国家を騙した科学者―「ES細胞」論文捏造事件の真相

国家を騙した科学者―「ES細胞」論文捏造事件の真相

  • 作者: 李 成柱
  • 出版社/メーカー: 牧野出版
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本

韓国の動物保護法改正にも影響を与えたとされる、黄禹錫・元教授の論文捏造事件の全容をまとめた本です。ずっと読もうと思っていて、読めず……今ごろなのですが読んでみました。
びっくりしたのは、「韓国ではあまり関心をもたれていないが」との前置きはあるものの、クローン研究で犠牲になる夥しい数の動物たちの苦しみにも言及があったことです。
米国のジョンズ・ホプキンス大学のある教授は、「動物のクローン実験をしてみたら、例えば頭が四角いブタが生まれたりした。呪わしい奇形動物が立て続けに生まれ、恐ろしくなって研究を放棄した」と語る。黄教授が行ってきた研究に関しても、数百頭に及んだ動物実験の失敗の末、クローンに成功したという記事が何度か出た。その「失敗した動物」がどう処理されたのか言及されたことはない。最近の研究結果によれば、クローン動物には新しいタンパク質が生まれ、三〇~七〇%が出産一週間後に死亡している。
また、Dr.レイ・グリークの『貪欲と傲慢の動物実験』からの引用もありました。(参考文献表によると”Specious Science”のことです)
引用されていたのは、完全にウイルスのないブタを育てるなんて不可能だという話についてですが、日本でジャーナリストがレイ・グリークを引用しているのなんて見たことがないので、著者が全方位で情報収集している、この感じはすごいなと思ってしまいました。
民主主義のないところに科学は育たないというのが、この本のメインテーマだったと思いますが、ますます説得力を感じさせます。
それにしてもこの事件……舞台が科学と論文捏造だったので異常さが際立っていますが、日本のメディアや社会構造も基本的には同じ体質なのでは?と思わざるを得ないところが多々あって(特に権威で判断するところとか)、科学者がヒーローにならない日本社会のありがたさを噛み締めてしまいました。
ちなみに……
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これは日本の体細胞クローン牛のイチローです。彼を「つくった」研究者はすでに他のところに移って他の研究をしているそうです。
でも彼は、畜産草地研究所で生きている。
12歳の牛が生きていること自体がちょっと感動でしたが…。
(ふつう牛は食べられてしまうから、そんなに長くは生かされない)
日本でも、体細胞クローン牛の肉について食品安全委員会が評価を行っており、生後6ヵ月以降であれば、一般の牛と変わりはなく同等であるとされました。それをもって、厚生労働省は、食品流通上の特段の規制を設けていません。
でも農水省は、出荷については自粛を行っています。
体細胞クローン牛がつくられなくなってきているのも、その出荷自粛によるものだとのことでした。自治体が研究の主体であることが多いので、実用化されない研究は淘汰されるというわけです。(ほっ)
以前にもブログに書きましたが、生後6ヵ月までの状況を見れば、まさに動物虐待的な技術であるのは間違いがなく、「何となく薄気味が悪い」ものが流通に混じるのは、畜産振興にとってマイナスだと判断されているのだろうな…と思います。
消費者の行動は、科学によってだけ決まるわけではないと、農水省はよくわかっているということですよね。
これは放射能も同じだと思います。「体内から排出させれば、まだ肉牛として使える」などと、畜産農家に無為な希望を持たせるようなことを科学者が無責任に言うのはやめるべきではないでしょうか。ずるずると希望を長引かせるのは、むしろ酷なことをしていると感じます。
(それによって、この期に及んでまだ成オスが去勢されていないなんて、動物のレスキューとしてはありえないと思うけど、レスキューじゃないからいいという論理なのかしら)
消費行動は、「科学」だけで決まるわけではありません。
話がそれましたが、その「科学」も、実験という特殊な環境をつくって得たデータがどこまで本当に科学的なのかという問題があるわけです。

Specious Science: How Genetics and Evolution Reveal Why Medical Research on Animals Harms Humans.

Specious Science: How Genetics and Evolution Reveal Why Medical Research on Animals Harms Humans.

  • 作者: Ray C. Greek
  • 出版社/メーカー: Continuum Intl Pub Group (Sd)
  • 発売日: 2003/10
  • メディア: ペーパーバック

(直訳は『見かけだおしの科学』ですから、『貪欲と傲慢の動物実験』とは、これまたスバラシイ訳だなと思ってしまいまいました^^;)