ユネスコで「宣言された」として日本でも紹介されている「動物の権利の世界宣言」ですが、少し前から、動物実験関係の方が、「あれはユネスコの公式な文書ではない。会議場の前に活動家が集まって勝手に宣言しただけだ」と発言されたりしています。

何となく聞き流していましたが、これ、何とウィキペディアの「動物の権利」の項目にまで書き込まれているんですね。ビックリ。

こんなコアなことにこだわって書き込む実験関係者、一体誰ですか(笑)。

私も正確なところを調べきったわけではないので、エントリのタイトルを「(仮)」とさせていただきましたが、確かにこの宣言は、ユネスコの総会で正式に採択された宣言ではないのだろうと思います。少なくともユネスコのサイトの一覧には載っていません。

ただ、「活動家が本部前に集まって勝手に宣言しただけ」も、誤りだと思います。

日本語文献では青木人志さんの「動物の比較法文化」(有斐閣・2002)が詳しいですが、海外の文献でも、1978年10月15日、ユネスコ本部のメインホール(第一会議場のことだと思います)で公式に発表されたことが書かれています。(例:論文と、その引用元記事
ただ、「1990年の改訂版についてもユネスコにsubmitted toされた」という表現が用いられているので、両宣言とも提出されただけで採択されたわけではないことがうかがえます。

フランス語文献にあたられている青木先生は、「付託された」と訳されているので、ユネスコの正式な採択へ向けた手続きには乗ったということなのではないかと思いますが、私も調べきれていないので、ぜひこういったテーマを選ばれている研究者の方に正確なところを調べていただければと思い、ちょっとブログに書いてみました。

正式な宣言ではないことで、活動家の方はがっかりされるかもしれませんが、ユネスコで正式に発表できるということはものすごいことだったからこそ、歴史に残る宣言として、今も語り継がれるのだと思います。

ちなみに、動物の権利に関わる宣言は、他にもこれまでいろいろと作られてきており、現在も、「世界人権宣言」採択の100年後である2048年の採択を目指すとしてキャンペーンをしている団体もあります。

それだけ動物版は厳しい状況とはいえますが、ただ一つ言えるのは、「世界人権宣言」も、書かれている内容が現時点で実現されているわけでは全くないということです。むしろ、世界の現実は真逆でしょう。採択すればその日を境に世界がこのように180度変わると思って採択されたわけではなく、ここを目指さなければいけないという思いが高まったからこそ採択されたのでしょう。

動物の権利版も同じことで、世界の現実は追いついていなくてもいいのです。ただ、そこを目指すべきという人々の思いが高まり、合意に至れば採択は不可能ではないでしょう。

ちなみに、動物の福祉宣言の国連採択キャンペーンもあり、これは既にOIEなども賛同しているものなので、実現度はもっと高いのかもしれません。

参考:
青木先生の本の該当部分です。傍線部の「宣言された」は、宣言として採択されたという意味ではなく、「読み上げられた」に近い意味だと思われます。また、この後の部分で、動物実験関係者からの激しい反発があったことなどが、少し詳しく書かれています。今も昔も、反応する人は同じなんですね……。

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動物の比較法文化―動物保護法の日欧比較 (一橋大学大学院法学研究科叢書)

動物の比較法文化―動物保護法の日欧比較 (一橋大学大学院法学研究科叢書)

  • 作者: 青木 人志
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2002/03
  • メディア: 単行本