文部科学省:ライフサイエンス委員会
実験動物指針についてとりあげられるということで、文部科学省の第66回ライフサイエンス委員会を傍聴してきました。「前回の委員会で報告したので今回は簡単に」とのことで、確かに指針についてはあまり時間はとられなかったのですが、この部分は非常にストレスたまりましたね~。
だって、日本の研究者って、全然わかっていないというか、まだこのレベルなのかと。
実験動物の取扱いについて、「何かペットを虐待するような話と一緒にされている」と発言した人が二人くらいいたのですが、「何を勝手なことを言ってるの、この人たちは?」と思わざるを得ません。
そもそも日本に「動物の保護及び管理に関する法律」(現:動物愛護法)ができたのは、日本の実験動物の取扱いがあまりにひどいということがイギリスで写真つきで報道され、エリザベス女王が来日するのに動物を保護する法律がないのはまずいとして、急遽成立の日の目を見ることになったからです。
このことは当時の国会の質疑にも残っています。(日本の国会ですよ)
当時たった13条の法律だったとはいえ、動物の科学上の利用についての条項がひとつあったのは自分たちのせいだというのに、今ごろ動愛法が実験動物に関係ないとか、何?
それで、「欧米諸国と違って、日本には動物実験を規制する法律がない」と指摘すると、「いやいや動物愛護法で規制されてます!」とか二枚舌を使うのが日本のライフサイエンス関係者です。
一体、どっちなんですか。(笑)
(動物愛護法は「動物実験」ではなく「実験動物の取扱い」を扱っているというのが政府の公式のスタンスだから、「動物実験」を規制する法律はいまだに日本にはないことになりますね。私はこの二つは一緒にやるべきだと思うけど。)
それで、文科省の説明は、大学と独法等に対して行った昨年のアンケートについてでした。指針が守られていないことがわかった機関からは、すべて今年(平成24年)の3月末時点で対応を行ったという報告を得ているそうです。説明会については今後もやる。
ちなみに、終わってから聞いてみたところ、全ての機関が基準の遵守を行ったというのは、以下の項目全てについてだそうです。
機関内規定の策定、動物実験委員会の設置、動物実験計画の承認/却下の実施、機関長への報告等、教育訓練の実施、自己評価の実施、情報公開の実施
ホームページで情報公開されていないところについては、来訪者が見ることができるところに設置するなどの対応がとられているはずとのことです。
委員との質疑応答は……
Q.前回の経緯の説明でされた、動物愛護法改正で動物実験について強化するという話は、どういう方向になったか。
A.調査のきっかけには動物愛護法の見直しがあった。環境省の検討会の報告書が出ており、届出制と、3Rの原則のうちの代替と削減について義務化するべきではないかという点については、両論併記で結論が出なかった。現在、民主党にワーキングチームができ、議論されている。すでに議員主導となっており、さまざまなルートで情報は得ているが、確たる方向性は出ていない。届出制を肯定する意見も多い。
Q.届出制が生命科学に著しく影響するということで、各学会も反対意見を出している。パブコメは圧倒的だったが、多くは学術団体ではない。法律は整備して(注:ここは法令の間違いでしょう)、自己評価、他己評価を行っている最中であり、問題が起きているわけではない。法律をつくる議論としても適当ではない。文科省のほうから言っていただくことはできないか。
A.民主党の2月末の省庁ヒアリングに呼ばれ、その中で説明したところ。ただ、兵庫県ではすでに10数年前から届出制が導入されており、学問が阻害されていないからいいのではないかという話があった。既に行政府での議論からは離れている。
Q.製薬においては必ずだし、生物科学でも、サイエンスというのは、動物というブラックボックスを使わないといけない。どんどん動物を使わなくちゃいけないのに、一方で使わないと言うのはどうなのか。ペットの虐待であるとか、自然の動物が犠牲になっていることと、ごっちゃになっているのではないか。そこを分けて議論しなければならない。
A.議論をされている中には、混ぜている人も分けている人もいる。両方がわかった人間が判断しないといけないということで指針がつくられている。私たちは分けているところだが、一緒になっている人もいる。
Q.実験動物が大事だということが、第4期科学技術基本計画の中に書かれていればよかったが、書かれていない。5期になったら、重要性について書いていただきたい。ペットと一緒に議論されていることを分けて、筋が違うので、内閣府も巻き込んでぜひ検討してほしい。
:
だいたい以上です。
前回の議事録も既に公開されているので、きっとしばらくすれば発言者つきの議事録が公開されることでしょう。
ライフサイエンス委員会
http://www.lifescience.mext.go.jp/council/committee007.html
それにしても、最後のは呆れました。日本の科学者は、海外の動向をきちんと把握した上で発言しているのかしら?
実験動物の重要性について、もし科学技術基本計画を書き込みたいのなら、動物実験を代替する方向性についても、きちんと科学技術政策の中に書き込んで取り組むべきです。
EUで動物実験代替法についての予算やプロジェクトが多いのも、きちんと科学技術政策の中に動物実験の代替が含まれているからです。
現行の計画:
Seventh Framework Programme (FP7)
http://cordis.europa.eu/fp7/home_en.html
日本語:
EUの第7次研究枠組み計画(FP7)
http://www.deljpn.ec.europa.eu/modules/programme/fp7/
次期:
Horizon 2020
http://ec.europa.eu/research/horizon2020/
とはいえ、この日のライフサイエンス委員会の後半は、「ヒトの系を直接に扱えるようなあたらしいものをつくっていきたい」とか、「動物で得られた知識は、本当に人間にもあてはまるかわかりません」とか、ヒトのデータで直接研究することの重要性について結構議論がされていたので、「な~んだ、ちゃんと日本もわかってるのね」とほっとしましたけど…。
バイオインフォマティクスも、バイオバンクも、イメージングも、私にしたら、動物実験代替法につながるものなんだけどなあ。
あと、ちょっと共感した意見もありました。
・生命科学が応用に使えるのかどうかは、仮説の域は出ない。
・今研究されているものの中には、医療費を爆発的に増やすようなものがある。このことを議論しないでいいのか。逆に医療費を抑制するような、本質的に優れたもの、疾病の原因に迫るようなもの(例えばピロリ菌)に力を要れてほしい。
それから、「第4期科学技術基本計画を踏まえたライフサイエンス委員会における研究開発促進方策 目次案」なるものが公開されていました…。委員の意見は出てたけど、こういうのって、国民の意見は反映されるのかしら?
「もっと簡単に出口(どんな輝かしい結果が得られるかということ)がわかるように書くべきだ」という意見もありましたが、研究費は血税から出ているのだから、大風呂敷を広げて国民をだますような表現がいいとはとても思えません。ちゃんとそういうことを言っている科学者だっているのに、どうしてこの時代にそんな話になるのか……。
動物実験のことといい、前時代的な印象操作に固執する科学者が日本の科学を滅ぼすような気がします。