先日、「生物多様性国家戦略2012-2020」が閣議決定されたというリリースが、環境省から出ました。
「生物多様性国家戦略2012-2020」の閣議決定について
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=15758
このブログで生物多様性って書くと、「ああ、あれでしょ? 遺伝子組換えでしょ?」って思われそうですが^^;、それだけではなく、動物愛護全般も国の生物多様性保全の取組みの中でちゃんと位置づけられておりまして。(日本じゃ、動物愛護法自体が環境省自然環境局の所管ですし……無視するわけにもいかないのでありましょう)
それで、今回閣議決定された国家戦略の後半は、今後5年間に国が取り組むべき具体的施策がてんこ盛りに挙げられているのですが、201ページにこのように書かれているんです。
[ぴかぴか(新しい)]じゃ、じゃーん![ぴかぴか(新しい)]
実験動物を含む飼養動物については、逸走防止などの観点から、法令を適切に運用するとともに、普及啓発を推進します。(環境省)
「逸走防止など」の「など」に動物福祉の観点もぜひ入っていてほしいものですが、目的はどうあれ、実験動物のこともきちんと国家戦略として「やる」と環境省が言っているんですよね。
しかも、実はこれ、今回の改訂前からずっと入っているのでね。「なのになぜ法整備しない?!」と突っ込みたいところではありますが、今後5年間、ぜひキッチリやっていっていただきたいものだと改めて思っている次第です。
ちなみに、NPO法人地球生物会議ALIVEにて、担当者として呼びかけ文を書かせていただきました、この生物多様性国家戦略改定へ向けたパブリックコメントの結果ですが、以前のバージョンから削除されていた以下の部分は、復活していました。意見を送ってくださった皆様、環境省の皆様、大変ありがとうございました。
また、家畜化されていない野生由来の動物の飼養については、動物の本能、習性及び生理・生態に即した適正な飼養の確保が一般的に困難なことから、限定的であるべきです。  (193~4ページ)
これ、野生動物と人間の関係のあり方として基本だと思うんですよね。このことを国が明確にしてくれているということは、本当にありがたいことです。
閣議決定版は白黒のそっけないドキュメントですが、出版されるのはフルカラー・図表つきとのことです。


今ごろ公開してもですが、私が送った意見です。
[4] 該当箇所及び意見
<意見の該当箇所>
48ページ 25行目~
3 野生生物の保全・管理に関する取組
及び
217ページ 28行目~
2.3 ワシントン条約
(具体的施策)
<意見>
種の保存法については、違法取引に対する実効力に欠ける点に
ついても述べるべきである。
また、行動計画の中で、同法の改正を明示するべきである。
<理由>
種の保存法は、ワシントン条約付属書IIに掲げられた種の取引に
対して何ら規制がないなど、野生生物の違法取引に対して
実効力を欠く法律であり、長年、法改正が望まれてきた。
生物多様性の保全戦略において重要な役割を持つ法律でもあり、
法改正による実効性の担保を、行動計画の中に掲げるべきである。
————————————————–
<意見の該当箇所>
50ページ 17 行目~
4 東日本大震災からの復興に向けた取組
及び
242ページ 9行目~
2 原子力発電所事故への対応
(具体的施策)
<意見>
警戒区域内に取り残されたペットについての記述はあるが、
家畜についての言及がない。緊急時は、家畜についても速やかな
退避が必要であることについて触れ、今後の対策へ向けた検討を、
行動計画の中に盛り込むべきである。
<理由>
家畜の速やかな退避が行われなかったために、餓死等の悲惨な
事態が起きただけではなく、ブタとイノシシの交雑など、生物多様性に
関わる問題も起きた。緊急時には、家畜についても速やかな対応を
行えるよう、日ごろからの検討が必要である。
————————————————–
<意見の該当箇所>
76ページ 28行~
【生物多様性に配慮した消費行動への転換】
「食料や木材など多くの自然資源を輸入し、利用する私たちの
消費行動が、輸出国の生物多様性の恩恵の上に成り立っている
ことを認識し……」
<意見>
・日本が輸入しているものとして、「飼料」を追加する。
・輸出国の生物多様性の「恩恵」だけではなく、「破壊」や「喪失」の
上に成り立っていることを明記する。
<理由>
日本は、穀物飼料のほとんどを輸入に依存しているが、それらの輸出国では
大規模・単一栽培化が進んでいる。また肉類の自給率は4割~7割だが、
輸出国では、集約的畜産の拡大によって、生物多様性が失われている。
日本人の食生活が、世界の生物多様性の破壊・喪失とつながっていることを
意識させるべきである。
————————————————–
<意見の該当箇所>
80ページ 5行目~
【生物多様性の保全に貢献する農林水産業の推進】
及び
204ページ 1行目~
(持続可能な利用)
第4節 農林水産業
1 農林水産業と生物多様性
<意見>
・畜産業に関する記述がない。
集約的な工場畜産が、生物多様性にとって脅威であることを明記し、
持続可能な放牧型畜産への転換が必要であることを盛り込むべき。
・また、伝統的な日本の食生活を見直すなど、私たちの食生活を
変えていく必要があることについても触れるべき。
<理由>
集約的な工場畜産は、家畜種の多様性を失わせるだけではなく、
土地開発による直接的な自然破壊や、メタンガス等の排出による大気汚染、
排泄物による土壌汚染、抗生物質等の濫用による影響などを通じて、
生物多様性に対する大きな脅威となっている。
「生物多様性の保全に貢献する農林水産業の推進」を語る際に
欠かすことはできないこの問題について一切記載がないのは
問題であり、国家戦略として工場畜産からの脱却を掲げることが
重要である。
また、動物福祉の観点からも、放牧型畜産への転換について記載を
すべきである。
私たちのライフスタイルの問題であることについて
消費者に自覚を促す必要があり、食生活の見直しについても
述べる必要がある。
参考:
国連食糧農業機関(FAO)調査報告書
“Livestock’s long shadow”
http://www.fao.org/docrep/010/a0701e/a0701e00.HTM
日本語参考記事
http://www.alive-net.net/world-news/wn-farm/73-3.html
ワールドウォッチ報告
Happier Meals: Rethinking the Global Meat Industry
http://www.worldwatch.org/node/819/
————————————————–
<意見の該当箇所>
186ページ 17行目~
3.2 学校外での取組、生涯学習
(具体的施策)
「動植物園、水族館、自然系博物館などについては……」
<意見>
動物園、水族館については、そこに飼育されている動物の
福祉向上のためにも、更なる改善が必要である。
自治体の動物愛護行政による指導監視の強化や業の取消しなど、
劣悪施設の改善・排除を目的とした施策についても盛り込むべきである。
<理由>
正常な行動が発現できていない動物を見せても教育効果は期待できず、
間違った知識を与えることになる。そのことは、ひいては生物多様性の
理解の阻害となるものであり、「博物館活動の充実」をうたうので
あれば、動物福祉の向上についても国家戦略に掲げ、
真剣に取り組むべきである。
————————————————–
<意見の該当箇所>
198ページ 1行目~
3 動物の愛護と適正な管理
3.1 動物の適正管理の推進
(具体的施策)
<意見>
・生物多様性国家戦略 2010に書き込まれていた以下の部分が
削除されているが、非常に重要な考え方を示す部分であるため、
復活させるべきである。
「家畜化されていない野生由来の動物の飼養については、
動物の本能、習性及び生理・生態に即した適正な飼養の確保が
一般的に困難なことから、限定的であるべきです。」
・上記の考え方に基づき、特定動物(危険動物)や
野生由来のエキゾチックアニマルに関しては、愛玩目的の飼育を
禁止とするなど、より一層の規制強化を行うべきである。
<理由>
野生由来の動物の飼養は、基本的に行うべきではないものであるにも
関わらず、多種多様なエキゾチックアニマルが安易に販売されている。
珍しい動物を求めるマニアの行動は、原産地の生物多様性にとって
脅威となるだけではなく、密猟・密輸などの犯罪にもつながっており、
野生動物の愛玩飼養については、原則禁止とするなど厳しい制限を
設けるべきである。
特に特定動物については、種の選定の幅を広げ、全体的な規制強化を
行うとともに、飼育環境の改善によって動物福祉を向上させる施策が
必要である。
————————————————–
<意見の該当箇所>
198ページ 1行目~
3 動物の愛護と適正な管理
3.1 動物の適正管理の推進
(具体的施策)
<意見>
飼育動物の遺棄は、犯罪であるとともに、生物多様性にとっての
脅威でもある。普及啓発だけではなく、取締りについても
国家戦略として取り組むべきである。
<理由>
明らかに意図的に遺棄されたケースや、物証がある場合でも
警察が動かない現状があり、改善されるべきである。
————————————————–
<意見の該当箇所>
201ページ 13行目~
2 遺伝子組換え生物等
(具体的施策)
及び
210ページ 9行目~
1.1.6 遺伝子組換え生物等の使用等
(具体的施策)
<意見>
遺伝子組換え動物の苦痛の評価、福祉の向上についても、
取り組むべきである。
また倫理的観点から、動物に対する遺伝子操作、ヒト化等に
対しても規制を行える体制をつくるべきである。
<理由>
日本は、遺伝子組換え動物の苦痛軽減等に対して何らの政策的
取り組みがない。
また、倫理的に問題があるのではないかと思われる遺伝子操作
であっても、動物というだけで自由に行える状況は問題である。
————————————————–
以上