第159回国会 参議院文教科学委員会 15号 平成16年05月11日

○谷博之君 もう一つの大きな問題は、これまた具体的な質問で恐縮なんですが、東京理科大学のいわゆる実験動物の取扱いの問題についてお伺いしたいと思います。

 薬学、医学の分野で、いわゆる非臨床試験の一環として動物実験を行うということは、これ必要不可欠なことだと思います。そしてまた、実験動物の適正な管理というのがより正確なデータを得ることができると、大きくそれが影響するというふうに思っております。

 そういう中で、この千葉県野田市に移った東京理科大学、ここで実は今年の二月に、この施設の管理委託を受けていた業者の方から内部告発がございました。これは文部科学省にもその内容は伝わっていることと思います。そのことを実は踏まえてちょっと質問をしたいんですが、じゃ具体的にどういうふうな事柄が行われているかということをちょっと幾つか私調べてまいりました。

 ちょっと簡単に御紹介しますと、東京理科大学生命科学研究所では五年も前から、そして同大学の薬学部では昨年の野田移転当時から、それぞれの内規に反して遺伝子改変動物を施設外の研究室などで飼育したり、容易に逃げやすいビニール袋に入れて運んだり、あるいはまた繁殖記録も行われていなかったと。

 そして、そのうち特に悪質な研究室、これはあえて名前出ておりますから、安部教授という教授の研究室ですが、この方は、元帝京大学副学長の、例の薬害エイズ裁判で有名になった安部副学長の息子さんということでありますけれども、これはちょっと余談の話になります。このことは別にどうということはありませんけれども、この方がこの動物実験施設の管理責任者なんですね、この人が。

 これ一つの例ですが、五匹しか、五匹のマウスしか入らないそういうケージに三十七匹ものマウスを入れて、もう一杯になっちゃっているわけです。尾っぽは切れるし、頭は飛んじゃうし、最後に、えさを与えないものだから共食いをしちゃうという、こういうふうな要するに実験動物の管理の仕方をしている。なおかつ、そのほかにも生命科学研究所のこの安部研究室では、九七年ごろに内規で禁止しているマラリア原虫の投与実験を強行しているということもございます。

 それから、生命科学研究所のすぐ横のごみ置場から、遺伝子改変あるいは感染症罹患の可能性のある実験用マウスが二度も目撃をされている。さらにまた、同大学の薬学部で実験用マウスと思われる白いネズミが逃げ出しているのを守衛とか関係者が目撃し、それを知った市民が千葉県の野田保健所に通報して、その野田保健所はそれを受けて昨年十月に立入検査を行っている、こういうこともあります。そして、この通報を受けて野田保健所は、動物愛護管理法、いわゆる動愛法ですね、動愛法に基づいて立入調査をした。しかし、残念ながら建物の外観を見ただけで中身には入って検査をしなかった、こういうふうなことも言われております。

 いろんなそういう事実の積み重ねの結果、この施設管理の委託をしている業者は、最終的にそれらを、私、手元にありますけれども、相当な厚い、問題点ということでレポートにしまして、これを文部科学省に届けているはずなんです。そして、そのときに生命科学研究所は、その実態を明らかにしないでくれと口封じをした上で、結局それはできないということで、今年の三月でこの委託の契約は切れちゃったんです。一方的に打ち切られてしまったという、こういうふうなことがあります。

 いろいろ申し上げましたけれども、こういうことについて大臣は御存じですか、この事実を。

○国務大臣(河村建夫君) 今の御指摘の点、私のところへもアニマルサポート株式会社からこの点についての要望をいただいております。事実関係確認をしておるわけでございますが、理科大学側からは、現在は適切な管理を行っておるが、過去において必要以上に動物を繁殖させていた、あるいは飼育管理を請け負った会社から指摘されたような事実があった、一部あったという報告がございました。

 谷先生も御指摘のように、ライフサイエンス研究にとっては動物実験は不可欠になっておるわけでございますが、この点については、動物愛護法の精神、また動物福祉の観点、こういうこともやっぱり十分配慮して、関係法令等は遵守してもらわなきゃならぬわけでございます。そういう点も踏まえて、文部科学省といたしましても各大学等に対しまして、今後とも動物実験あるいは動物の飼育管理、適切に行われるように、様々な機会を通じて注意を促してまいりたいと、このように考えております。

○谷博之君 いわゆる今申し上げたことは、大臣そういう御答弁ですけれども、完全に私は改善されたというふうにはまだ見ておりません。

 一つは、法の不備もあったんだと思うんですけれども、今年の二月に遺伝子組換え生物規制法という法律が施行されました。この三十一条には強制立入りができるというふうな条文が入っておりまして、立入検査をできるということですね。そういう意味からすると、私、今まで以上に法の整備というものもできてきていると思うんですけれども、そういう点からすると、先ほど申し上げてお答えいただいた、そういうふうな大学側の内容を裏付けるという意味からも、私は直ちに立入検査をする必要があるというふうに思っているんですが、いかがでしょう。

○政府参考人(石川明君) 遺伝子組み換え生物等に関する立入検査についてのお尋ねでございますけれども、遺伝子組み換え動物の拡散防止のための措置が適切に講じられていることが必要でございまして、この点につきましては、私どもとしても、東京理科大学に対しまして説明を求めまして、法令に基づいて適切な措置が取られているというような報告を受けているところでございます。

 また、現在、同大学において法令違反のおそれがあると判断されるような事実は今現在は認められておらないところでございまして、文部科学省としては、その法律に基づく立入検査を現在実施するというまでの必要性があるとは考えておらないところでございます。

○谷博之君 実際にそういう立入りをしても、その場でそういう状況が、違反の事実が見付かるかどうかはこれは分からないわけですけれども、少なくとも、こういう内部からのいろんなこういう指摘があるということになれば、どの程度の私は調査をするかは別にしても、その指摘された事実はやっぱり確認しなきゃいけないですよね。例えば、いわゆる施設外で飼っていたり、あるいは安易に持ち運んだり、あるいは繁殖記録を全くしていないとか、こういうようなことについての一つ一つのやっぱりそれは事実は確認をしなきゃいけないと思うんですが、それはやられたんですか。

○政府参考人(石川明君) 先ほど先生から御紹介といいますかお話がございました様々な業者からの指摘の点につきましては、東京理科大学の方から詳しい説明といいますか状況を聴取しております。その概要につきましては先ほど大臣の方からも御答弁申し上げたとおりでございますけれども、現在、これらの事実関係につきまして改めて大学の方で調査をするということで、学外の有識者を含めました特別調査委員会を設置をして調査を行っているというふうに承知をいたしております。

 私どもとしては、こういった先ほど御指摘をいただきましたことにつきましてはそういった調査の中でも一層明らかにされるものと考えておりますし、また、そういった事柄等も踏まえまして適切な対応をまた取っていきたいと、こんなふうに考えております。

○谷博之君 どうも私は国立大学の場合はこういうことはないと思うんですよね。やっぱり国の大学ですからね。どうも私立大学ということになると、大学の自治とかそういうことでかなり及び腰になるような気がしているんですが、私はそうではないと思うんですよね。やっぱりきちっとそれはただすところはやっぱりたださないと問題は起きてくるわけですから、是非これはそういうことで今後の動きを注目したいと思っています。

 東京理科大学のこの問題をちょっと具体的に取り上げたわけですけれども、こういうふうな大学以外にも、どうも私立大学の薬学部のそういうふうな関係の中には、具体的にその大学の中でどういう実験動物が飼われていて、そしてそれがどこにあって、そういうふうなことがよく周り、近隣住民には分からない。そして、むしろそういう施設があることすら周りの住民は分からないという、こんなような事実も私は随分あるんだろうと思うんですね。

 したがって、私は、ここでそういう意味でのいわゆる近隣住民が定期的に立入りが、あるいは保健所が一年に一回とか二回とか立入りできるようなそういう制度、あるいはまた少なくとも公開をする、そういうふうなことをやっぱり、義務付けるとはいきませんけれども、そういう、進めていくとか、こういうふうなことがやっぱり指導されてしかるべきだというふうに思っておりますが、新しい法律を作ってまで、そこまでやるということはかなり難しいかもしれませんが、やっぱりそういうふうな取組が必要だと思いますが、この辺はどういうふうに考えておられますかね。

○政府参考人(石川明君) 先生今お話ありましたように、各大学におきましては、動物愛護及び管理に関する法律、あるいはそれに基づく基準、それから学術審議会の報告等に基づきまして、それを踏まえた指針、あるいは指針の適切な運用を図るための実験委員会等を設けまして、各大学においてそれぞれ自主的な管理を行っているところでございます。

 このような大学における動物実験につきましては、そういった学術研究あるいは学問の自由等のその性格等にもかんがみまして、大学の自主性やあるいはその自律性を尊重しながら実施をしていくということが適当ではないかと考えられているところでございまして、先生今お話のありました法律に基づく立入検査の導入等につきましては、関係者の意見なども踏まえながら慎重に対応する必要があるのではないか、このように考えております。

 また、動物の飼育管理状況の公開、情報提供というようなことにつきましても、大学において本来自主的にこれを行っていくことが望ましいものと考えておりまして、文部科学省としましては、これらの情報提供につきましては積極的な対応に努めるよう様々な機会を通じて大学に求めていきたい、このように考えております。

○谷博之君 大学の自主的な管理ということ、それはそれで結構なんですが、具体的にはこの東京理科大学の話をしましたけれども、ほとんどの大学は多分、こういう管理委託は多分業者がやっていると思います。大学の研究室でもちろん直接やっているところもありますけれども、生物、生き物ですから、当然それは責任ある管理者がいて管理をしなければいけないわけですね。

 そうしますと、その管理をしている委託業者というのは、これまたいろいろ調べてみましたら、全国に五社ほどあります、専門で管理している業者が。ところが、その業者の数だけでは足りませんので、結局、ビルメンテナンスの会社辺りが副業としてこういうことを、管理をしているんですね。そうすると、動物の専門家ばかりがやっているわけじゃありませんから、当然、適切な管理ができているかどうかは疑わしい例も出てくるわけですね。

 したがって、我々は、こういうふうないわゆる実験動物を管理を委託されるそういう業者については、それなりの一定のやっぱり資格あるいは水準を持ったそういう業者が当たるべきだというふうに思っていますが、そういう点では、最低でも届出制のような形で、あるいはできれば許可制のような形でその業者をやっぱり決めるという、こういうふうな形に持っていくのが最善の方策ではないかと思いますけれども、これについてはどうでしょうか。

○政府参考人(石川明君) ただいま先生の方からお話ございましたように、一部の研究機関におきましては、実験動物の飼養等に関する作業を外部の業者の方に委託をして実施しているというふうに承知しております。このような場合におきましても、まずは十分な業務能力を有する業者の方に委託を行うということが基本であり、大切な事柄だというふうに思っております。その上で、大学等の研究機関における自主的な管理の下で適切な飼養管理といったようなことが行われるべきものだというふうに認識をしております。

 委託を受けてこれらの業務を実施する者の資質の向上を図るという観点から、業者の例えば届出制あるいは許可制というような制度の必要性を考えるということでございますと、実験動物の飼育等が大学だけでなくて民間企業の研究所等を含めましてかなり幅広く実施をされているということもございますので、関係省庁を含め関係者による慎重かつ幅広い議論が必要ではないかなと、こんなふうに考えているところでございます。

○谷博之君 最後に、この薬学部の六年制の問題についての関係でお伺いしたいと思うんですけれども、施設外飼育とか過密飼育、それから繁殖記録のずさんな管理、これでまともな研究の成果が上がるとはなかなか思えない。そして、国際的評価がこれで果たしてなされるんだろうかというふうな、そういうふうな大きく言えば心配もいたします。私は環境委員会でこの問題についても時間掛けて質問させていただいたことがあるんですが、今日は時間がないのでこのぐらいにしておきますけれども。

 要は、今回の六年制になれば時間的に余裕も出てくるわけですね。そうすると、普通、福祉というと人間の福祉というふうな言葉が使われますけれども、動物にも福祉があるんですよ。生き物なんですよ。そういうふうな実験動物をどうやって数を減らしていって、なおかつその動物に苦痛を与えないで、そして貴重な命をその臨床のために使うかという、こういうところがやっぱり基本なんですね。

 したがって、そういう意味の動物実験代替法とか、あるいは生命倫理に関するようなそういうふうな教科といいますか、そういう授業といいますか、そういうようなものをやっぱり力を入れて、やっぱりせっかくの六年制になるわけですから、そのいわゆる薬学の分野でしっかり教えをしていただくという、こういうことを私たちは強く感じておりますが、副大臣のお考え、お聞かせください。

○副大臣(原田義昭君) 動物も、この世に生をうけた限り、やっぱりその生を全うするという、それが権利云々という形になるかどうか分かりませんけれども、それは当然なことだろうと思っております。また、先生が非常に大事なところを御指摘をいただいたところであります。

 今日のこの薬剤師教育の六年制導入、こういう過程にありまして、私どもはやっぱりこういう本当に隠れた、しかし大事なことについても思いを致さなければならない、こう思っております。

 薬学教育におきましては、平成十四年の八月に日本薬学会におきまして、薬学教育モデル・コアカリキュラムと、こういうものを作り上げたところでありまして、その中にもすべての薬学生が卒業までに身に付けるべきことと、こういうタイトルで、一つは動物実験における倫理について配慮をすることと、もう一つは代表的な実験動物を丁寧に適切に取り扱うこと、こういうことをわざわざ書き上げているところでございます。文科省としては、医療人にとって確かな倫理観を身に付けているということは、これはもう当然基本的な事項と考えておりまして、モデル・コアカリキュラムを踏まえて、この問題に関する教育が充実されるよう各大学を指導していきたいと、こう思っております。

(以下略)

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