東京国際映画祭2009ですが、「natural TIFF」部門にいろいろ良さげな映画があったし、オープニングの『OCEAN』も観たかったのですが、結局観にいくことができたのは、アルメニアの映画『牛は語らない/ボーダー』だけでした。う~ん、残念。もっといろいろ観たかった。

『牛は語らない/ボーダー』という作品は、セリフを一切排した映画ということで、前衛的で難解な作品なのかなと思ったら、まったくそんなことはなく、ストレートにメッセージを伝える映画でした。人間が作った理不尽な物事に対して、言葉を語らない動物をぶつけてくる、そのストレートさがものすごく成功していたというか……だから、タイトルは、原題の直訳で『国境』のままでも良かったのではないかと思いました。

上映後のQ&Aで話していた監督も、もったいぶるところがなくて、素直にいろいろ話す方だったので、それが表わされている感じでしょうか。

それにしても、ラストのあまりの理不尽さに、一瞬、出てきた監督に怒りさえ感じてしまったのですが、でもこれって別にドキュメンタリー映画ではないんですよね。

考えてみれば、完全にセリフがないのは、実はドキュメンタリーなら不自然なのに、一瞬ドキュメンタリーかと錯覚してしまうような自然な描写の映画でした。

主役の痩せた黒い牛の演技力もすごかった…けど、でも動物って、じっくり撮れば、皆、実は多くを語っているのだとは思うのですが。

以下はネタバレですが……


主役の牛は、実際には撮影後も生きていて、監督は「殺さないで飼ってね」と飼育を農家にお願いしていたそうです。(なぁんだ~、殺されたわけじゃなかったのかぁ~(^◇^;) でもその後、交通事故に遭い、すでに他界してしまったとか…。すでに亡くなっていることには変わりなかったんですね…。でももともとは最後は肉になる運命だったわけだけど…(複雑…)

最後に出てくる子牛は、やはり希望の象徴でもあり、また、国境というものを知らない世代の象徴でもあるのだそうです。あそこに産み落とされて、どちらの世界に進もうか迷って立ちすくんでいるのだと。

でもなぜか、「多分子牛は未来への希望も表しているんだろうなぁ」とは頭では考えつつ、生まれると同時に母を失った子牛という存在にやはり絶望を感じてしまいました。だから、ものすごく救いようのない映画に感じられてしまったんですよね、実は…。人間はなんと罪なことをしているのか、と。

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