犬として育てられた少年 子どもの脳とトラウマ

犬として育てられた少年 子どもの脳とトラウマ

  • 作者: ブル-ス・D.ペリ-
  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2010/01/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

表紙のやわらかいイメージとは裏腹に、とても迫力のある本でした。タイトルになっている、犬のブリーダーの家から救い出された少年のことだけを描いた本ではなかったんです。
さまざまな境遇によりトラウマをかかえた子どもたちと、そのケアにあたる精神科医である著者。
実はこの本の冒頭は、いきなりラットの心理実験から推論することから始まっていました。(汗)
けれども、著者の臨床経験が、ゼロ地点からどんどん増えるにしたがって、ネズミが登場しなくなり、実際の臨床経験から理論構築するようになっていっているように感じられたのが、私としてはとても興味深い本でした。
(これは違うのかもしれない、私がそう感じただけなのかもしれない、とも思いつつ…)
もう一つ強烈に印象に残ったのは、子供たちを虐待するようなカルトや、それに準じるような人々に対して立ち向かうべき警察当局側もまた、相手を冷静にとらえられず、自分たちが相手に対して持つ幻想にとらわれて、事態を悪化させることが往々にしてあるようだ――ということでした。
(日本で反捕鯨団体が必要以上に(?)監視対象になっていたり立件されたりするのも、この心理が関係しているんじゃないかしらねーとか思ったり思わなかったり)
特に、実態以上に相手を悪魔的にまつりあげてしまったために、実在しない悪魔教団が存在するかのように扱われるに至る事件は、いったい何を信じたらよいのか……と考えさせられます。
もちろん著者は、そこを冷静に見極めて、事実を掘り起こそうとしていくわけなのですが。
理路整然と理論づけをしながら歩む科学者でありながら、現実の子供たちを立ち直らせることができる治療者でもある――この人自身が天から特別なギフトをもらっているんじゃなかろうかと、ちょっぴり非科学的なことを思ってしまうのでありました。
(でも、もうちょっとネズミに同情してあげて(笑))
世の中で、科学だけでは絶対に成しえないものが子育てなのかもしれないですね。
そんなスピリチュアルなことは、全然書かれていないのですが。