薬事・食品衛生審議会毒物劇物部会議事録
LD50廃止に関する議論
02/10/29 薬事・食品衛生審議会毒物劇物部会(平成14年10月29日開催分)議事録より抜粋
○事務局
それでは本日のその他といたしまして、「毒物劇物に関する判定基準について(OE
CD試験法ガイドラインの変更に関する対応)」ということについて、御説明させてい
ただきます。お手元の資料4を見ていただきたいと思います。まず、「1.国際的動向」
について御説明させていただきます。従来急性毒性を求めるために実施されていたのは
単回投与に関する毒性試験法で、試験の結果LD50値、半数致死量を求めるものでござ
います。これはOECDにおいては、試験法のガイドライン401に該当するものです。
LD50値は従来より動物個体による差、統計的手法に基づくばらつき等から、その数値
が意味するところ等について議論があったところでございます。またそれとは違うとこ
ろで、実は欧米各国における動物愛護に関する政治的な動きもありまして、そもそも動
物の致死を指標とする毒性試験について、従来から批判の矛先が向けられていたところ
でございます。
こうした動きを基にいたしまして経済協力開発機構(OECD)におきましては、急性
毒性に関してTG401の代替となる試験法の開発を検討してきたところでございます。
その結果、その代替として3種の試験法、TG420、423、425が開発され、それぞれの
試験下のバリデーションがなされてきました。それぞれの試験法の特色は、LD50値そ
のものをピンポイントで求めるものではございませんで、LD50値が含まれる範囲を求
める試験となっております。そのLD50値が含まれる範囲というのは、それぞれ3種の
代替試験におきましては0~5、5~50、50~300、300~2,000(それぞれmg/kg)の間
に含まれている範囲に、LD50値が含まれるかどうかということを求めるものとなって
おります。
OECDにおきましては動物愛護に関する動きから、こうした代替試験法への移行を
促すべく、LD50値を求めるTG401を廃止いたしまして、ある特定の時期以降に行わ
れたTG401のデータを行政側で受け入れないとする検討が進められてきておりました。
その結果、昨年12月17日のOECDの理事会決定におきまして、TG401を廃止するこ
とが合意されるとともに、1年間の期間をおいて平成14年12月18日以降に、TG401に
基づいて開始される単回の急性毒性試験データは、行政的な目的としては受け入れない
とする決定が出されたところでございます。それが(1)で御説明している内容でござい
ます。
また、先ほど御説明した代替試験法における範囲でございますが、5、50、300、
2,000というカットオフにつきましては、現在各国において受入れを図っていくべきと
されている、地球規模で整合された分類及び表示システム(GHS)における急性毒性試
験のカットオフと共通しております。このGHSは貿易の促進、国際的な化学物質の安
全確保の観点から、化学物質の特性に応じたハザードの観点から分類を行うとともに、
それに応じた表示を各国共通のものとするべく、2008年度の実施を目指して現在進めら
れているものでございます。
このGHSの中の一つに急性毒性がございまして、今日お配りしている資料4の二枚
目にある資料4-1に、カテゴリー1~5まで記載させていただいている分類となってお
ります。このような状況の中で我が国といたしましては、OECDにおける理事会決定
を受け入れることが国際的な整合性を図る上で必要不可欠であること、そしてGHSに
おける急性毒性の分類を受け入れていくとの観点から、TG401の代替試験法である3
種の試験法TG420、423、425を受け入れていくとともに、平成14年12月18日以降に実
施されたTG401のデータの受入れをしないことが、適切な対応と理解しているところ
でございます。
TG401の代替試験の受入れに基づき、TG401代替試験法の結果がLD50値が含まれ
る幅でしか表現できないことに伴いまして、従来LD50値により判断していた毒物と劇
物の判定の境を、これまでの毒物劇物に関する社会的認識保持の観点から、30mg/kg(経
口)から50mg/kg(経口)へ、そして100mg/kg(経皮)から200mg/kg(経皮)へ変更したいと
考えております。それと同時に、急性毒性が強いために劇物に判定されたものの製剤を
除外する場合として例示されていたものを、3,000mg/kg(経口)から2,000mg/kg(経口)
とすることにいたしまして、「2,000mg/kgの投与量において使用した動物すべてに何の
変化も観察されないこと。」としたいと考えております。
この受入れの時期及び予定につきましては、本部会での御了解の後適当な時期に、従
来は急性毒性試験であれば何でも良かった試験法のうちから、OECDのTG401の実
施を廃止するとともに、これに準拠する試験データの受入れの停止時期を公にする通知
を発出したいと考えております。
毒物劇物調査会の御審議におきましては、この世界的な動きに合わせるために、TG
401の廃止とともにその代替試験法を受け入れて、本毒物劇物の判断基準を変更してい
くこととして御了解が得られたところでございます。さらに、毒物劇物の境の数値を変
更することにより、今後新しく基準を変えることによって、従来の基準では劇物であっ
たものが毒物とされるものにつきましては、その扱いを毒物劇物調査会と相談すること
として御意見を頂いているところでございます。以上、御審議のほどよろしくお願いい
たします。
○井村部会長
ありがとうございました。それではやはりこれにつきましても、櫻井先生の方から調
査会での議論の様子をお願いします。
○櫻井部会長代理
御説明のとおりです。ただ1か所修正の言葉なのですけれども、「動物すべてに何の
変化も観察されないこと」というところを、「動物すべてに投与物質による毒性徴候が
観察されないこと」としてはどうかという意見だったのです。
○事務局
そうでございました。すみません、修正を忘れておりました。
○櫻井部会長代理
その点だけです。それからこのように変更することは、国際的な整合性やデータが出
てくるものはそういうデータしか出てこないので今後は当然であると。従来は劇物であ
ったものが今後は毒物になるとしたら、30と50の間は、過去の判定の結果をどうするか
ということについていろいろ意見が出ました。それはまだ、これからもう少し相談して
いくそうです。ただ、ここでも御意見が頂ければそれも参考に…、結局はまたここで決
めていただくことになると思います。
○井村部会長
詳しい御検討はまた調査会の方にお願いするとして、もし30と50の間のものがあると
したらどのように取り扱うかということで、何か御意見がございましたらどうぞ。櫻井
先生がそれを参考になさって調査会に臨まれるということです。いかがでございましょ
うか。
○櫻井部会長代理
ちょっと追加してよろしいですか。今実質的には毒物と劇物で取締り上の差はないと
いうこと、それから長年そういう分類で経過してきて特段の問題が生じていないという
ことで、当分そのままでもいいだろうという考え方もあります。そうはいいましても、
この時点で再度30と50の間のものについてもう少し調べてみて、従来どおりの取扱いで
いいだろうという判断になるかどうか。つまりいったん検討しないで、そのまま従来ど
おりというのはどうかという意見もありました。
そのときは私は特段意見を言わなかったのですけれども、毒物劇物への分類というの
はそういう規制上の取扱いだけでなくて、やはりハザードの分類という意味がありま
す。今後このように整合性のある判定が行われるようになりますと、それぞれの物質が
あの国では50未満、こちらでは50以上と同じ取扱いというおかしなことが、だんだん出
てきてしまうおそれがあるという気がしておりますので、余り大きな影響がなければ、
むしろ変えてしまった方がいいのではないかというのが個人的な意見です。
○井村部会長
いかがでございましょうか。どうぞ、百委員。
○百委員
一応農薬についての実態を申し上げれば、毒物と劇物では都道府県の指導、国も含め
てだと思うのですけれども、大変差が大きいのです。それで、できるだけ毒物は締め出
そうという現場があります。したがって、できるだけ普通物、やむを得なければ劇物と
いうことで、今毒物は農薬の登録上だんだんなくなってきているのです。県の方もでき
るだけそういうものを使わないということで、もし30と50の間のものがあるとすれば、
私はすぐ浮かばないのですけれども、やはりその辺は会社によって大きな問題になるの
かなと思います。
○櫻井部会長代理
なるほど、そういうものが幾つかあるとしたら、個別に十分検討することになるのか
なという気がします。
○井村部会長
そうですね。ほかにいかがでございましょうか。その点について以外に大分数字など
が出てまいりましたけれども、何か御質問があれば事務局の方にどうぞ。よろしゅうご
ざいますか。
○赤堀委員
数字以外のことでもよろしいですか。
○井村部会長
もちろんです。
○赤堀委員
事務局の方から補足説明していただきたいところが一つあります。資料4-2の二枚目
になりますけれども、(4)で特定毒物について触れられておりますが、こういった毒物
劇物の基準が変わっていくことによって特定毒物についてはどうなるのか、ちょっと補
足説明していただけると有り難いのですが。
○事務局
今現在特定毒物につきましては、毒物及び劇物取締法の中で強い毒性を有するものと
して定義されているところでございますが、今回毒性劇物の判定基準につきましては、
国際的な試験法を導入することによって、今までの判断で変えなければいけないところ
についてのみ変えたいと考えております。資料4-2の一番最後に書いているとおり、試
験法の変更に関係しない部分については今後の検討課題としていく予定でございまし
て、特定毒物をどのような考えで取り扱っていくのかということも、その中に入ってい
くであろうとは理解しております。
○井村部会長
どうぞ、赤堀委員。
○赤堀委員
私は特定毒物についての取扱いは、毒物の基準が変わったとしても変わらないと理解
していたのですけれども、今後の話題の中で検討していきたいということですから、そ
れで結構です。ありがとうございました。
ほかのことで一点よろしいでしょうか。調査会でもお願いしていたことなのですが、
資料4-2の「(1)動物における知見」のところで、一番最後から二行目にあるイの「中
毒症状の発現時間」という箇所です。この「症状」というのは動物は徴候です。改正の
ときに検討するというお話も伺っておりましたので、もしこの数字を改正するというこ
とで御検討いただけるならば、この「中毒症状」は動物側からすると「中毒徴候」とい
うことで、適正な使用をしていただけると非常に有り難いと思います。
○事務局
今の先生の御指摘ですが、「症状」を「徴候」という言葉に直すことにつきまして
は、この部会の中で先生方に御了解いただけるのであれば、そちらを直していくことは
事務局としては問題はないと思っております。
○井村部会長
調査会ではその辺はいかがでしたか。
○櫻井部会長代理
従来からお願いはしていたのですが、まだ議論はしていませんでした。
○井村部会長
そうですか。吉岡先生、どうぞ。
○吉岡委員
医者の勘では、自覚症状と他覚症状を合わせたものを「徴候」と言うのです。「症状
」というのはどちらか一つだけなのです。ですから、動物で使う場合と臨床で使う場合
では少し意味が違うのではないかという気がします。
○赤堀委員
少し教えていただきたいのですけれども、今先生がおっしゃられたのは私は「症候」
だと思っておりました。「症候」の中には「徴候」と「症状」があると。「症状」は自
覚症状であって、多分患者さんが自覚症状でおなかが痛いというのは「症状」です。動
物では腹痛とか頭痛があるとかは私たちには分かりません。したがいまして、動物は私
たちにsignを出しており、それを観察するのみだと思います。英語で論文を書くときに
も「symptom」と「sign」は完全に区別しなければいけないということで、よく獣医学
領域、動物学領域の論文ではこの区別を明確にすることがしばしば注意されます。その
「sign」の訳が「徴候」で適切かどうかはともかくとして、私たちは一般的に「徴候」
という言葉を使っております。人の場合は「症状」と「徴候」があり、私はそれらを合
わせて「症候」と理解しておりましたので、その辺のところをお教えいただけると有り
難いのですが。
○井村部会長
これは毒性学者が議論するところだと思いますけれども、井上先生は何か御意見はご
ざいませんか。
○井上委員
なるほどと思って伺いました。
○井村部会長
その辺はどうなのでしょう。
○吉岡委員
私は「徴候」というのは一番広いという意味で…。ですから、いわゆる動物でサイン
だけを出しているのを「徴候」という、むしろ狭い意味にとらえられたわけです。そう
いう狭い意味ではないのではないかという気がしたものですから…。
○井村部会長
これはもし問題にするとすれば、調査会の方で少し議論していただけたらと思うので
すけれども、赤堀先生はここはこのままでよろしゅうございますか。
○赤堀委員
はい。
○井上委員
研究すれば整理がつくのではないでしょうか。
○井村部会長
そうですね。ではそういうことにさせていただきますが、ほかにございますか。どう
ぞ、百委員。
○百委員
事務局に確認したいのですが、「(2)受入れ時期・予定」ということで「適当な時期
に」と書いてあります。これは平成14年12月18日前ということで理解してよろしいので
しょうか。
○事務局
(2)に記載している「適当な時期に」というのは平成14年12月18日以前、可能であれ
ば11月中にもこの通知は発出させていただこうと考えております。
○百委員
ありがとうございます。
○井村部会長
今のお話は資料4の「2.判定基準の変更」の(2)のことですか。
○事務局
そうでございます。
○井村部会長
ほかによろしゅうございますか。私は非常に細かいことを伺って申し訳ないのですけ
れども、「1.国際的動向」の(1)で二つ目の○のところ、上から三行目に「平成14年
12月18日以降にTG401に基づき開始される毒性試験データは」と書いてあります。そ
れから、ちょっと表現の違うところがあって私は気にしているのですけれども、もう一
つ何かそういうのがありましたね。「以降のデータは」という表現があったのでしょう
か。12月18日以前に開始されていても、そのデータが出てくるのは18日以降になるとい
うことはあり得ますよね。それはどうなのですか。
○事務局
実は先生が御指摘した試験を始まった日で見るか、終わった日で見るかということに
つきましては、OECDの検討においても細かく議論されたところでございます。結論
といたしましては、試験が始まったときが12月18日以前であれば、そちらの方のデータ
を合理的に受け入れられるべきであると判断されております。
○井村部会長
そうですか。それを確認させていただかないと…。先生方、それでよろしゅうござい
ますか。分かりました。ほかに御意見、御質問はございますでしょうか。よろしいでし
ょうか。正確に申し上げますと、今までの議論を踏まえてこの件に関しては調査会の御
意見のとおり、OECDの急性毒性試験法であるTG420、423、425を毒劇物を判定す
る際の試験法としてここで認めて、従来の試験法であるTG401のデータにつきまして
は、その試験が本年12月18日以降に実施されたものについては受入れを停止すると。つ
まり、これは「18日以降に開始されたものについては」と直した方が良くないですか。
○事務局
そうですね。
○井村部会長
それが気になっていたので…。
○事務局
了解いたしました。
○井村部会長
よろしいですか。では、「12月18日以降に開始されたものについては受入れを停止す
る」というふうに決めさせていただいてよろしゅうございますでしょうか。それでは、
もしよろしければそのように決定させていただきます。ありがとうございました。
本日はこの四つの議題で終わりですが、先生方から何か御提案、御意見がございまし
たらここで伺わせていただきたいと思いますが、いかがでございましょう。
○事務局
今この資料4につきましては論点が二つございまして、一つは毒物劇物の試験の受入
れの話と、もう一つはその試験を受け入れることによって判定基準の変更値が少しあり
ますので、後者の方についてもよろしくお願いしたいと思っております。
○井村部会長
私がうっかりしておりました。肝心なのはむしろそちらの方でございまして、今まで
LD50値の境目が30mg/kgになっておりましたけれども、これを50mg/kgに変えるという
点につきまして先生方にお諮りをいたしますが、それはそれでよろしゅうございますで
しょうか。百先生、どうぞ。
○百委員
具体的には浮かばないのですけれども、やはり今まで劇物であったものが今度毒物に
なるような例があった場合に、その辺は救うということは考えられないのかどうかで
す。
○井村部会長
いかがでございましょう、御意見を伺いますが、櫻井先生は何かその辺につきまして
先ほどもちょっと…。
○櫻井部会長代理
今後の問題ではなくて…。
○井村部会長
今後の問題ですよね。
○百委員
30~50の間のLD50があって、現在劇物のものが今度の新基準になると毒物になるの
ですね。そのときにラベルも替えなければならないし…。
○櫻井部会長代理
もう既に判定されたものについてどうするかは、まだこれからです。
○百委員
分かりました。
○井村部会長
先ほどの先生のお話は、その場合にはもしかするとまた毒物劇物というものの言い方
も考え直す必要が出てくるかもしれないということですね。今後の課題とさせていただ
いてよろしゅうございますか。それではいかがでございましょうか。これも調査会の方
ではそのとおりでよろしいということだったと思いますけれども、判定基準を30mg/kg
から50mg/kgに変えるということでよろしゅうございますでしょうか。それではこの判
定基準の変更を、事務局案のとおり認めるとさせていただきます。ほかに何か抜けてい
ることはありませんか。よろしゅうございますか。そうすると先生方から何か…。
○井上委員
今のことについて、改めて整理し直さない限りは今決まっているとおりということで
すね。そのことだけははっきりしているのでしょうか。
○井村部会長
そのとおりだと思います。
○赤堀委員
井上先生の御発言があったのですけれども、調査会ではそれを見直すべきだという意
見も出たということでございます。
○事務局
今の井上先生、赤堀先生の御意見にちょっと…。調査会と事務局との話でございます
が、過去に毒物あるいは劇物と判定されたものについて、今回判定基準を変えることに
基づきまして、従来の基準で劇物であったものの、この新しい基準で毒物とされるもの
の取扱いをどうしていくかということは、赤堀先生がおっしゃるとおり、毒物劇物調査
会の中でまた御相談等をしていきたいと考えております。実際にそういう形で、こちら
の方で各種の資料を準備させていただいているところでございますので、その際には是
非ともまたよろしくお願いしたいと思っております。
○井村部会長
それはそれでよろしいかと思いますけれども、それまでは相変わらず今までに決めた
毒物劇物として扱うということでしようがないですね。暫定的な措置などというのもあ
り得ないし、検討しなければ決められませんから、ではそういうことで。ほかに御意見
あるいは新しい御提案などはございませんでしょうか。よろしゅうございますか。それ
では事務局の方から何か連絡事項がございましたらどうぞ。
○事務局
本日御審議、御決議いただいた件につきましては、本年12月26日に開催予定の薬事分
科会において御報告させていただきます。また、本日の議事録につきましては、事務局
の方で取りまとめをいたしまして先生に御確認をいただき、公開の手続を進めさせてい
ただきたいと思います。また、本日の審議や結果に基づきまして、毒物及び劇物取締法
施行令及び施行規則等の法令改正等、必要な措置を講じてまいりたいと思います。
次回の部会の日程ですが、今のところは未定でございます。また改めて日程調整をさ
せていただきますので、その際はよろしくお願いいたします。