福島県立医大 動物実験計画書
福島県情報公開審査会答申集:
福島県立医大動物実験計画書を一部開示とした件
http://www.pref.fukushima.jp/bunsho/kk/koukai/tousin/tousin64.pdf
諮問第64号
答申
第1 審査会の結論
福島県知事(以下「実施機関」という。)が「動物実験計画書(平成13年度分)」を
一部開示とした決定において、不開示とした部分のうち、実施機関は次の部分を開示すべ
きである。
1 実験責任者の欄のうち、県職員の身分を有する者にあっては所属、職名、氏名及び内線
電話番号、県職員の身分を有しない者にあっては所属、その者の身分を表す部分及び内
線電話番号
2 実験従事者の欄のうち、県職員の身分を有する者にあっては所属、職名及び氏名、県職
員の身分を有しない者(特殊法人の職員を除く。)にあっては、その身分を表す部分
3 研究課題及び実験概要(プロトコール)(県職員の身分を有する者が実験責任者になっ
ているものに限る。)の欄のうち、当該研究のキーワード、創意工夫などの研究の中枢
をなす部分を除いた部分
第2 異議申立てに係る経過
1 平成14年2月21日、異議申立人は、福島県情報公開条例(平成12年福島県条例第
5号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、「福島県立医大動
物実験計画書(平成13年度分)」との内容で公文書の開示請求(以下「本件開示請求」
という。)をした。
2 平成14年3月19日、実施機関は、本件開示請求に対応する公文書として福島県立医
大動物実験計画書(H13年度分)226件(以下「本件公文書」という。)を特定し、
これを一部開示するとの決定(以下「本件処分」という。)を行い、次の理由を付して異
議申立人に通知した。
(1) 不開示とする部分
実験責任者、実験従事者、研究課題及び実験概要(プロトコール)に係る項目の部分
(2) 不開示とする理由
ア実験責任者の欄のうち、自宅電話番号部分について
(ア) 該当条項
条例第7条第2号該当
(イ) 不開示とする理由
個人に関する情報であって、当該情報の内容により、特定の個人を識別できるも
のに該当し、同号ただし書のいずれにも該当しないため。
イ実験責任者、実験従事者、研究課題及び実験概要(プロトコール)について
(ア) 該当条項
条例第7条第6号該当
(イ) 不開示とする理由
県が県民の生活及び文化の向上発展に寄与するために行う医療研究に関する情報
であって、開示することにより、今後の同種の医療研究の公正・円滑な執行に著し
い支障を生じるおそれがあるため。
3 平成14年5月17日、異議申立人は、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)
第6条の規定により、本件処分を不服として、実施機関に対し異議申立てを行った。
第3 異議申立人の主張
1 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、本件処分を取り消し、開示を求めるというものである。
2 異議申立ての理由
異議申立ての理由は、異議申立書及び口頭による意見陳述を総合すると次のとおりであ
る。
(1) 県立大学は公的機関であり、国民、県民の税金を使って研究活動、動物実験を行って
いる。医科大学における動物を用いた研究行為は公共の業務であり、その計画書は公文
書である。したがって、医科大学は、その実験の内容等について、国民、県民に説明す
る責任があり、動物実験計画書は当然に開示されるべきものである。
(2) 動物実験計画書を開示することにより、医療研究の公正・円滑な執行に、どのような
著しい支障が生じるのか、また、県民等の間にどのような社会的な誤解や混乱が生じる
のかが明らかでなく、不開示とする理由にならない。
(3) 動物実験計画書を公にすることにより、研究者個人や家族に危害が及ぶおそれがある
ことを不開示の理由としているが、日本国内においては、福島県立医科大学や他の研究
機関に対する過激な抗議行動は行われていないことから、実施機関の主張するおそれは
現実的ではなく、不開示とする理由にはならない。
また、県立医科大学の研究者は地方公務員であり、その氏名は大学の名簿や職員録等
で公表されていることから、その氏名を公開しないことは不当である。
(4) 動物実験計画書を公にすることにより、難病等の治療法に制止がかかり、また、研究
上の致命傷になることは考えられず、不開示とする理由にはならない。
研究課題や目的までも公開できないのであれば、何を行っているかも不明であり、公
費を使って研究を行う資格はなく、また、数行の実験概要によって「研究の独創性や優
先権」が判明するはずもない。
第4 実施機関の説明要旨
実施機関が本件公文書を一部開示とした理由は、一部開示決定理由説明書及び実施機関
の理由説明を総合すると次のとおりである。
1 本件公文書について
(1) 動物実験実施に関する手続きの概要について
福島県立医科大学(以下「医科大学」という。)における動物実験は、動物福祉にも
配慮し、かつ、科学的な動物実験を遂行するために制定された「福島県立医科大学動物
実験指針」(以下「動物実験指針」という。)に基づき、動物実験指針の適正な運用を図
るために組織された「福島県立医科大学動物実験委員会」(以下「動物実験委員会」と
いう。)に「福島県立医科大学動物実験委員会規程」(以下「動物実験委員会規程」とい
う。)に定める様式に記載した動物実験計画書を提出して行うこととされている。
この動物実験委員会は、動物実験指針の適正な運用を図るとともに、必要に応じて、
実験を行おうとする者に対して、指導及び助言を行う任務を有している。
医科大学の動物実験指針は、学術審議会学術情報資料分科会学術資料部会から報告さ
れた「大学等における動物実験の実施に関する基本的な考え方(昭和62 年1月26 日付
け)」を受けて、当時の文部省学術国際局長から各大学あて通知された「大学等におけ
る動物実験について(昭和62 年5月25 日付け)」を基に、医科大学の教授会で制定され
たものである。
この学術審議会の報告の基本的な考え方は、我が国における動物実験は法律によって
細部まで規制するのではなく、研究機関が自ら定めた指針を遵守して、倫理的かつ科学
的に遂行されるべきという点にある。
医科大学における動物実験を遂行するため、実験動物の飼育と各種の実験を行う施設
として実験動物研究施設が整備されており、施設の管理運営は動物実験委員会の議に基
づいて施設長が行うことになっている。
この施設は、通常の研究棟から隔離された閉鎖環境の構造となっており、飼育室内の
科学的恒常環境を設定すると同時に、換気や排水も環境汚染とならないよう特別の配慮
がされている。また、施設の利用に当たっては、学内者であっても施設長が指定する講
習を受講し、許可された者だけが利用できることになっている。
(2) 本件公文書について
本件公文書は、動物実験を実施する前に動物実験委員会に提出される。その記載項目
は、実験責任者(所属、職、氏名、内線電話番号、自宅電話番号)、実験従事者(所属、
職、氏名)、研究課題、実験実施場所、動物飼育場所、実験実施期間、実験実施期間(実
験開始年月日、実験終了年月日)、使用動物(動物の種類、性別、系統、匹数、入手先、
遺伝的保証の有無、微生物的保証の有無)、実験方法の種別(薬剤、試料等の投与、組織
等材料の採取、行動観察、外科的処置、繁殖・維持、その他の項目から選択)、安全管理
上注意を要する実験、動物実験を必要とする理由(代替手段がない、代替手段の精度が不
十分、代替手段の経費が過大、その他の項目から選択)、動物の苦痛軽減方法、想定され
るカテゴリー、実験終了後の処置及び実験概要(プロトコール)(実験責任者、研究課題、
目的、方法)である。
2 一部開示決定理由について
(1) 基本的な考え方
動物実験計画書には、研究者の独創性と創意工夫が包含され、その中には特許や実用
新案申請のための基盤となるものもある。したがって、動物実験計画書は、研究者個人
の重要な研究資産であり、研究者にとって研究生命を左右しかねないほど重要な意味を
持っている。このため、医科大学では、学内者であっても動物実験委員会の関係者を除
き閲覧させず、また、動物実験計画書の内容を知る立場にある者には守秘義務を課して
いる。
また、動物実験計画書に記載された研究は、複数年にわたり継続されているものが多
く、本件公文書は、ほとんどが実験継続中かまだ実験を開始していないものが含まれて
いる。動物実験の正確な情報について、社会一般に広く説明する機会を経ることなく動
物実験計画書のみを公にすれば、その内容を社会の一部から恣意的あるいは断片的に受
け取られるおそれがあり、いたずらに先入観による誤解を招くことになりかねないと危
惧する。このようなことは、公共の安全と秩序の維持に支障を生じさせることになる。
(2) 個別の不開示項目について
ア実験責任者の電話番号について
実験責任者の自宅電話番号については、特定個人が識別できる情報であり、条例第
7条第2号本文に該当し、同号ただし書のいずれにも該当しない。
イ実験責任者及び実験従事者について
研究者である特定個人が明らかになり、その結果、動物実験に反対であると称する
者等から、研究を妨害されたり、個人攻撃されたりするおそれがあり、研究によって
得られる医学・医療の進歩に大きな支障を及ぼすことが危惧される。
したがって、一部の考え方の人々によって、県民全体の利益が損なわれ、「公正さ」
が阻害されるとともに、医科大学における研究活動が阻害される場合が生じることが
考えられ、不治の病に陥る患者の早急な治療法の開発に制止がかかり、「能率的な」
遂行が阻害されることになる。
また、研究者個人に対する攻撃が過激化すると、研究者本人ばかりでなく、その家
族にも危害が及ぶおそれがある。
これらのことから条例第7条第6号に該当する。
ウ研究課題及び実験概要(プロトコール)
学会発表や学術雑誌に論文として掲載される以前に研究途中の内容が明らかになる
と、社会的な誤解、すなわち、恣意的解釈や過大評価がなされるおそれがあり、研究
の独創性が損なわれることにもなる。また、独創的研究内容や結論に至らない研究途
中の内容が明らかになることは、研究機関としての社会的責任からも支障を来すこと
になる。研究途中で、研究者が意図しないところで、意図しない形で詳細な研究内容
が明らかになると、県民の一部にのみ社会的誤解を与えることになり、県民全体の利
益が損なわれ、「公正さ」が阻害されるとともに、医科大学における研究が阻害され
る場合が生じ、不治の病に陥る患者の早急な治療法の開発に制止がかかり、「能率的
な」遂行が阻害されることになる。
研究課題は、当該研究の課題を簡明に記載したものであるが、いわば実験概要を集
約したキーワードであり、研究内容を特定し得るものである。特定領域の専門家がそ
の研究課題を見れば、データベースシステムを活用して、どのような研究を行ってい
るのか、何を開発しようとしているのか、そのアイデアが容易に特定できるものであ
り、研究の独創性が失われることになる。
また、実験概要の欄のうち、目的及び方法の部分には、計画されている実験の内容
が具体的かつ詳細に記載されており、本件公文書の中核をなす部分であり、この部分
を開示すれば、実験の内容が判明し、ひいては研究の内容が判明するおそれがある。
これらのことから条例第7条第6号に該当する。
第5 審査会の判断
医科大学の動物実験計画書の開示等の考え方については、平成8年5月21日付けで当
審査会より答申したところである。しかしながら、その後、条例が全面的に改正されて、
不開示条項及びその判断基準が改正されたことから、当審査会としては、改めて、現行条
例に照らして、今回の実施機関が行った動物実験計画書の一部開示決定の妥当性を審査す
る。
1 本件公文書について
本件公文書は、動物実験委員会規程第5条に基づいて、動物実験を行おうとする医科大
学の研究者が作成し、動物実験委員会に提出するものである。本件公文書に記載される項
目については、ほぼ実施機関の説明のとおりであるが、その他、動物実験委員会における
検討結果、動物実験委員会委員長の氏名・印が記載され、一部の動物実験計画書には動物
実験委員会の意見が記載されている。
2 本件公文書に係る事務事業について
医科大学は、医学等の教育を行う高等教育機関であり、また、医学等に関する試験研究
を行う研究機関という性格を有する組織である。本件公文書に記載されている動物実験は、
医科大学における研究方法の一つであり、本件公文書は、医科大学の研究者に係る研究活
動に関する情報が記載されているものと認められる。
3 条例第7条第2号該当性について
(1) 条例第7条第2号について
本号は、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーは、いっ
たん開示されると、当該個人に対して回復し難い損害を与えることがあることから、特
にプライバシーに関する情報については、最大限保護することを目的として規定された
ものであると解される。
すなわち、個人のプライバシーの概念は、法的に未成熟であり、その範囲も個人によ
って異なり、類型化することが困難であることから、プライバシーを含む個人に関する
情報であって、特定の個人が識別され得るような情報が記録されている公文書は、原則
として不開示とすることを定めたものであると解される。
さらに、個人を識別することはできない情報であっても、個人の人格と密接に関連し
たり、公にすることにより個人の財産権等の権利利益を侵害する情報もあり得ることか
ら、そのような個人情報についても原則として不開示とすることを定めたものと解され
る。
また、本号ただし書は、個人が識別され得る個人情報には、本来保護の必要性がない
公知の情報が含まれることもあることから、個人の権利利益を侵害しないもの及び個人
の権利利益に優越する公益性が認められる場合には、不開示としないことを限定的に定
めたものと解される。
(2) 条例第7条第2号本文該当性について
実施機関が本号に該当するとして不開示とした部分は、動物実験計画書の実験責任者
の欄のうち、自宅電話番号の部分である。実験責任者の自宅電話番号は、実験責任者個
人に関する情報であり、特定の個人が識別され得る情報であると認められる。
(3) 条例第7条第2号ただし書該当性について
条例第7条第2号本文に該当する情報であっても、第2号ただし書のいずれかに該当
する場合には開示すべきものであるが、実験責任者の自宅電話番号については、ただし
書ア「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されてい
る情報」、ただし書イ「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすること
が必要である情報」に該当しないことは明らかである。
次に、ただし書ウ「当該個人が公務員である場合において、当該情報がその職務の遂
行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員の職及び氏名並びに当該職務
遂行の内容に係る部分」の該当性について検討する。
当審査会が、本件公文書を見分したところ、実験責任者として記載されている者の中
には、医科大学の教授等県職員としての身分を有する者と、大学院生、大学院研究生等
県職員としての身分を有していない者が含まれており、それぞれ分けて判断する。
ア県職員の身分を有する者について
実験責任者の自宅電話番号は、動物実験委員会規程により定められた様式における
記載事項とされており、動物実験委員会においては実験責任者の自宅電話番号が動物
実験の適正な遂行のために必要な情報であるとしていることが認められる。しかしな
がら、一般的に動物実験を行うための学内における連絡調整は、医科大学の内線電話
が利用されるものであり、実験責任者の自宅電話番号についてはあくまで勤務時間外
における緊急時の連絡のためのものであると認められることから、実験責任者の自宅
電話番号は医科大学における研究等の職務を遂行する上での情報という一面は有する
ものの、実験責任者の私的な個人情報という面が大きく、個人情報の保護の面から開
示の必要性は認められない。
イ県職員の身分を有しない者について
県の職員としての身分を有しない者については、ただし書ウに該当しないことは明
らかである。
従って、実験責任者の自宅電話番号については、ただし書ウに該当するとは認められ
ない。
以上から、実験責任者の自宅電話番号は、条例第7条第2号のただし書のいずれにも
該当しないものと認められる。
4 条例第7条第6号該当性について
(1) 条例第7条第6号について
本号は、公にすることにより県の機関又は国等が行う事務又は事業の目的が損なわれ、
又はこれらの事務事業の公正かつ適切な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を不開示
とすることを定めたものと解される。また、本号で規定する「支障」の程度については、
名目的なものではなく実質的なものが求められ、「おそれ」の程度についても単なる確
率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が必要であると解される。
さらに、条例第7条第6号で定める不開示理由の例として「調査研究に関する事務に
関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」が示されているが、これは、
試験研究機関等において行われる調査・研究等に関する情報については、完了後などに
公表することが予定されていることが多く、適切でない時期に開示するとその公正かつ
能率的な遂行を阻害するおそれがあることから規定したものと解される。
(2) 条例第7条第6号該当性について
本件公文書のうち、実施機関が不開示とした項目に従い、不開示情報の該当性につい
て判断する。
ア実験責任者について
実施機関は、実験責任者の欄に記載されている所属、職、氏名、内線電話番号を開
示することにより、研究者が特定され、動物実験に反対の立場の者からの個人攻撃や
研究の妨害が行われるおそれがあり、その結果として、医科大学における研究活動に
よって得られる医学・医療の進歩に大きな支障を及ぼす可能性が危惧される。また、
研究者個人に対する攻撃が過激化すると、研究者本人ばかりでなく、その家族にも危
害が及ぶおそれがあると主張する。
確かに、実施機関が当審査会に提出した資料等により、医科大学に対する匿名の非
常識な嫌がらせがあったこと、海外の動物実験反対者による国内大学の調査活動の例
があることは認められたところである。しかしながら、現段階において、実験責任者
を開示することにより、このような行為が医科大学の研究者に対する個人攻撃や研究
の妨害に発展するおそれや、研究者の家族にまで危害を及ぼすおそれに至るものとは
認められず、その結果として医科大学の能率的な研究活動の遂行に支障を及ぼす具体
的なおそれがあるとまでは認めることはできない。
仮にそのような研究活動に対する妨害や個人攻撃を企てる者がいるとすれば、様々
な学会等で発表された論文の内容に基づき、妨害活動等を実施に移すことも考えられ
るところではあるが、日本国内においては、そのような具体的な妨害活動の事例があ
るとは認めることはできない。
以上により、動物実験計画書の実験責任者の所属、職名、氏名及び内線電話番号に
ついては、第7条第6号に該当しないと判断する。
ただし、実験責任者については、県職員の身分を有する者以外に、大学院生、大学
院研究生等の県職員の身分を有しない者が含まれており、これらの者の氏名について
は、条例第7条第2号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しないことから不開
示としたことは妥当であると認められる。
イ実験従事者について
実験従事者についても、上記実験責任者における判断と同様に、県職員の身分を有
する者については、その職名及び氏名は第7条第6号に該当しないと判断する。県職
員の身分を有しない者の氏名については、第7条第2号に該当し、ただし書のいずれ
にも該当しないことから、不開示としたことは妥当であると認められる。
また、県職員の身分を有しない者の中に、特殊法人の職員が含まれているが、これ
ら特殊法人の職員については、処分当時、条例において公務員等と同様に扱うとする
規定がなく、また、慣行として公にするとの取扱いもされていないことから、特定の
個人が識別され得る職名及び氏名については、条例第7条第2号本文に該当し、ただ
し書のいずれにも該当しないことから不開示としたことは妥当であると認められる。
ウ研究課題について
まず、実施機関は、研究者が自ら学会や論文等により発表する以前に、研究途上の
内容が公にされることにより、一部の県民の間に恣意的な解釈や過大評価などの社会
的な誤解が生じ、その結果、県民全体の利益が損なわれ、公正さが阻害されるととも
に、医科大学における研究活動に支障が生じると主張する。
しかしながら、動物実験計画書に記載される研究課題については、当該研究におけ
る課題を簡明に記載した表題といえる部分であり、このような研究課題を開示するこ
とにより、一部の県民の間に恣意的な解釈や過大評価等の社会的誤解を生じさせるお
それは少なく、それにより医科大学の研究活動に支障が生じるおそれは現実的ではな
いといわざるを得ない。
次に、実施機関は、研究課題は当該研究の課題を簡明に記載したものであるが、い
わば実験概要を集約したキーワードであり、専門家が見れば研究内容を特定し得るこ
とから、研究課題を公にすることにより、研究者の独創性や優先権を失う結果となり、
医科大学における研究活動を停滞させたり、中止に至らしめるなど、研究の致命傷に
なると主張する。
確かに、医科大学を始めとする試験研究機関における研究活動は、その成果を社会
や県民等に対して、適当な時期に適当な方法により公表し、還元することが原則であ
り、その成果を上げるために、研究に従事する研究者の創意工夫等が最大限に発揮さ
れるシステムや研究における独創性や優先権の保護など、研究者の研究意欲を阻害し
ないことも重要である。
研究における独創性や優先権などに関する情報が、研究者の意図しないところで、
全て公になることは、研究者の創意工夫や研究意欲を減退させ、その結果、医科大学
の研究活動の能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるとの実施機関の主張には理
由があると認められる。
本件公文書は、研究者が、動物実験を適正に行うために動物実験委員会に提出する
文書であり、その適正な審査に資するため、当該研究に関する詳細な情報の記載が要
求されていることから、簡明に記載されている研究課題といえども、その中に、当該
研究に係る独創性や優先権に関する情報が含まれている可能性を否定するものではな
い。しかしながら、一方では、実施機関が、本件公文書226件について、研究課題
を一律に不開示としたことは、公文書ごとに開示等の判断を行うこととする情報公開
制度の趣旨に照らし、妥当と言えるものではない。
以上のことから、実施機関は、本件公文書に係る研究課題について精査し、そのう
ち、当該研究のキーワードである文言、研究者の独創性や優先権に関する部分を除い
て開示すべきであると判断する。
なお、当審査会が本件公文書を見分したところ、本件公文書の中には、県職員の身
分を有する者以外の者(大学院生、大学院研究生、博士研究員等)が実験責任者とな
っている動物実験計画書がある。実験責任者は、当該動物実験の中心となる者であり、
実験責任者の研究に関する考え方が動物実験計画書に記載されていると判断すること
が妥当である。これらの県職員の身分を有しない者に係る研究課題については、本号
の該当性は認められないものであるが、上記ア・イと同様に条例第7条第2号本文に
該当する個人情報であり、また、その内容から特定の個人を識別することはできない
ものであるが、公にすることによりなお個人の権利利益を侵害するおそれがあると認
められ、ただし書のいずれにも該当しないと認められることから、不開示としたこと
は妥当であると認められる。
エ実験概要(プロトコール)について
実験概要(プロトコール)について、実施機関は、研究課題と同様に研究者が自ら
学会や論文等により発表する以前に、研究途上の内容が公にされることにより、恣意
的な解釈や過大評価などの社会的な誤解が発生し、その結果、県民全体の利益が損な
われ、公正さが阻害されるとともに、医科大学における研究活動に支障が生じると主
張する。
確かに、実験概要(プロトコール)は、当該研究における手順、試料等を詳細に記
載した動物実験計画書の中心をなす部分であり、研究課題と比べると、この実験概要
(プロトコール)を開示することにより、実施機関が主張するような社会的な誤解が
生じるおそれは大きいものとは考えられる。しかしながら、本件公文書は、学会等で
発表される論文とは異なり、実験開始時に、あるいは実験途上の時期に動物実験委員
会に提出して審査を受けるという性格を有するものである。そのような動物実験計画
書の性格について、公文書の開示の一環として説明することにより、県民等の理解を
得ることができるものと考えられることから、医科大学の研究に支障を及ぼすほどの
社会的な誤解が生じるとのおそれは現実的ではない。
次に、実施機関は、実験概要(プロトコール)は、当該研究の内容を詳細に記載し
たものであり、研究内容を特定し得ることから、これを公にすることにより、研究者
の独創性や優先権を失う結果となり、研究活動を停滞させ、あるいは中止に至らしめ
るなど、研究の致命傷となると主張する。
確かに、医科大学をはじめとする試験研究機関における研究活動は、先に研究課題
の判断でも示したように、その成果を社会や県民に対して、適当な時期に適当な方法
により公表し、還元することが原則であり、その成果を上げるために、研究に従事す
る研究者の創意工夫が最大限に発揮されるシステムや研究における独創性や優先権の
保護など、研究者の研究意欲を阻害しないことも重要である。
研究における独創性や優先権などに関する情報が、研究者の意図しないところで全
て公になることは、研究者の創意工夫や研究意欲を減退させ、その結果、医科大学の
研究活動の能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるとの実施機関の主張には理由
があると認められる。
本件公文書は、研究者が、動物実験を適正に行うために動物実験委員会に提出する
文書であり、その適正な審査に資するため、当該研究に関する詳細な情報の記載が要
求されており、動物実験計画書の中心をなす実験概要(プロトコール)の中には、当
該研究に係る独創性や優先権に関する情報が含まれていることを否定するものではな
い。しかしながら、一方では、実施機関が、本件公文書226件について、実験概要
(プロトコール)を一律に不開示としたことは、公文書ごとに開示等の判断を行うこ
ととする情報公開制度の趣旨に照らし、妥当と言えるものではない。
以上のことから、実施機関は、本件公文書に係る実験概要(プロトコール)につい
て精査し、そのうち、当該研究のキーワードである文言、研究者の独創性や優先権に
関する部分を除いて開示すべきであると判断する。
なお、当審査会が本件公文書を見分したところ、本件公文書の中には、県職員の身
分を有する者以外の者(大学院生、大学院研究生、博士研究員等)が実験責任者とな
っている動物実験計画書がある。実験責任者は、当該動物実験の中心となる者であり、
実験責任者の研究に関する考え方が動物実験計画書に記載されると判断することが妥
当である。これらの県職員の身分を有しない者に係る実験概要(プロトコール)につ
いては、本号の該当性は認められないものであるが、上記ア・イと同様に条例第7条
第2号本文に該当する個人情報であり、また、その内容から特定の個人を識別するこ
とはできないものであるが、公にすることによりなお個人の権利利益を侵害するおそ
れがあると認められ、ただし書のいずれにも該当しないと認められることから、不開
示としたことは妥当であると認められる。
5 以上から、「第1 審査会の判断」のとおり判断する。
なお、医科大学の動物実験計画書については、先に述べたように、平成8年にも当審査
会において動物実験計画書の部分開示決定に対する異議申立てに係る答申を行っており、
また、今回の異議申立ての審査において、今回の異議申立てに係る請求以外にも動物実験
計画書に対する開示請求が行われていると実施機関から説明されたところである。
このように、医科大学における動物実験に関する県民等の関心が高まっていることを踏
まえた場合、医科大学においては、県が設置する試験研究機関として、適正かつ円滑な研
究活動の遂行を図ることは当然のことであるが、一方では、県が行う事務事業に係る県民
への説明責任の重要性を認識され、動物実験に係る情報公開のあり方について検討される
よう要望するものである。
第6 審査会の処理経過
別表のとおり
別表
審査会の処理経過
年月日処理内容
平成14年7月15日・諮問書の受理
平成14年7月16日・実施機関に一部開示決定理由説明書の提出要求
平成14年8月16日・実施機関から一部開示決定理由説明書の提出
・異議申立人に一部開示決定理由説明書を送付
平成14年8月20日・異議申立人に一部開示決定理由説明書に対する意見書の提出要
求
平成14年9月26日・異議申立人より意見書の提出
平成14年11月15日・異議申立ての経過等について説明
(第104回審査会)
平成14年12月20日・実施機関から一部開示決定理由の聴取
(第105回審査会)
平成15年1月24日・異議申立人から一部開示決定理由に係る意見聴取
(第106回審査会)
平成15年2月14日・審議
(第107回審査会)
平成15年3月19日・審議
(第108回審査会)
平成15年4月25日・審議
(第109回審査会)
参考
福島県情報公開審査会委員名簿
(五十音順)
氏名現職備考
稲庭恒一福島大学行政社会学部教授会長
大河内重男弁護士
垣見隆禎福島大学行政社会学部助教授
高城勤治社会福祉法人アイリス学園理事会長職務代理者
田邊眞弓郡山女子大学短期大学部教授
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