※香港の無許可動物実験罪にあたる罪が日本にないという話が一瞬だけ出てきます。

第171回国会 衆議院外務委員会 14号 平成21年06月10日

○三原委員 きょうは、四つ条約がこの委員会に上程されてありまして、それで、私は、そのうちの二つについてちょっと質問したいと思います。

 最初は、日本・香港の刑事共助協定についてなんですけれども、その中で、同じような事件があれば、双罰性といいますか、あればスムーズにいくんですけれども、今、日米、日韓、それと日中かな、刑事共助の協定があるようですけれども、アメリカの場合には、A国では犯罪でもB国では該当しない、双罰性の欠如が起こったときに、日米は、双罰性は時に不要とするような場合もありますよということになっているらしいんですけれども、この点に関して、むしろ中国の方が、印象として、刑事罰あたりは強かったり、罪の問題あたりにもいろいろなものがあったりするんじゃないかという気もするんだけれども、そういう中国のテリトリーの中の香港での双罰性というものに関しての議論が何か行われていたんだろうかということをちょっとまず質問したいと思います。

○中曽根国務大臣 日米の刑事共助条約におきましては、条約上、別段の定めがない限りは、双罰性の有無にかかわらず共助を実施する旨定められておるところでございます。双罰性の欠如を理由に共助を拒否できるのは、共助の実施に当たり強制措置が必要であると認められるときに限定をされております。

 これに対しまして、今御審議をいただいております日本・香港刑事共助協定におきましては、共助の実施のために強制措置が必要であるか否かにかかわらず、双罰性の欠如を理由に共助を拒否することができる旨規定されているところでございます。これは、日韓刑事共助条約及び日中刑事共助条約と同様の規定ぶりでございます。

 香港との間でこの協定の交渉を行いました際には、香港の刑事共助条例において双罰性の欠如を拒否事由としていること、さらに日韓刑事共助条約の先例があることなどから、この双罰性に関する規定ぶりにつきましては、日本、香港間で意見の相違はございませんでした。

○三原委員 意見の相違はなかったということですけれども、でも、具体的なところで、日本では違法性があるけれども香港では違法性に該当しない、香港では違法性があるけれども日本では該当しないというような、そういう違法性に関しての明らかな差異みたいなのがあるようなものはあったんですか。

○小原政府参考人 お答え申し上げます。

 条文のみを形式的に比較いたしますと、例えば児童ポルノ単純所持罪でありますとか無許可動物実験等罪は、香港において犯罪とされておりますが、我が国の刑法にはこれらに対応する犯罪はございませんで、双罰性が成立しない可能性があると考えております。

 他方、双罰性が成立するか否かにつきましては、罪名や条文のみを形式的に比較して判断するのではなくて、事案の社会的事実関係に着目して、その事実関係の中に我が国の法令のもとで犯罪行為と評価されるような行為が含まれているか否かを検討することによって判断すべきものとされております。したがいまして、事実関係によっては、ただいま申し上げましたような香港で犯罪に問われる行為につきましても双罰性を肯定し得る場合があると考えられます。

 したがいまして、そうした犯罪が存在することによって我が国にとって重大な問題が生じるということは必ずしも想定されないと考えられております。

○三原委員 今、小原さんが言われた、重大な問題が生ずるとは考えていない、そこが大切なんですね。明らかに差異があったときには、例えば、向こうから何か頼まれた、こっちからも頼まれても、いや、それは我が国の社会通念上余り問題がないからなんというのじゃやはり困るけれども、今はっきり言われたように、我が国の社会上、これは明らかに社会の安定した安全な運営をするのにはおかしいぞというときには話もできると言われた。その点は十二分に留保してやっていかなきゃいけない。そういうことであります。

 特に今、例として児童ポルノの話なんか出ましたけれども、日本はかなりよその国から批判されていますよね。けしからぬね。(発言する者あり)そうだ、そのとおりだ。いやいや、笑い事じゃないんだね。品格がないね、それは。その点でもやはり、今、一生懸命に我々も超党派でいろいろ議論しているようですから、こういう面ではそれこそ我々も早くリーダーになれるようにしなきゃいけないなと思っています。

 次の質問になりますけれども、香港というと、シンガポール、香港というのはアジアの金融センターですよね。いろいろな意味で自由が与えられているからというんですけれども、自由が与えられていれば、金融センターで、お金に色がついているわけじゃないから、そのお金の中には怪しいお金があってみたり、においのするようなお金があってみたりするんじゃないかな。

 そういうときにどうするんだろうと思って、私はちょっと協定のところを読んでいましたら、協定の一条に書いてあることは、「共助には、次の措置をとることを含む。」と書いてありまして、その中で、一条の4に「租税に関する法律に違反する犯罪に関連する共助の請求は、その主たる目的が租税の賦課又は徴収であってはならない。」と書いてあるんだけれども、明らかに怪しいなというものがあって、それがうまくマネーロンダリングしていたり脱税していたりというようなことも考えられる場面でも、例えば今言ったような一条の4で逃れることができるようなことがあっては大変だと思うんだけれども。

 まず聞きたいことは、今、日中、日米、日韓での共助条約があるけれども、その国でも、この条約はこういう条項を入れてあるんだろうかどうか。それがわかりますか、今、三つやっている国々で。これは今回の香港にだけ特有なものなんだろうか。

○小原政府参考人 お答え申し上げます。

 ただいま御指摘のございました日米あるいは日中の協定の中には、かかる規定はございません。

○三原委員 やはりそうなんだろうなと思ったわけです。やはり、書いてあるということは、つまりはそれがかなり香港にとっては重要だ、ボディーブローになるかもわからぬということなのかなと思ったのでお聞きしたんです。

 そうなったとしたら、例えば、あなたたち御存じのように、日本の所得税と香港の所得税はかなり違うんだ。香港は一割五分かな、日本の場合には段階的に五段階になっていますから、高いところでは最終的には住民税まで入れると五割取られちゃうよね、高額納税者というのは。そういうのをうまく、何とかかんとか隘路を縫って香港に逃げていって、ぎりぎりの線、不正蓄財とは言わないけれども、法律に触れるか触れないかというような、法律に触れたら明らかにそれはおかしなことなんだけれども、触れないかというようなところまでもそういうことをやっているようなときに、それが脱税だけではなくて、何か違法なことから起こしたお金、詐欺で起こしたとか、今言ったポルノの関係のビジネスでもうけたお金がちゃんと向こうに行っているかどうか調べているとか、そういうたぐいになったとしたときに、それがまた税を逃れるために行っているなんということになったときに、では、今回の協定の今言った一条の4というのは、僕から見るとどういう悪影響を及ぼすことになるんだろうか。

○小原政府参考人 お答え申し上げます。

 本協定の第一条4でございますが、この規定は、租税法違反の犯罪に関連する共助の請求につきましては、租税の賦課または徴収といった行政手続ではなく、当該犯罪に関する捜査、訴追等の刑事手続を行うことを主たる目的としてなされる必要があるという点を確認的に規定したものでございます。

 したがいまして、本協定の一般的な解釈といたしまして、御質問のございましたように、詐欺等の犯罪、こうした刑法に触れる犯罪の疑いがある場合でございますが、刑事手続を行うことを目的とするのであれば、租税法違反の犯罪につきましても、本協定に従って共助を要請することが可能であると考えております。

○三原委員 では、もともとのメーンの問題が刑法に触れることであれば、それが関連して、租税、今の一条の四項に関係するような問題が起こったとしても、それは堂々と向こうに協力をお願いできるということなんですね。わかりました。

 ただただ全くもってメーンが税の問題に関してだったら、それは入り口から門前払いになるのかな。では、結果としてそれをやっていったらこれはやはり刑法に触れるような問題も起こったなんという逆のケースだったらどうするんだろう。刑法の問題から入っていって、それが租税に触れておけばいいとあなたは言ったけれども。租税の問題からは一切入り口から入れないのか、どうなんだろうね。

○北野政府参考人 お答え申し上げます。

 先ほど答弁をさせていただいた点と若干重なる点もございますけれども、二つのことを区別するのは、要請の対象となるものが犯罪の捜査、訴追の刑事手続であるか、それとも租税の賦課徴収であるかというところでございます。

 この協定に基づきまして共助を行うときには、一体それがどのような内容について共助を要請するのかということを明示して行いますので、それが犯罪に関する捜査、訴追の刑事手続であれば、税に関することであっても対象となるということでございます。

○三原委員 では、北野さん、それは逆に、租税だけ、まず租税から入っていこうとしたら無理だということだよね。租税のことを何かお願いしたいということは、もうこれは一条の4からできない、そういうことですね。

○北野政府参考人 お答え申し上げます。

 もし、要請する側の、要請国の方でその要請することの目的が租税の賦課徴収のためということであれば、この協定の対象にならないということでございます。

○三原委員 例えば、あれは一年のうち半分海外に住んでいたら自分で選んで所得税を納めるところを決めることができるから、そうしたら、香港に私は半分以上住んでいますというようなことで、所得税を向こうに納めているというようなことになる人もいるだろうと思って、そういうことなんかがもめたときにはどうするかなと思ったものだから。わかりました。
 では、今、四つのうち一つ目の香港と日本の刑事共助の話をちょっと聞きましたけれども、次は、もう一つの日本と中国の領事関係に関する協定について、ちょっと質問をさせていただこうと思います。

 我が国としてはおもしろくない事件でしたよね、二〇〇二年の、テレビでも出ていた場面もあったけれども、明らかに領事館の中に入り込んでいって、そして、逃げ込んだ人のことを引っ張り出してやっていることがありまして、そのときに、不幸にも、瀋陽のリーダーである総領事がちょうど帰国か何かしていてというようなことで、いろいろ不都合なことが重なっちゃって、かなり批判された場面がありました。それを一つの奇貨としたんですか、日中の領事関係の協定を結ぶようになったようですけれども、今回の理由というのは、つまり、やはりああいうことを二度と起こさないということをお互いに確認し合うということなのかな。

 だって、ウィーン条約は日本も中国も効力を発効させているでしょう。それで、それがあれば一応のことはできると思うんだけれども、これは対象のところを見せてもらうと、ウィーン条約の三十六条とこの協定の八条というのは少しだけ違うようなところは確かにありますけれども、しかし、ほとんどのところで類似のものなんだけれども、これをしなきゃいけないと思った理由は、やはりもう一遍再確認しようということなのかな。

○橋本副大臣 本協定は、日中両国間の領事関係の実態及び必要性に即した形で領事関係ウィーン条約の規定を確認、補足等するものであります。日中間の領事関係の一層の円滑化、ひいては日中両国の友好関係及び協力が促進されることを期待しております。

 本協定を締結する利点といたしましては、より具体的には以下の点を挙げさせていただきたいというふうに思います。

 領事通報について、領事関係ウィーン条約では、被拘禁者の要請がある場合に行われてきましたけれども、本協定では、被拘禁者の要請があるか否かにかかわらず、全件行うこととすることといたしまして、第八条にありますけれども、通報は拘禁の日から四日以内に行うというような明確な期限を設けております。

 これによりまして、我が方が、領事機関が日本人の被拘禁者例を確実に、そして迅速に把握いたしまして、より適切な邦人保護業務の遂行が可能になるということが考えられております。

 また、領事機関の公館の不可侵につきましては、領事関係ウィーン条約では、接受国の当局は、火災その他迅速な保護措置を必要とする災害の場合には、領事機関の長の同意があったとみなして領事機関の公館に立ち入ることができるというふうにされておりましたけれども、本協定では、接受国の当局が領事機関の公館に立ち入るためには、すべからく、すべて領事機関の長などの同意が必要であることを明確化することとともに、領事官の住居を含めた領事関係施設の保護を強化しております。これが第六条であります。

 これにより、在瀋陽日本国総領事事件のような事案の再発を防止し、領事任務のより円滑な遂行に万全を期すことができるというふうに考えられております。

 さらに、自国民の安全に関する情報の提供や緊急事態への対応のために、接受国の、他方、当局と領事機関との間で緊密な関係を維持することを十条に明確化しておりますけれども、自国民保護のための体制強化というのが期待をされているというふうに思っております。

○三原委員 今橋本副大臣が言われた公館の不可侵という問題は、やはり二〇〇二年のああいう事件を教訓にして起こされたことだと思うんですね。確かに、あの二〇〇二年のときでも、いろいろその後の状況を聞いてみたら、三十一条の二項というのでただし書きで、火災等があったときには入りますよと書いてあるんだよね。等とかと書いてあると、法律でよく等と書いてあると一番怪しいんだよね、何でもできちゃうんだけれども、それを中国もやったといえばやったんだろうかね。

 それで、大胆不敵というか蛮行というか、そういうことをやったんですけれども、今副大臣が言われた六条の領事機関の公館を不可侵とするという、許可なく立ち入るべからずということが、例外規定じゃないけれども、ただし書きに書いてあるウィーン条約とちょっとだけやはり厳しさが違うところかな、こう思うけれども、そういうふうに理解していいんですか。どうですか、そういうふうに理解していいの、政府方は。六条と三十一条の二項ただし書きの違いで、ちゃんと不可侵と言ったのは。

○北野政府参考人 お答え申し上げます。

 公館への立ち入りにつきましては、ウィーン条約におきましては、今委員より御指摘がありましたただし書きの規定があったわけでございます。

 このただし書きにつきましては、これの運用の次第によっては相手国との間で行き違いということが生じないでもないということでございまして、そのようなことが起こらないようにということで、今回の日中領事協定におきましては、このただし書きの部分を取って、公館長あるいはその指定する者等の同意が必要であるということを徹底化したということでございます。

○三原委員 同じ失敗を繰り返さないためにちゃんとやった、この点は大いに評価しますよ。それがやはり実行されなきゃ、実行するためにはどうするか、こういうことですね。

 例えば、六本木のところにある中国の大使館、あそこには入り口にちゃんと我が国の警察官がいますし、中にはやはり、アメ大あたりに行くと中に海兵隊がちゃんといるよね。中国の場合はどうだったかな、あそこの六本木の大使館の中、ちょっと記憶にないが、我が国の警察は、大きな大使館はみんな警備をしてくれておりますけれども、そういうところで万々が一あのような、瀋陽の領事館で起こったような事件が起こったときに、靴の一歩たりとも入れちゃいけないというように、ちゃんとそういう教育はしてあるのかな。

 それとも、いや、少しだけならいい、悪いようなやつだったら捕まえちゃおうなんという、その後に、あの中国の弁解じゃないけれども、何か日本の副領事か何かがありがとうと言いましたなんということまで言っているようなことがあるけれども。

 こういうウィーン条約とか領事関係条約あたりのことを、今度は外務省じゃなくて、国内で日本の警察の方は、もちろん教育はしているんだけれども、徹底して、ちゃんとああいうふざけたことが起こらないようにすることをやっているんでしょうね。

○宮本政府参考人 警察といたしましては、こうした問題につきまして、条約を遵守して対応するよう指示、徹底をしているところでございます。

○三原委員 それで、ちょっとこれは質問にはなかったけれども、例えば大きな国は、海外の自分のところの大使館や領事館には必ず軍隊を置いたり、もしかしたら警察官の人も置いているのかな、置いたりしているけれども、中国には、中国の北京の我が国の大使館や、今この瀋陽の領事館、上海だ、広州だとありますけれども、そういうところには、内側、中にそういう警備のための人材というものはちゃんと配置してあるんだろうか。どういうふうに我が国はしておるわけですか。外側はもちろん中国の警察が守っているでしょうけれども、内側の方はどういうことになっているんだろう。ちょっとこれは質問していなかったけれども、わかれば。

○小原政府参考人 お答え申し上げます。

 日本の中国におきます在外公館におきましては、館内、中におきまして、入り口のそばにしっかりとそうしたスタッフを置いて、適切な警備あるいは態勢がとれるようになっております。

○三原委員 起こらない方がいいんだけれども、ああやって実際に二〇〇二年にはああいうことが起こって、もちろん、入っていった警察官、そしてなおかつ、警察官に領事館とか大使館の治外法権というか、そういうことを認識しておったかどうか知らぬが、教育をしていなかったかもしらぬが、そんなことないと思うけれども、そういうたぐいのことを起こしたような接受国そのものの遵法精神みたいのをやはり批判せにゃいかぬけれども、同時に、やはり今度は我が国、行った方もそういうことが起こらぬようにするための最低限のことはやらないとね。

 中国だけじゃない。私はよくアフリカに行くんだけれども、アフリカあたりでも、何かちょっと暴動、動乱なんかあると、もう収拾がつかないようになる。そのときに、トラブったら、昔のことだけれども、コンゴあたりでは、キンシャサでトラブルがあったときには、最後は日本国はフランス大使館か何かに逃げ込んでいって、助けを求めて、川向こうのブラザビルに逃げた話なんかを読んだことがあるけれども、そういうことまでは対応できないだろうが、少なくとも同じようなこと、わずか四、五人の人が領事館に入り込んできたときにぶざまなことを二度と再び起こさないということは、やはりこういうことから学ばないかぬと思うんですね。そのためにこそ不可侵だということを六条に書いてあるんだからね。

 最後に、そういう点での外務省の、この領事協定をつくったんだけれども、それ以外に何か自分たちがこれから先やっていこうとか、やらなきゃいけないと思っているようなことがあるかどうか、そういうことを最後に聞いて、質問を終わりたいと思います。

○橋本副大臣 平成十四年の五月に発生をいたしました在瀋陽日本国領事事件を踏まえまして、外務省としては、省員の危機意識の徹底といった意識改革をすること、そして在外公館における緊急時の指揮命令系統の徹底といった危機管理体制の整備、現地警備体制の点検等の措置をとってきております。また、本件の背景の一つといたしまして、中国との間で領事協定の作成を行うこととしまして、累次交渉を重ねてまいりました。

 今回お諮りをさせていただいております日中領事協定では、本件との関係で問題となった領事機関の公館の不可侵について、接受国の当局が領事機関の公館に立ち入るためには、すべて領事機関の長の同意が必要であることを明確化しております。先ほどと同じことでありますけれども、領事官の住居を含めた領事関係施設の保護も強化をしてまいっております。

 本協定は御指摘のような事案の再発防止に資するものでありまして、本協定を早期に締結することは有意義であるというふうに考えております。

○三原委員 終わります。ありがとうございました。

(以下略)

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