第31回日本実験動物環境研究会
シンポジウム「実験動物の環境基準を考える」

 

(AVA-net会報 2005/1-2 110号掲載)
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平成16年11月27日(土) 順天堂大学

 
動物愛護法のもとで定められている4つの基準のうち、家庭動物、展示動物に関してはすでに改定作業が終わっており、次は「実験動物の飼養と管理等に関る基準」が対象になると言われています。実際の改定は来年の動物愛護法改正以降になりますが、日本実験動物環境研究会(以下環境研)が、シンポジウムにおいて、独自の改正案をテーマにするということなので、傍聴してきました。※基準はすでに改正済みです

■基準改定案概略

すでに環境研では昨年11月、別表のような基準改定案を環境省に提出済みとのことでした。内容としては、動物福祉の立場から、実験動物の安寧(well-being)や環境エンリッチメントの内容を盛り込み、また、ケージサイズや環境規準に関しても、国際的な基準との整合性から、具体的な数値を設定したとされていました。

【日本実験動物環境研究会改正案・概略】

サイトにPDFで掲載されています。こちら

■改定案アンケートについて

この秋、会員以外の組織も対象に、全国の実験関連機関へ改定案に関するアンケート調査を行ったとのことでしたが、回収率は2割(109件)と非常に低いものだったようです。

驚くべきことに日本製薬工業協会は、このアンケートに回答しないよう、協会員に通知を出したとのことで、動物福祉に関する業界の態度自体に非常に問題を感じました。

結果、どの程度意識調査として参考になるのか疑問もあるかとは思いますが、動物福祉に関する文言を入れることに対し、「必要」と答えている人が88%と、高い数値にはなっていました。「不必要」と回答した層は、実験実施者の立場の人たちです。

また、「近年、遺伝子工学・分子生物学の分野の者に動物の取扱いに習熟していない人が見受けられる」との意見など、動物実験の実際の一端を知ることのできる内容でもありました。

■策定時の問題点

「実験動物はペットではない。科学に基づいた基準を」という発言が繰り返しされていたのに反し、実際の策定に関してはかなり問題があったことがうかがえます。

基準値に関しては、それぞれの動物を担当した人ごとに採用基準がゆだねられており、根拠にばらつきがあります。また、ウサギケージの高さに、子ウサギが立ち上がることのできる45センチを提示したが採用されなかったといった話もあり、検討段階の案が国に提出されてしまっていることに疑問を投げかける声もありました。

■数値のあり方について

関係者からは、基準値より1センチでも小さかった場合に「法規に外れている」という評価が下されることを懸念し、「最小値の設定ではなく推奨値で」という意見が出されました。これに対しては「狭すぎるのに」と感じる一方、実は動物たちの側に立った場合でも、数字を出してしまうことに危険性を感じます。「基準の数値さえクリアしていればよい」という低いレベルにケージサイズがそろってしまう懸念があるためです。

例えばマウスに関しては、現在使用しているケージの床面積の方が基準案より広いという回答が多く、値の方に問題があるのではないかと思えます。一方でサルに関しては、基準案の数値より狭いケージが使用されており、最小値を定めることで、もし環境が改善されるのであれば、歓迎できる部分があるかもしれません。今後、動物本来の生態にもとづく動物行動学や動物福祉の見地からの議論もなされていくべきでしょう。

ちなみに、EUの基準は12月の議会をめどに改正作業が進められているとのことで、それが実現した場合、日本のサル用ケージの10倍近いサイズが基準として採用されることになるそうです。

■その他

このシンポでは他に、アメリカのNIH(国立保健研究所)が出した「実験動物施設建築設計ポリシー」についての報告と、日本建築学会の「ガイドライン 動物実験施設の建築および設備(平成8年版)」の改訂についての話題も出ていました。

日本の実験施設に関しては、動愛法だけではなく、感染症予防法や遺伝子組換え生物規制法など、他の法律との関連でもまだまだ問題があります。日本建築学会が「施主である実験関係者側に基準を決めてほしい」と言っており、今までそうではなかったことに、改めて実験関係者側の意識の低さを感じました。

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