情報公開活動:

動物実験以外でもこんなにサルが死んでいる
京都大学霊長類研究所 「{実験殺以外の死亡}報告」

(AVA-net会報 2004/7-8 107号掲載)

※AVA-net事務局が情報開示請求した資料をもとに、まとめに協力したものです。
現在AVA-netは存在しません。吸収合併した団体についても活動を支持していません。


チンパンジーのアイちゃんで有名な京都大学霊長類研究所(愛知県犬山市)では、他にも数多くの霊長類を飼育し、実験に利用しています。Ava-netでは 今回、同研究所に対し、「{実験使用・実験殺・実験殺以外の死亡}の報告」という書式の2003年度分を情報公開請求しました。

これは、3つの報告書式を兼ねており、タイトルの選択肢に○印をつけて提出されるものですが、そのうちの{実験殺以外の死亡}の分は、事故死・病死などの 報告書となっています。その記載からは、多くのサル類を繁殖し、実験利用すること自体が抱える問題点が様々に浮かび上がってきます。

ぜひ動物実験の舞台裏を実感していただければと思い、途中省略しながらではありますが、死亡詳細欄・剖検所見欄等の記入の原文をそのまま転載いたします。

(途中[ ]内は筆者による注釈等です。サルの年齢は、生年月日と死亡年月日の記載より計算しました。また、■印は塗りつぶされていた箇所を表します。(46件47頭分))

◆事故死・手が抜けなくなった

◎アカゲザル(メス 5カ月)
放飼場内の高さ4~5mの止まり木のすき間に、右手を挟んで抜けなくなって、死亡した様だ。

◆事故死・ロープによる首吊り事故

◎アカゲザル(オス 4カ月)
03.11/7 朝ロープで首つりの状態で発見。回収しようと放飼場に入ったら、母親が持って逃げたので■■さんと、二人で追いかけて回収。[中略]状況より、ロープによる首吊り事故だが、肺炎所見あり。事故死。

◆事故死・麻酔銃創による出血死

◎ニホンザル(オス 9才4カ月)
11/13 3放より4放北へ移動。11/14左下腿に外傷があるのが発見された。11/17麻酔銃にて捕獲、治療。11/18ケージ内で死亡していた。1.右腹壁、胃幽門側に穿孔、及び出血。2.血様胸水の貯留、肺出血。3.実質臓器の軟化。麻酔銃創による出血死。

[注:3放、4放は放飼場の略称。第4放飼場はナショナル・バイオリソース・プロジェクト準備のための新しい放飼場。]

◆外傷に起因するもの

◎アカゲザル(オス 10才7カ月)
3/23放飼場でフラフラしているとの事で捕獲。全身に皮下、筋肉に達する傷多数。その多くは新鮮傷でなかった。治療中死亡。死因は外傷性ショックと思われる。

◆実験の失敗をうかがい知ることができる例

◎アカゲザル(オス 14才2カ月)
[研究目的]臨床膵島移植の前段階としてのサル自家膵島移植モデルの確立
2002年 5/29と2003年6/24に耐糖能試験を施行。2003年6/26に膵体尾部切除(脾も切除)して、切除した膵体尾部より膵島を分離した。術後5日目 (7/1)に薬剤にて糖尿病にして、7/4に分離膵島を経門脈的に移植することに成功した。[中略]前日(9/13)まで、特に変化なく食欲もあったが、 9/14朝ケージ内で死亡していた。耐糖能試験では、徐々に改善しているようだったが、糖尿病状態は続いており、体重も少しずつ減っていた。糖尿病性ケト アシドーシスが死因だと思われる。腹腔内は、すでに腐敗によるガスで充満しており、臓器は壊死していた。

◎アカゲザル(オス 13才)
[研究目的は上に同じ]
[中略]術後5日目(7/29)に糖尿病にするため薬剤を投与したところ、同日夕方、ケージ内で死亡していた。膵体尾部切 除後、少し元気がなかった。薬剤投与後は、薬剤による毒性を軽減するため点滴も施行したが、少し、ケージから目を離している間に死亡していた。膵断端には 凝血槐が付着しており、血性腹水を認めた。膵断端からの膵液漏による腹膜炎と薬剤の毒性が合わさって死亡したと思われる。

◆出産が原因であるもの

◎カニクイザル(メス 年齢不詳:入荷後14年7カ月)
[研究目的]霊長類の成長・発達・加齢
Timed Mating法により交配。(他に投薬などなし) 妊娠末期であったが、数日前より浮腫、食欲不振。センター後藤Dr.により治療されていたが、2/11朝、死亡しているのを発見。[中略]難産による死亡。

◆工事ストレス?

◎シロテナガザル(メス 28才11カ月)
6/3朝より床へ横になったり壁にもたれたりする。夕方麻酔、治療、夜意識消失。6/4未明、治療するも死亡。[中略]食欲低下(工事ストレス?)による衰弱死と思われる。

◆通称腹ふくれ病

[実験用に飼育されるサルは原因不明の胃鼓張症を発症して死ぬことが多く、研究者を悩ませている]

◎アカゲザル(オス 4才3カ月)
[研究目的]高次視覚機能の脳内機序の解明
モンキーチェアに慣らし、コンピューター ディスプレイに提示される視覚刺激を見ながらレバー操作をする課題を訓練した。いわゆる腹膨れ病と診断されました。8/19朝■■さんが発見。すでに死亡 していた。前日まで特に変わった様子なし。両足大腿~下肢にかけて皮下出血多数。[中略]胃膨大で消化泥状固形多量に貯留。粘膜下一部に気泡。肛門から 15~45cmの間の結腸に粘膜下出血。死因は急性胃鼓腸症と考えられる。

◎ニホンザル(メス 4才5カ月)
11/19朝、動きが悪く、腹部が大きいのではないかと報告。午後捕獲。胃鼓腸症であったため治療を行った。麻酔覚醒前に誤嚥し、死亡した。[中略]死因は誤嚥性肺炎。(一時病変として結腸穿孔による腹膜炎があった)

◎アカゲザル(オス 5才10カ月)
[研究目的]報酬や嫌悪刺激を予告する手掛り刺激に反応する帯状回細胞の研究
[中略]学習課題を訓練した後、前部帯状回から神経細胞活動を記録、解析した。朝清掃時、死亡発見。前日まで特に変わった様子はなかったとの事。前日17 時固形与えたとの事、(■■)床には口からの泡沫が少量おちていたのみ。便なし。胃膨大。消化固形物を多量に貯留。[中略]死因は急性胃鼓張症と考えられ る。

◎カニクイザル(オス 年齢不詳:入荷後14年8カ月)
2/19 衰弱、治療するも午後死亡。①胃粘膜出血、胃壁損傷②胃破裂③小腸の粘膜出血④肺の出血 急性胃拡張・胃破裂により死亡。

◆その他、さまざまな病気

◎カニクイザル(オス 年齢不詳・入荷後14年9カ月)
[研究目的]霊長類の発達・加齢
使用せず(交配用として飼育していたが、最近は交配には使用していない)
3/17(水)食欲不振、顔面蒼白 3/18(木)横臥、食欲不振→センター入院 X-RAY撮影(肝臓裏に影あり) 3/19(金)開腹手術(脾腫大・貧血) 3/20(土)8:00死亡確認
1、脾腫 2、肺充・ウッ血、菌血症(敗血症)による死亡

◎ニホンザル(ヤクザル メス 28才2カ月)
[研究目的]老齢ザルの認知機能に関する研究
本棟4階実験室にて、WGTAによる学習・記憶の行動実験。5/30より入院。治療中。6/3死亡。肺の出血、うっ血。脾臓嚢胞。

[注:WGTAは、Wisconsin General Test Apparatus。悪名高きハリー・ハーロウが発明した]

◎アカゲザル(メス 21才10ヶ月)
2年前より入院中。無処置。2/16死亡。①肝嚢胞破裂により死亡。肝出血。腹膜炎③小腸~盲腸出血

◎アカゲザル(メス 11才9カ月)
3/31衰弱、収容、治療するも死亡。胸、肺膿瘍。

◎ニホンザル(メス 2才3カ月)
パートさんから倒れているとの連絡を受け、個別ケージに収容。かべにもたれて肩で大きくヒュー ヒューと息をしていたが、突然倒れて水溶の嘔吐を大量にした。頭がけいれんした様に動いていたが、次第にそれもなくなり、瞳孔が開き、呼吸も停止。心臓も 停止した。[中略]死因:①腸捻転による腸閉塞。②肺炎

◎アカゲザル(メス 生年月日欄空欄にて年齢不詳)
10:00 放飼場内で死体発見。盲結腸の粘膜出血および鞭虫寄生、胃粘膜下の出血性変化、眼球陥没、出血性腸炎による死亡。

◎ニホンザル(メス 29才4カ月)
朝、清掃時、死亡しているのを発見(■■さん)。固形全残。昨夕■■さんの与えたリンゴはたべてあった。床に泥状嘔吐物多量。ウサギ便。[中略]何らかの感染症が疑われる。

◎ニホンザル(メス 3才4カ月)
第一放飼場で10月10日(金)に「元気がない」ということで、施・10に入院した。10月12日(日)午前に死亡。[中略]胃内には大小5個の毛球あり。死因:胃内毛球の穿孔による腹膜炎。

◎ニホンザル(ホンドザル メス7才)
4/22 午前のエサすべて残。リンゴはすぐたべたとの事。うつぶせになる。4/23 死亡していた。茶褐色の腹水多量に貯留。毛球が胃内に3コ、十二指 腸に1コあり、幽門から5cmのところに3×1.5cmの穿孔があり、その周囲の粘膜は脱落。左葉右葉に線維性のゆ着少し。右肺は不均一に桃、赤、暗赤色 示す。死因は、毛球による十二指腸裂孔に起因した腹膜炎と思われる。

◆幼少個体の死亡 衰弱、病気、外傷、育児放棄など

◎ニホンザル(性別空欄 生後15日)
8/17午前中母親(1584)ではなく1131が死体を抱いていた。

◎ワタボウシタマリン(オス 2カ月)
双仔の片方は(207)正常そうな大きさで毛並もしっかりしているが、この個体は頭部以外は無毛に近く、いつも空腹そうな様子で、ミルク付きバナナを補充していた。8日夜までは親に背負われていたが、9日朝は衰弱して親が(ママ)れていた。尾の先端1cmくらいが赤黒く壊死。右上腕肘部に皮下出血少し。膀胱内に尿多量に貯留。胃内容なし。腸管内には、消化されたミルクやバナナが入っていた。肺、心、肝、脾、膿、腎変化なし。死因 栄養不良による衰弱。

◎ニホンザル(ホンドザル メス 生後1日)
[研究目的]霊長類の比較生化学的研究
死亡個体より臓器を採取した。若桜群の母ザルより離して来た時は元気だったので、2時頃にタオルで保温して置いた。4時頃元気なく死亡。脳内と内臓に出血見える。

[疑問:なぜ親と引き離したのか?]

◎コモンマーモセット(メス 生後4日)
9月16日(前日)の朝も親から離れてケージの網の上にいたが、その後は親に付いていた。9 月17日の朝は親に付いていたが、午前11に頃にはケージの網の上に放置され、呼吸状態が悪くなっていた。保育器へ収容したが、14時に死亡した。腹位膨 満。外傷なし。口の囲りに嘔吐物附着。胃内にミルク多量あり。[中略]死因;肺炎と思われます。

◎コモンマーモセット(オス 生後1日)
気がついたとき(16日)には、ケージの網の上に親から離れて落ちていた。保温して親が抱きに来るのを待ったが、翌日には死亡していた。[中略]死因;衰弱死、育児放棄。

◎コモンマーモセット(オス 生後0日)
パート(■■さん)から連絡を受け、ケージ室内に倒れていた所を収容。肺に含気、諸臓器に著変なし。頭蓋内出血、頭蓋骨の一部が陥没。頭蓋皮下出血。外傷により死亡。

◎マントヒヒ(オス 生後3日)
掃除、餌やりの為、ケージ室に行った所、母親が両手で抱いていたが、手足に力はなく、ぶら下がった状態になっていた。胸部に2ヵ所直径1cmの筋層に達す る裂傷。胸部から背中へ一周するように皮下・筋肉内出血。右第3、4肋骨骨折。胸腔内出血。胃内に凝固したミルク。頭蓋骨が粉砕骨折。脳融解。死因は胸部 外傷。頚部骨折は死後起こったもの。

◎アカゲザル(メス 生後5日)
朝、ケージ室の掃除をする為に行った所、母親(Mm1465)が、逆向きに抱えていた。手足に力が無く、すでに死亡していると思われたので、追いかけて落とさせ収容した。[中略]頭蓋骨折、脳挫傷により死亡。(外傷死)

[その他、母親が死体を抱いていたケースがニホンザルで3件、アカゲザルで2件あった。]

◆流産もしくは死産

◎コモンマーモセット(性別不明 流産もしくは死産)
剖検せず(保存しておいてくれた死体を探し出せなかった。その後乾燥してしまった)

◎アカゲザル(性別空欄)
出生は数日前か? 発見時少し融解気味。剖検不可。流産or死産。

◎コモンマーモセット(性別不明 死産)
頭部を残し、他は喰われていた。

◎ワタボウシタマリン(性別不明)
朝の清浄時にパートさんより連絡をもらい、見に行った所、ケージ内の床に落ちていたところを収容。下顎、右腕、骨盤以下下肢が欠損。他個体にかみちぎられた様。[以下略]

◎マントヒヒ(オス)
11:00ごろグループケージで母Ph.79が死体を持っているのを発見。回収後検死。無気肺。流産。

◎コモンマーモセット(オスおよび性別不明の2頭 死産)
c.j.[注:コモンマーモセットのこと]-39♀は、死産の3日前になかりの出血があった。1匹は頭部を残し、他は喰われていた。[以下略]

[他にニホンザルの流産・死産 6件、ワタボウシタマリン1件があった。]

以上、記載の原文です。詳細を読むのが辛い部分もあったかもしれませんが、実際の写しを見ていていると、もしかしたら詳しく書いてある場合の方が、個体へ の関心や研究心をまだ持ち合わせている人なのかも知れないとも感じました。「※各項目は必ず記入(不明の場合はその旨を)」と書かれているにもかかわら ず、書けるはずの欄で記入がないものも多くありました。

また、流産・死産に関しては、推測でしかありませんが、割合としては高いものがあるのではないでしょうか。さらに、今回とても悲しく感じたのは年齢の計算 でした。幼くしてなくなるサルたち、また逆に30年近くにわたる幽閉生活を送ったサルたち。一緒に暮らしていたのかどうかは不明ですが、1989年6月 20日・22日に入荷され、霊長研で14年もの歳月を暮らした3匹のカニクイザルが、1カ月ほどの間に立て続けに死んでいたのも悲しい記録でした。

実験使用・実験殺の場合だけではなく、ただ研究所で暮らすだけで死んでいくサルたちのこともぜひ忘れずにいていただければと思います。

京都大学霊長類研究所ホームページ
http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/index-j.html
サル類飼育頭数・動態の統計は「霊長類研究所年報」に毎年掲載されています。
 
 

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