第64回くすり勉強会「科学的非行とは? 対象者の保護の研究倫理」
「科学的非行」と動物実験
~論文には不正行為がいっぱい!?~
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医学研究とは限りませんが、公正であるべき科学論文を書くにあたって、研究者自身がひそかにデータを改ざんしたり、事実をでっち上げたりする事件が後をたちません。先日、「科学的非行とは? 対象者の保護の研究倫理」という勉強会(くすりネット・研究対象者保護を考える会共催 2005年6月11日)が開催されたので聞いてきたのですが、日本では科学者の不正を正すためのしくみが作られておらず、問題意識も共有されてないとのことでした。ここで言う研究の「対象者」とは、もちろん人間の被験者のことでしたが、もうひとつの「対象者」である動物たちとこの問題も無関係ではないと思います。
■不正行為とは何か?
「科学的非行」という表現は、現在定訳というわけではありませんが、英語で言うscientific misconductのこと。科学研究における不正行為を指します。実は欧米諸国では1980年代から90年代にかけて、この問題についての議論がわきおこりました。アメリカでは研究公正局(The Office of Research Integrity:ORI)という、科学における不正行為を監視する行政組織もつくられ、報告制度が設けられています。
では不正行為とは具体的に何なのでしょうか? 狭義には、ねつ造、偽造、盗用の3つを指しますが、より広く、資金の不正利用や重複発表、ウソの共同研究者、ヒモつき論文なども含まれるべきだと言われています。
■動物福祉も無関係ではない!
今年、そのアメリカ研究公正局の教育用テキストの翻訳が日本で発刊されました。「ORI 研究倫理入門―責任ある研究者になるために 」(Nicholas H. Steneck著 山崎茂明訳 丸善)がそれです。
その中の第4章のタイトルは、まさに「実験動物の福祉」。「動物福祉が無視された論文は、不正な論文である」という意識が、アメリカには明確にあることがわかります。
考えてみれば、そういった論文のために行われた実験で犠牲になった動物たちの死というものは、まさに無駄死にではないでしょうか。先日、マウスの購入実績がなかったためにでっちあげが判明したケースもありましたが、多くの場合、不正な論文であっても動物たちは実際に犠牲になっています。
■「ピア・レビュー」はダメ
こういった不正を生み出すものとして、激しい競争などさまざまな理由が挙げられていますが、ひとつ注目すべき点は、専門家同士で研究を評価する「ピア・レビュー」のしくみに問題があるという指摘です。いわゆる「なれあい」が不正に関与することは明白だからです。
にもかかわらず、現在の日本の動物実験の世界では、「計画書の審査はピア・レビューでやる、だから法規制はいらない」といった主張がしきりになされており、時代に逆行していると言わざるをえません。
また、不正事件発覚が続いているにもかかわらず、「動物実験は適正に行われている」と主張する研究者側の意識も疑問です。日本においては、不正行為を正す以前の問題があるのではないかと思います。
【2005年の関連報道】
■“One in three scientists confesses to having sinned”
(科学者の3人に1人は不正に手を染めている)
(ネイチャー6月9日号)
アンケート調査に協力した研究者3247人のうち約1.5%が改ざんや盗用をしたことがあると回答。過去3年間に何らかの形で職業上の不正行為をしたと認めた研究者は、なんと3人に1人。
■「深刻化する、科学研究の捏造・改竄・盗用(上・下)」
(WIRED NEWS(AP通信)7月19~20日)
アメリカの科学的不正行為に関するレポート記事。この中で紹介されている分析によれば、科学者が不正を働く理由は、「何らかの精神障害、外国人研究者で自国で学んだ科学に関する基準が米国のものとは異なる場合、不適切な指導、そして最も多いのが、論文を発表しなければならないという職業上のプレッシャーの増大」だそうです。
■「論文データの捏造や盗用、113学会で 学術会議調査」(朝日新聞7月4日)
日本学術会議が調査を行い、論文の盗用や二重投稿などの不正行為が、過去5年間に少なくとも国内の113学会で問題になったと公表。ほとんどの事例が知られていないというのも驚きです。
■「相次ぐ論文データ改ざん・ねつ造 モラル頼み、ダメ」(毎日新聞6月15日)
相次ぐ不正事件。日本の対策の遅れを指摘する記事です。
【日本の最近の不正事件】
■大阪大学医学部
医学部生による論文データの改ざんが発覚。教授がその学生から多額の寄付金を受け取っていたことも判明した。
■理化学研究所
※削除しました(2010.05.31)
【参考】
日本学術会議「科学における不正行為とその防止について」(2003年6月24日)