岡崎国立共同研究機構 動物実験計画書等
内閣府情報公開・個人情報保護審査会:
岡崎国立共同研究機構における動物実験計画書等の一部開示決定に関する件
http://www8.cao.go.jp/jyouhou/tousin/010-h14/502.pdf
諮問庁:岡崎国立共同研究機構長
諮問日:平成14年12月25日(平成14年諮問(行情)第555号)
答申日:平成15年3月11日(平成14年度答申(行情)第502号)
事件名:「岡崎国立共同研究機構における動物実験計画書等の一部開示決定に
関する件」
答 申 書
第1 審査会の結論
岡崎国立共同研究機構(以下「機構」という。)における動物実験計画
書及び納品書(平成13年度分及び平成14年度分)(以下「本件対象文書」
という。)につき,一部を不開示とした決定は妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
1 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律
(以下「法」又は「情報公開法」という。)3条の規定に基づく本件対象
文書の開示請求に対し,平成14年8月19日付け岡機構庶第1-87号
により岡崎国立共同研究機構長が行った一部開示決定について,本件対象
文書における不開示部分のうち「動物の入手先」について開示を求めると
いうものである。
2 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書の記
載によると,おおむね以下のとおりである。
(1)機構は国立機関であり,実験動物や備品,検査機器等の購入については
相見積を始め,適切な手続,処理が義務付けられている。したがって,こ
のような情報が公開されなければ国民は適正に税が使われているかどうか
を判断できないことになる。
実験動物の業界団体が,動物の入手先を公開しないよう圧力をかけてい
るとのことであるが不当である。公的機関と業者間の取引が公正かつ適正
なものであるならば,非公開とする理由はない。
また,機構は「一部の動物実験反対運動者から,不当な圧力を受けるお
それがある」としているが,公開するとなぜ圧力を受けるのか因果関係が
不明である。
(2)飼い猫を違法に捕獲し,実験用に売却している業者の存在が,新聞記事
などのメディアを通して問題となっている。このような事実が存在するか
らこそ,その情報の公開を求めているのである。ネコを多数実験用に使用
している機構は,入手先を明らかにする社会的責任がある。
(3)ニホンザルの入手に関しては,新聞記事などの事例のように,多くの実
験施設がサルを媒体とした犯罪に無意識とはいえ加担していたという事実
は否定できない。ゆえに動物の入手先を明らかにする必要がある。
(4)国立大学医学部長会議第8小委員会が,平成13年8月20日付けの文
書において「動物の入手先について,特定個人,機関,法人等に不利益が
生じることが明らかであれば,不開示とすることはやむを得ない。」とし
ているが,機構は不利益が生じることを,具体的に立証しなければならな
い。
なお,同小委員会の文書には,各研究機関を拘束する権限や法的根拠が
あるわけではない。動物の入手先をすべて開示している国立大学も存在す
る。
行政文書は原則公開されなければならず,不当な圧力を受けるおそれが
あるという程度の漠然とした理由で非公開とすることは許されない。
第3 諮問庁の説明の要旨
1 異議申立ての対象及び不開示とした理由について
本件異議申立ての対象となった不開示部分は,本件対象文書である①機構
の全研究部門におけるイヌ,ネコ及びサルを使用した実験計画書における動
物の入手先並びに②実験動物の購入に伴う納品書(平成13年度及び14年
度直近まで)における民間事業者である納入業者の名称及びその業者が特定
される部分(以下両者を併せて「納入業者名等」という。)である。
本機構が,開示請求対象文書に記載された納入業者に意見照会をした結
果,すべての納入業者から,適正な事業の遂行や会社の存続に支障を及ぼす
おそれがある等の理由により開示に支障ありとの回答があった。これらの納
入業者が抱く危惧は,次に示すような最近の事件や業者自身の経験を考慮す
ると,現実に起こり得るものであると考えられる。
平成13年に英国において実験動物を取り扱う特定の企業が,特定の動物
実験反対運動団体の強い圧力を受けて倒産の危機に瀕し,その後も同企業に
執拗な攻撃が続いている事例がある。
また,この動物実験反対運動団体の日本支部が設立されたことや平成14
年6月には,我が国においても,同団体の関係者がいくつかの国立大学及び
私立大学の動物実験施設へ不当な方法で侵入し,研究施設の了解を得ずに写
真を撮影したり,資料を持ち出したりしてインターネットで公開するという
事件が発生し,被害届けも出されている。
実験動物の協同組合から,平成13年6月5日付けで国立大学動物実験施
設協議会にあてた文書において,前記の英国企業の事件を引用しながら,「貴
大学において情報公開の下に「動物実験計画書」等が開示の対象となった場
合であっても,貴大学への動物入手先につきましては「不開示」としていた
だきたくお願い申し上げます。」(抜粋)との意見を公式に表明している。
さらに,同組合からは,平成14年11月25日付けで本機構長にも同趣
旨の要望の文書が提出されたところである。
今回の開示請求については,法13条に基づき納入業者に対して意見書の
提出を求めたものであり,すべての業者から適正な事業の遂行や会社の存続
に支障を及ぼすおそれがある等の理由により開示に支障があるとの回答を
得た。
これらのことからも,納入業者の危惧を否定することはできないと考えら
れるので,実験動物を扱う民間の納入業者の情報を公開することにより,当
該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,
納入業者を特定できる情報については,法5条2号イに該当するものと判断
し,不開示としたものである。
2 異議申立人の主張について
(1)ネコの入手先について
本機構はネコに限らず実験動物の納入については適法,適正に行ってお
り,納品書については,国公立機関名を含め民間の納入業者名等を除いた部
分についてはすべて開示を行った。
(2)サルの入手先について
本機構が納入業者から入手したニホンザルの納品書はすべて存在してい
る。また,法律で定められた有害鳥獣駆除により捕獲された野生由来のサル
については,全個体について愛知県より鳥獣飼養許可証を取得している。し
たがって,すべての個体は適法に取得したものである。
また,野生由来のみならず,すべてのサルの導入に当たっては,専門機関
及び機構の担当獣医師らにより,Bウィルス,サルモネラ菌,赤痢及び結核
などの項目について検疫を実施しており「岡崎国立共同研究機構における動
物実験に関する指針」に従って,公衆衛生に十分配慮している。
(3)その他
国立大学医学部長会議第8小委員会の平成13年8月20日付けの委員
長名の文書「各大学に対する開示要求について」においては,「実験動物全
体の入手先一覧表(種類,頭数を含めて)」について,「一覧表が作成され
ていれば,それを開示する。ただし,作成されていても,入手先開示により
特定の個人,機関,法人等に不利益を生ずることが明らかであれば,不開示
とすることはやむをえない。」と方針が示されている。
また,平成14年6月11日付け情報公開審査会の平成14年度答申第5
7号(平成13年諮問第239号,東北大学医学系研究科附属動物実験施設
における動物実験計画審査願等の一部開示決定に関する件)において,使用
動物の入手先について「国公立の機関名及び開示に支障がないとしている実
験動物を扱う民間事業者の法人名については,開示すべきであるが,それ以
外の実験動物を扱う民間事業者の法人名については不開示が妥当と判断す
る。」と判断されているところである。
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
①平成14年12月25日 諮問の受理
②同日 諮問庁から理由説明書を収受
③平成15年1月23日 異議申立人から意見書を収受
④同年2月20日 諮問庁から意見書を収受
⑤同月21日 本件対象文書の見分及び審議
⑥同年3月6日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件対象文書は,①機構の全研究部門におけるイヌ,ネコ及びサルを使用
した実験計画書29件,②実験動物の購入に伴う納品書118件(平成13
年度分106件及び同14年度分(同年4月1日から7月18日まで)12
件)である。
本件異議申立ては,不開示とした部分のうち,実験動物の入手先である納
入業者等について開示を求めるものであることから,以下この点について検
討する。
2 不開示情報該当性について
実験動物の納入業者名等については,平成14年度答申第57号(平成1
3年諮問第239号)において,次のとおり判断したところである。
実験動物の入手先のうち,実験動物を扱う民間事業者の半数以上の者
から,その法人名の開示について,強い反対意見が示されているところ,
これらの反対意見が企業の正当な利益を害されるおそれを現実の可能
性としてとらえていることを考慮すると,その危惧を否定することはで
きない。
また,現に英国において実験動物を取り扱う特定の企業が,過激な動
物愛護団体等の圧力を受けて倒産の危機に瀕したこと等にかんがみる
と,当該法人の権利競争上の地位その他正当な利益を害されるおそれが
あることを否定できないことからも,これらの民間事業者の法人名は,
法5条2号イに該当するものと認められる。
一方,国公立の機関名については,その名称や事業内容は,既に公に
されているものであり,実験用動物の供給を停止するに至るとは認めら
れず,法5条6号に該当しないものと認められる。
なお,実験動物を扱う民間事業者のうち,開示に支障がないとしてい
る事業者については,当該事業者の事業内容及び事業規模等から,正当
な利益を害されるおそれがないと判断しているものと考えられ,その法
人名は,法5条2号イに該当せず,また,これを公にしても当該事業者
が実験用動物の供給を停止するに至るとは認められないため,同条6号
にも該当しないものと認められる。
したがって,国公立の機関名及び開示に支障がないとしている実験動
物を扱う民間事業者の法人名については,開示すべきであるが,それ以
外の実験動物を扱う民間事業者の法人名については不開示が妥当であ
ると判断する。
本件における納入業者名等の不開示情報該当性を検討すると,本件対象文
書に記載されたすべての納入業者から開示につき強い反対意見が示されてい
る。その中には,具体的な業務上の支障等開示された場合の具体的な不利益
が挙げられていることから,納入業者名等を公にすると納入業者の利益を害
されるおそれがあることを否定することはできない。
したがって,本件対象文書における納入業者名等の不開示情報該当性につ
いて,上記の判断を変更すべき特段の事情は認められず,実験動物の入手先
である納入業者名等は,法5条2号イに該当するものと判断する。
3 異議申立人のその他の主張について
異議申立人は,実験動物の違法入手等について種々の主張をしているが,
いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。
4 本件一部開示決定の妥当性
以上のことから,本件対象文書につき,法5条2号イに該当することを
理由に納入業者名等を不開示とした決定は,妥当であると認めた。
第6 答申に関与した委員
吉村德則,高木佳子,戸松秀典
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