在そうした方法はとっていないという」などというナレーションをかぶせて終わりにしているところがまた腹立たしいんですよね。

イルカ猟は、「実は殺し方が水産庁の言っているような苦痛の少ない方法ではない」というのが特に今期の漁の争点のひとつなわけです。それはテレビ朝日は知ってるはずだと思います。現に映像を見せてもらっているシーンがあるわけで。

報道機関が、権力側が言っていることが事実かどうかを暴こうとせず、「しかし漁師によると」などという、中立ではない当事者からの伝聞だけをナレーションして済ませるのは、一体どうしたことなのでしょうか。「報道発ドキュメンタリ宣言」という名前にまったくふさわしくない報道姿勢です。伝聞で事実になるなら、報道機関はいらないし、取材などという格好つけたことは言わないでほしいです。

自分たちが現場を取材して、撮影して、そして漁師と同じ結論に至ったのなら、そう報道すればいいですが、現実は違っていると知っていながら、伝聞コメントをかぶせるのは何だかおかしい。自分たちが守りたいものが先にあって、報道機関が権力側に堕ちたということですよね。

それに、もし本当に「食べなければいけない」ものだったら、それがどんなに残酷であっても食べなければいけないということでしょう? だったら、事実は事実で報道すればいいはずですが、なぜ隠すのでしょうか。

やっぱり残酷なのはまずいと思っているから隠すのだろうし、それだったら、「ねばならない」なんて振りかざせたはずではないのですが。

ちなみに、下記は今期のイルカ猟の映像です。SSCSが撮ったものではないそうなので、谷島ディレクターが見た映像とは違うと思いますが、リンクします。

この映像についての説明もいただいたので、転載します。

===引用===
これらは、今年の1月に撮影されたものです。
詳しく説明すると、脊髄を切断して殺すのがもっとも早く殺せるのですが、流血を避けるために、細長い棒のようなもので、何度も脊髄を突いて、脊髄を切断させようとしています。そのため、逆に殺す時間がかかり、長いものでは十分以上かかっているということです。これは水産庁の公式の意見の「人道的な殺し方」と大きく食い違うため、問題視しています。

===ここまで===

テレビ朝日はこういうことは報道しないのだな、と思います。

本当は、自分のブログからこんな残酷な映像をリンクして広めるつもりは実はなかったのだけど、日本のメディアが自ら取材せず、ここまで堕ちているとは驚きなので、やはり皆がインターネットで広めるしかないと感じました。URLはここです。
http://www.youtube.com/watch?v=_A0C2RFpmiY

SSCSは全く支持しないし、SSCS以外の外国人の意見も報道したところにはこの番組の意味はあったのかもしれないですが(あとは、運ばれる生きたイルカの表情をドアップで流したところもね)、ただ、SSCS憎しのあまりに現実を隠すのは、報道機関の姿勢としては間違っていると思います。

さらに、最後にもう一つ付け加えるならば、NGOで働いたことのある人間としては、最後に番組が「SSCSの目的は寄付金のため」と決めつけたのも、なんだか不愉快な感じがしましたね…。もちろんSSCSの内部なんて知らないから、私も事実はわからないけれども、少なくとも報道機関なのだから、何かそれらしきSSCS側のコメントなり、SSCSの内部文書なりを示して言わないと、ただの誹謗中傷ではないでしょうか。

日本では、こういう誹謗中傷が非営利団体の力をそいできたのは事実だと思うので、報道するにしても根拠がほしいものです。特に、今は反旗を翻しているピーター・ベスーンに取材しているのだから、「寄付が目的」が事実なら、そういうコメントがとれそうなものなのに、それがないということは? やっぱりただの憶測なのかなって思っちゃいます。少なくとも、2月5日のこの番組の発言は、ただの下衆な憶測による決めつけとしか感じられませんでした。

こんな国だから、NGO・NPOの力は伸びないし、それを推進するにしても、「新しい公共」などという表現になってしまうんですよね。昔から頑張っている人はたくさんいるのに、どうして「新しい」などと呼ばれなければならないのか、全く理解できないでいますが、ほんとに。

話はそれましたが、頭に来たお話でした。